[ NEW ! ] 夏の宵、君と共に在ろう

夏の宵、君と共に在ろう
[リリカルライフのススメ]

[1]

五月の初旬から中旬にかけて。
急に蒸し暑い日が増えてきた。
我が家にはクーラーがない。
宵の口の少し前、窓を開け放ち、少し気の早い蚊取り線香を焚く。
白い下着のシャツと、白ブリーフ。
まだ二十歳のぼくには似つかわしくないだろうか。
ただ自分では、特に気にしたこともない。

夕陽がレースのカーテン越しに眩い。
なぜレースにしたのかはわからない。
たぶん、安かったのだろう。
もうそれさえも忘れ去っている。

あの子が出て行ってから、もう三ヶ月になる。
未だに心を巣食う、後悔の念。
あの時あの子を、共に暮らしていたあの子を、無断欠勤くらいであんなにも責めなければ、或いは僕達の暮らしはまだ安泰だったのかもしれない。
それでも、言わずにはいられなかった。
頭が沸騰したのだ。
社会人で無断欠勤だなんて、あるまじきことだと思った。
そんな僕は、あの子の心の涙を、少しも掬えてはいなかった。
こんなにも愚かな自分を許してくれるなら、もう一度だけチャンスが欲しい。
でもそれは、あまりにも身勝手な願いだというものだろう。

あの子は、職場で苛められていた。
一度、あの子の勤める会社に連絡をしたことがある。
共に暮らしていたことは知らせていたからだ。
今から思えばそれは、裏目に出たのだろう。
何もないですよ、そう受付の女性に慇懃無礼に言われてカチンとはきたが、そこは一応は大人、黙って電話を切った。
それ以来、あの子の帰りが遅くなった。
くる日もくる日も、残業を山のようにこなしていたのだ。

可哀想だった。
だからこそ、もっと側に寄り添うべきだった。
しかし、そんなことを考える間にも時は過ぎてゆく。
今日は金曜日。
もう週末なのだ。
閑散期で早仕舞いだったので、もう家にいる。
そろそろ夕食が食べたい。
こんな時にも、時間がくれば腹は減るのだ。
或る意味では、大変正直なお腹ではある。

電気ケトルでお湯を沸かす。
その間に冷蔵庫から、昨日の買い置きのサラダを取り出して、蓋を開けドレッシングをかける。
箸を持ってきてサラダを食べていると、お湯が沸いた。
僕は大盛カップ焼きそばの外装フィルムを剥がすと、蓋を半分まで開けてかやくやソースを取り出す。
お湯を注ぐと、白い湯気が舞った。
ここでテレビをつける。
なんとなくだ。
それにしても今日は特番が多い。
それとなく事情はわかるが、面白くはないのですぐに消した。
静かな室内。
ちょうどサラダを食べ終えたところで、三分が経った。

焼きそばを食べていると、奇妙なことに気付く。
時計が壊れているのだ。
その時計は、午前三時を指していた。
一方で僕の携帯は夕方も終わりになる頃の時刻を示している。
何処か嫌な感じがしながらも、焼きそばは食べ終えた。
ホールケーキがあったが、夜中目覚めた時にでも食べようと思う。
今はまだいい。

夜、携帯を弄る。
なんとなくの、SNS巡り。
先程のケーキをコーラで流し込みながら、ただダラダラと時間を潰す。
気付けば午前三時。
SNSにメッセージが届いた。
それはなんと、別れたあの子からのものだったーー。
要件は簡潔だ。
メッセージは「会いたい」、ただそれだけ。
呆気にとられて、暫しの間身動きが取れなかった。

翌朝。
身支度をする。
午前十時にあの子と、新宿のカフェで待ち合わせをしたのだ。
僕はとっておきの勝負服を身に纏うと、珍しい黄緑色のボトルに入った香水を振った。

何故だろう。
胸騒ぎがする。
それでも僕は、前に進んだ。
後悔するかもしれない。
でも、会わないで後悔をするよりはマシだと、確かにそう思ったのだ。

この日は五月にしては珍しく、とてもひんやりとしている。
あの子がいた。
確かに、そうなのだ。
瞬間、冷たい風が頬を撫でる。
驚いた。
彼はボロボロの作業服の姿で、明らかに周囲とは浮いた格好でそこにいたのだ。
「雪弥ーー。」
僕の口の端から漏れ出た言葉は、ただそれだけだった。

[2]

カフェの奥まった席で、今時珍しくも僕達は揃って、ウインナーコーヒーなどを飲んでいた。
雪弥の瞳からはほろほろ、ほろほろと止め処なく涙が零れ落ちていた。
言葉は暫し、なかった。
僕は久方ぶりの雪弥の姿を、何処か他人事のように見ていた。
冷酷なんだな、そう自覚した。
それでも、そんな僕でも雪弥には、側にいて欲しい、そう思っていた。
窓の外は、俄雨。
僕は、窓に映る景色に視線を移した。
その時だった。
「ねぇ、裕哉。」
静寂を微かに切り裂く、震えた声。
振り向くと、僕は頰にキスをされた。
呆気にとられた。
でも、嬉しかった。
まだそんな感情が残っていることに、自分でも驚いた。
たぶん自分はまだ、人間だったのだろう。
手遅れになる前でよかった、本当に。

カフェを出る。
雨は止んだ。
手を繋いで、スーツの安い、或る服屋へと向かう。
これからホテルに行く。
そのための服を買うのだ。
別に今、事をしたい訳ではない。
そうではなく、美味しいランチブッフェがあるのだ。

服屋で会計を済ませると僕達は紙袋を持って、ネットカフェのカップルシートを利用することにした。
雪弥が着替えるために、そうするのだ。
時刻は十二時、ちょうど昼食時だ。
僕達はネットカフェを出ると、西新宿のホテルへと歩いて向かった。
しばらく歩くと、ホテルが聳え立つエリアへと到着した。
随分と久し振りだ。
緊張気味の雪弥の手を引いて、僕はエントランスを潜る。
ホワイエを抜け、エレベーターに乗り込むと、高揚感が高まった。
降りるとそこはタワー上層階のレストラン。
今日をとっておきの一日にしたいーーそんな願いが、懐事情を尻目に僕を突き動かしていた。

食後、辺りを散歩してから家電量販店へと向かう。
ドライヤーが不調なので、新調するのだ。
何万円もするものもあって二人して驚いたが、買ったのは三千円のもの。
ここは節約をする。
何かを得たら何かを我慢する、当然のことだ。

その後、再びカフェで時間を潰した僕達は、二人の自宅への帰り道にデパ地下でお惣菜などを買った。
今夜は、お祝いなのだ。
そう、今日は記念日。
二人にとっての、最大の。
ローストビーフにマリネ、カニクリームコロッケにビーフステーキ、チキンの照り焼きにマカロニグラタン、ケーキにシャンパン。
色とりどりの、パッケージ。
たくさんの荷物を二人で持って、また共同作業の始まり。
二人三脚、いつでも一緒だ。

帰って、二人して当たり前のように寛いで。
雪弥はテレビを観て、声を上げて笑っている。
僕は使い古したタブレットでブログの閲覧。
取り戻した日常、いや、帰ってきた日常、かな。

夕食の時間、テレビを消して静かなひと時。
安いモエを開けて、気分は最高潮。
これでもモエだ、奮発したのだ。
「おかえり雪弥、今日は飲むぞー!」
「いぇーい!」
二人して、笑った。
僕に必要なものは、そう、これだったのだ。

およそ二時間後。
僕達はソファの上に揃って転がっていた。
おもむろに、雪弥が今度は唇に、長い長いキスをした。
それから一時間、組んず解れつ。
天国のような、しかし激しいひと時だった。

夜中、ベッドの上、隣で雪弥が泣いている。
ふと時計を見ると、午前三時だった。
雪弥は嬉し泣きをしているようだった。
だがこの後、僕達の運命を揺るがしかねない大事が発生する。

[3]

次の瞬間だった。
地面がうねるような大地震が、僕達の住まう築二十年のマンションを直撃する。
死ぬかと思った。
だが、壁面にもヒビは入っておらず、躯体は無事だった。
頭上から降ってきた漫画本の雨で二人共に怪我をしたが、重傷ではなかった。
地震の規模が震度六弱だったのが、辛うじて幸いした。
震源地は千葉。
少し離れていたからよかったようなものの、ことと場合によっては危なかった。

雪弥が寝静まった後、僕はその隣りで独りで、考え事をしていた。
僕達の昔のことを、思い出していたのだ。

僕達は、隣同士の家にそれぞれ生まれた、同い年の幼馴染みだった。
幼い頃から、交流は密だった。
バーベキューにキャンプに、バイキング。
遊園地にもよく出かけた。

恋愛の感情を抱く前から、雪弥のことが好きだった。
もちろん、友達として、である。
他の子と仲良くしているのを見る度に、嫉妬した。
幼かった。
そんな僕にも、雪弥はいつでも優しかった。
よく笑顔で、手を差し伸べてくれたものだ。

やがて僕達が小五になった時に、恋の幕は上がった。
先に僕の方から恋をした。
だが、言えなかった。
そんな訳なので、告白をしてくれたのは、雪弥だった。
「ねぇ裕哉、僕のこと好きでしょ!僕も好きになっちゃった。付き合おうよ、ね!」
笑顔だった。
僕はとてもわかりやすかったのだと思う。
こうして結ばれ、今に至る。

それからも、色んなことがあった。
小六の冬、スキー場で。
僕はまだ慣れていなかったから、リフトから落ちて骨折をしてしまった。
痛みなんて雪弥の泣き顔に比べれば大したことはないと、この時本当にそう思ったものだ。
当時の僕、熱かったなぁ。

高校進学の際にも、トラブルがあった。
元々成績は僕の方が随分とよかったから、違う学校に通う筈だった。
しかし入試の当日にインフルエンザで熱を出した僕は、結局はそこは受験出来なくて、雪弥と同じ高校に進学することになった。
一応両親の手前残念がってはみたが、内心ではガッツポーズをしていたものだ。

また、振り返れば大学受験の失敗という大事もあった。
父親の経営する会社の業績が厳しいという経済的な理由などにより浪人は出来なかったのだが、受験シーズンになって重度の肺炎にかかってしまい、その年を棒に振ってしまったのだ。
雪弥は就職の予定だったから、これで揃って就職となったのだ。

ふと、意識が部屋に戻る。
隣りで眠る雪弥は、まるで天使のようだった。
倦怠期かとも思っていたが、それは間違いだったようだ。

突如、またぐらぐらと揺れる。
余震だ。
テレビをつけると、震度五強とあった。
大きい。
雪弥が目覚める。
キスをして、二人して眠ることにした。

[4]

雪弥の新しい職場は、あまり評判がよくなかった。
幸い、僕は父親の経営する会社に勤めていたから、かけ合って雪弥も勤められるようにしたのだ。
同じ職場に同い年、同じ部署で僕が先輩、教育係。
いつでも仲睦まじい、これは幸せ。

雪弥と、繰り返し繰り返し、職場での作業の反復練習。
型を覚えれば楽になる。
今が一番しんどい時。
頑張って欲しい。
目指せ職人!

ひとつ、ちょっとした事件があった。
それも、いいことなのだ。
なんと部屋にクーラーが付いたのだ。
しかも費用を払ったのは雪弥ときている。
甘えん坊だとばかり思っていた雪弥だが、しっかりと成長していたのだ。

七月になった。
雪弥と寝そべる、休日の宵の口。
明日は雪弥の誕生日だ。
食事に何を出そうか、今から迷う。
プレゼントはもう、買ってあるのだ。
新しいiPhone、SIMフリーのモデルだ。
雪弥の使っている携帯はもうぼろぼろだったから、クーラーのお礼も兼ねて奮発をした。

これからも雪弥の色んな顔を、見ていたい、側にいたい。
そう思うから、いつでも仕事を頑張れる。
二人の暮らしだ。
雪弥にも頑張ってもらわねば。
手に手を取って、前に進みたい。
雪弥、君となら、きっと何処までもゆけるーー。
君との季節は、いつでも幸せだ。
結果オーライの人生。
それもいい、君とならそれでもいい。
仲良くいよう、いつでも。
これからも、ずっと。
君との幸せが、僕の一番欲しいものなのだからーー。

[5] おまけ

雪弥の誕生日当日。
ささやかに祝った。
メインイベントは、iPhoneの贈呈。
雪弥、飛び上がって驚いた。
泣いて喜んでくれたから、プレゼントの甲斐があった。
くれぐれも落とさないで欲しい、今の願いはそれくらいのもの。
〆はいつも通り。
たまにはまったりと、いちゃいちゃし合う。
夜更け、裸でベッドの淵に腰かけて、語り合う。
「僕ね、実は小二の頃から裕哉のことが好きだったんだ。裕哉はまだ恋愛に目覚めていなさそうだったから、言い出せなくて。」
驚いた。
そんなにも前から、好きでいてくれていたとは。
「ありがと!」
僕からのお礼、フレンチ・キス。
「そんなんじゃ、だめぇー!」
今度は雪弥の怒りの、ディープ・キス。
「あれ、またするの?」
「えへへー。」
終わりのない夜の、これが始まりだった。
仲睦まじく、いつまでも。
そんな願いを込めての、これが今夜の本当の〆だった。

お・し・ま・い

[ NEW ! ] 共に生きる、その意味をーー [第二版]

[0] 作品に寄せて

黒川紀章の新・共生の思想、あの本をお読み頂ければ、理解がより深まる上に日々の思考の手助けともなるとは思うのですが、どうも入手は比較的困難な感じがしますので、少し残念な気がします。
名著でした。
この作品は世界屈指の大建築家だった黒川紀章への、僕なりのオマージュのようなものです。
子供の頃に多大な影響を受けた自分としては、いつか書きたかった題材なのです。
ですが書いた本人としましては、気楽にお読み頂けると嬉しいのです。
途中多少わかりにくい箇所もあるかも知れませんが、流し読み大歓迎です。
是非最後までよろしくお願い申し上げます。
ちゃんとハッピーエンドになっているので、自分でも好きなのです。
冒頭は、少しトゲトゲしているかもしれません。
敢えてそのままにしました。
書いた当時の偽らざる心境なので。

共に生きる、その意味をーー
[リリカルライフのススメ]

[1] Introduction

君と共に生きよう、そう思った。
顔ニモマケズ、という表現がある。
君もまた、その一員なのだろうか。
周囲の者達との対立を促す、風貌。
それでも君が、好きだ。
他に理由など要らない。
共に生きられれば、それでいい。

僕達を嫌う人間は、嫌えばいいのだ。
対立など、幾らでもすればいい。
俯瞰する眼を持たぬ者は残らず、愚か者だ。
愚か者は滅び去るしかない。
運命であり、摂理なのだ。

たとえ劇的に対立していても矛盾していても、互いに必要とし共に生きてゆけるのであれば、それでいい。
仲間達だけの中で生温く生きてゆくのは、可能かもしれないが、それだけでは詮ない。

君もまた、同じように思ってくれるだろうか?
敢えて今、君に問いたい。
どうだい?
ねぇ君よ。

[2] 花の舞

人間関係は、建築の図面の軸線操作によく似ている。
建築は、軸線を一本動かすのにも、論文が一本書けるだけの緻密さが必要だ。
複雑な曲線も含めて、全ての線が幾何学や関数で決まるのが建築。
幾重にも複雑な計算が必要だ。
その繊細な機微は、人間関係にも喩えられるだろう。
もちろん、人間関係にも理論は必要となる。
もとより今は、機械の時代ではなく生命の時代だ。
建築の表現にもそういったものはある。
だからよく似ているのだ。

もっと言えば、人間関係とは、緻密に構築された図面と理論の集合体そのものだと、言っていい。
そう、建築に於ける意匠が人間に於いての外見ならば、図面とそれを支える理論こそが人間の内面であり、人間関係なのだ、であるからこそ、君が好きだ!
大好きだ!

君は優しい。
心から思う、本当に優しい。
そして、とても個性的で、綺麗だとすら思う。
たとえ他に味方がいなくとも、絶望だけはしないで欲しい。
何時どんな時でも、少なくとも僕だけは確かに、君の味方なのだから。

今日も嫌がらせに遭った。
幼い子供が、路上の石を君にぶつけたのだ。
それでも君は、いつも通りにニコニコしながら、挨拶をして通り過ぎていったね。
これが心から尊敬出来る、君の長所の一つだ。
こんな時、君は聡明だから、案外理詰めで行動しているのではないかと思う。
内心では悔しいに違いない。
でも僕達はこのようにして、対立しながらでも共生が可能だ。
多様な価値観があっていい。
世界が一色に染まる必要など、断じてない。
巷では、理屈では説明出来ないとも言われる人間関係、
しかしリアス式海岸でさえも関数に乗せることが出来る時代、本当に、分厚い論文がそれこそ何本でも書けそうだが、説明することは不可能ではないだろう。

或る日のこと。
僕達は、知る人ぞ知る行きつけのすき焼き屋に行くことにした。
そこは僕の両親が生前懇意にしていて、こんな僕達のことでさえ歓待してくれるから、好きだ。
いつも通りに案内されて、座敷へと座る。
春の夜、二階の窓越しに満開の桜並木が映る。
すき焼き屋の建物と桜並木との間には道があり、ちょうどいい「間」となっている。
いわば中間領域的な、或いは利休鼠のような。
座席から見下ろすと、桜、ライトアップされていて、綺麗だ。
そう思ったから僕は、「ねぇ、あの桜、君みたいに綺麗だよ」、それだけを口にした。
ある意味で君の顔は、バロック芸術のように美しいと、僕はそう思っている。
まぁ、そんな気がするだけだが。
そう思っていると、君は頰を紅く染めて、僕にしなだれかかる。
二人して今日は飲んだ。
お酒のせいでもあるだろう。
この上なく幸せなひと時だ。
こんな時、重畳極まりないという昔の言葉を思い出して、思わず少し笑ってしまう。

今日は、君はよく食べた。
ご飯をお腹一杯に食べる君の顔を見るのが、好きだ。
至福の笑みを浮かべる君の横顔を見ながら、僕はすき焼きをもう少し粘る。

外の風が強くなってきた。
桜の花びらが無数に舞い始める。
花の舞、夜が深くなる中、なお一層美しく在る。
食事を終えた僕達は、お会計を済ませると、タクシーで帰途に着いた。

[3] 君を連れて

明くる日。
君は朝から頗る機嫌がいい。
昨夜のすき焼きが余程嬉しかったようだが、すき焼きなんて毎月食べている。
や、まるで僕が、美味しいものを一切食べさせていないようではないか!
そんなご機嫌斜めの僕を尻目に、君はくるくると回りながら喜びを全身で表現している。
嬉しい時、君はよく回るのだ。
負けたよ、そう思った。
だから僕は君に、ハグをした。
君は目を潤ませて、僕のおでこの辺りをじっと見つめる。
や、そこなんにもないぞ、そう思いはしたが、嫌ではない。
こんな気分の日は、二人でドライブに限る。
僕自慢の小さな黒いオープンカーの幌を開けて走り出すと、気持ちのいい風が頭上を掠めてゆく。
君を連れて、美術館へ。

遠出なので、途中の食堂で休憩がてら、少し早いランチ。
二人揃って、とんかつ定食を頬張る。
とんかつは、僕達の大好物だ。
むしゃぶりつく君、僕も齧りつく。
夢中になっているとお店の女将さんがやって来て、大変でしょう?と声をかけてくれた。
いえいえ、と僕は首を横に何度も振り、君の、陽太の頭を撫でてやった。
女将さんは一礼をすると去ってゆく。
いい人だった。
君を連れ出して、よかった。

車でそれから二時間、美術館へと到着する。
目の前には美術館の、圧巻の全景。
この美術館を設計した建築家が好んだ、抽象幾何学形態[アブストラクト]のオブジェクトを慎重に操作・配置して緊張感を生み、アブストラクトとは真逆のシンボリズムを獲得しようとする手法、現物を生で見て、感嘆した。
これは美しい!
理論と美が両立しているのだ。
こんなことがあり得るのかーー僕は陽太の手を握ったまま、その全景を暫し見入っていた。

館内。
ここは東京よりも少し寒い。
花柄のワンピースに茶のレザーのジャケットを羽織ったおめかしした女性などが、閑散とした中に佇んで作品をじっくりと撫でるように見てゆく。
途中通り過ぎたホワイエでは、携帯を使ってSNSで今日の日を報告する人達の姿が見られた。
辺りに、溶け込む。
陽太と出逢った頃に僕が望んだ、一番のこと。
それがここでは、実現している。
嬉しい。
見ると陽太も笑ってくれている。
ありがとう、そう言って僕は、陽太の頰にキスをした。

僕には、両親の遺産があった。
だから僕達はこんな暮らしが出来る。
自宅は代官山の小さな分譲マンション。
北青山にあった実家の屋敷は、売り払った。
老朽化していたのだ。

代官山では、肩身が狭い。
陽太の外見を気にする人達が、大勢いたのだ。
ステイタスが高過ぎるのも、考え物だ。
陽太がいたのに、誤った買い物をしたものだ、我ながら。

ここではどうか。
決して田舎ではないから封建的ではなく利便性も高い上に、しかも気取っていない。
今の僕は在宅でテレワークをしている。
このネットワーク時代、住まいなど正直、何処でもいい。
日本の首都でさえ、分散移転が可能なくらいだ。
それならいっそ、ここに越してしまうのはどうかーー。
決断は早かった。
代官山のマンションはまだ築浅だから、高値で売れる。
躊躇する理由などない。
何よりここでの陽太の笑顔が、僕の背中を後押しした。
君を連れて、何処までもゆこう。
そう誓って、引っ越しを決めた。

[4] 命の価値を

陽太は今から二十五年前に、東京下町の産院で産まれた。
その顔を見た母親は、泣き崩れたという。
まもなく母親は、悲観するあまりに自殺を遂げてしまう。
それ以降は父親の下で暮らしたが、癇癪を起こした父親によって瀕死の重傷を負い、他に引き取り手もなく施設暮らしとなった。
陽太は知的障害を負っていた。
だが瞳の綺麗な子で、それが陽太を守ったのだと、当時の職員さんから話を聞いている。
虹彩異色症という病気のためであったが、左右で瞳の色が異なり、そのどちらもがとても美しかったのだ。
その瞳に見入る人は、多かったという。
顔立ちも、特徴的ではあるが、或る意味ではバロック的な美しさがある。
陽太は重度の先天性疾患とは異なるのであり、だからこそ生きてさえいれば、悪いことばかりではないのだ。

思えば陽太の存在は、僕に命の価値と重みとを教えてくれていたような気がする。
出逢いは、十年前。
当時両親が生きていた頃、養護学校卒で叔父の経営する工場へと就職する子がいるというので、指導係を頼まれたのだ。
両親が生きていた頃の僕は、特に父親の勧めもあり、社会勉強の一環としてその工場で働いていた。
だから、話は早かった。

僕の目もあり、職場での表立った苛めなどはなかった。
無視はされていたが、その程度のことには陽太は、慣れているようだった。
僕も陽太も事務方だったが、一番キツかったのは何よりも日々の仕事だ。
計算も出来ない、数も覚えられない、電話の受け答えも出来ない、字も書けないーー。
率直に言って陽太は、事務方の要員としては全くもって使い物にならなかったのだ。
僕の努力も虚しく、程なくして退社が決まり、再び施設へと戻ることになった陽太。
可哀想だったのもあるが、それよりもその時には既に僕は陽太のことが、好きになっていた。

だから僕は、父親に頼み込んだ。
遺産の生前贈与の一環として、マンションをねだったのだ。
物件は僕が決めた。
あの代官山の物件だ。
両親は僕と陽太の関係には理解があったから、この話を二つ返事で了承してくれた。

それから、陽太は見違えるようになった。
笑顔でいることが多くなった。
言葉もぽつぽつと話すようになった。
今もってまだ、取り留めのない内容ではあるが、大きな進歩でもある。

命の価値を分かること、履き違えないことーー。
僕に求められていたのは、ただそれだけだった。
そしてそれは、思っていたよりもずっと、簡単なことだった。
きっと誰にだって出来る。
それはそうだ。
陽太の瞳を見れば、それさえすれば、間違いなく誰にでも出来る筈なのだから。

[5] FLAME

立夏の、宵の口。
二人の恋の、愛の炎が燃え上がった。
カーテンは開け放ってある。
ここはタワーの高層階、覗かれる心配もあまりない。
そう、ここに今日、引っ越したのだ。
或る意味では、初夜であるとも言える。
好きだよーーどちらからともなく。
キスをして、抱き合って、舐め合って、絆し合う。
もう離れられない、間違いない、それでいい、それがいい、もっと近くにきて欲しい、もっと、もっと!

空には満点の星。
何時までも何時まででもこうしていたい、そう思える至福の時間だった。

翌日。
共用ルーフデッキで、二人して昼間からバーベキュー。
陽太には偏食の傾向があり、少し困っている。
トマトとピーマン、そして鶏肉と生魚を食べないのだ。
何をそれくらい、と言われるかもしれないが、偏食はないに越したことはない。
特にトマトとピーマンは栄養豊富な野菜なので、是非とも食べて欲しい。
ここはひとつ言い聞かせた。
嫌いなものをひとつ食べたら、後で一回、部屋でキスをしてあげる、と。
食べる食べる、それはもう。
これには、驚いた。
後で大変なことになったのは、言うまでもないが。

こうして僕達はこれからも、のんびりゆったりと、共に手を取り合って暮らしてゆく。
時に燃え上がることもあるだろう。
果たして、時間は見守ってくれるか、或いはーー勝負だ!
僕は陽太に残りの未来を全部賭けた。
陽太は僕に賭けてくれるだろうか、それは未来にしかわからない。
それでも一つだけ、これだけは言える。
僕達は今この時を、愛し合っているーーそれだけで本当に、十分なのだ。
陽太よ、側にいて欲しい。
生まれてきてくれて、ありがとう!

[6] Conclusion

シンクロニシティ、という言葉がある。
共時性という意味の言葉で、建築では場の共生[同じ時代(時間)に世界のあらゆる「場」に多様な価値が共生し、多様なことが起きているということ]を意味する語だ。
たまに耳にすることもあるだろう。
陽太はよく僕を助けてくれる。
よくある虫の知らせに敏感なのだ。
虫の知らせ、これも一種の共時性なのだろう。
たとえば恐らく共時性とは、同じ時間に異なる出来事が起こり、そこに因果関係があたかもあるように見えることであろうから。
世界では、同じ時間に、実に様々なことが起きているものだ。
たとえば、陽太が腹を下すと決まって悪いことが起こる。
少なくとも、僕にはそんな気がする。
この間も、斜め横断の老人を轢きそうになった時に、陽太が虫の知らせで教えてくれた。
まぁおかげで自慢の白い皮のシートは、べちゃべちゃになってしまったのだが。

僕だけが尽くしているのではない。
だってそれでは疲れる。
そうではない。
日々、無数の虫の知らせによって、僕も助けられ、また尽くされているのだ。
本当に感謝している。
助け合いなのだ。
よかった、本当に。

このままソリトンのように日々をすり抜けられれば!
ただ淡々と、君と喜びを噛み締めてゆきたい。
きっと何時までも、何処までもーー。

-THE END-

[7] 文末に寄せて

花の舞という章タイトルは、黒川紀章の花数寄から取りました。
シンクロニシティという言葉もソリトンという言葉も、ついでに本文にはありませんがフラクタル幾何学も、黒川紀章の著書である「共生の思想」または「新・共生の思想」で知りました。
何方だったかは覚えておりません、散逸しておりますので。
読んだのは中学生の時のことです。
抽象幾何学形態のオブジェクトを、といったくだりは、黒川紀章のアブストラクト・シンボリズムそのものです。
作中に出てくる架空の美術館のモデルは、愛媛県総合科学博物館でした。
まぁ、どのくらい仕込もうか、という点については大いに悩みました。
着地点を探すのには少しばかり苦労した訳で。
すっかり過去の人ではありますが、これを機に、黒川紀章に興味を持って頂けると、まさに重畳極まりないです。
皆さま、是非!

[ NEW ! ] EVERYDAY, needs somebody’s love

[1] Introduction

車は、速度を徐々に上げてゆく。
首都高速、視界の先には浮世離れしたタワーマンション群と海が広がる。
四人乗りのオープンカー、頭上は星空の海。
幸せだった。
この時までは。
だが、運命は時に意地悪をする。
橋の上、突風が車を煽った。
混乱の中、ドライバーである一家の長は、ハンドル操作を誤る。
一瞬の出来事だった。
後部座席にいた双子の兄弟二人は無事だった。
だが、運転席と助手席に座っていた両親は、助からなかった。
繰り返し訪れる、涙のさざ波。
兄弟は悲しみに暮れていた。
互いの手を取り合って、兄弟は立ち上がるしかなかった。
小一の秋、まだ幼い二人の、これがスタートラインだった。

EVERYDAY, needs somebody’s love
[リリカルライフのススメ]

[2]

夢うつつ、微睡みの中で兄弟の朝は始まる。
義母が部屋に現れた。
寝起きの悪い兄弟を、揺すって起こす義母。
この時、兄弟は小二になっていた。
両親が不在となった兄弟は、遠縁の家に引き取られた。
これは朝の日課、毎日繰り返される光景、アラームには頼らないのだ。
「さ、康太、凛太、朝よ。起きなさい!」
「はーい……。」
のそのそと起き出す兄弟。
登校までの時間は、そうない。
兄弟は部屋から脱衣所まで向かうと、ダブルボウルの洗面台の前に仲良く並んで、歯磨き。
顔も洗って、朝食も食べずに出掛ける。
もうタイムリミットだからだ。
「たまには早起きして、朝食くらい食べなさいね。」
義母の声を背に、いざ出陣。

授業は、いつも退屈だった。
兄弟は、自分達には勉強は向いていないと、痛い程に自覚していた。
それでも、出席だけはしなければいけないという義務感はあったので、無断欠席をすることは決してなかった。
今日は小テスト。
いつもテストは赤点ギリギリの兄弟、予習などしてこよう筈もない。

翌日、小テストの返却。
また駄目だった。
後悔しても、時既に遅し。
しかし、兄弟にとってはテストの点数などどうでもいいこと。
それはもう、打たれ強くなっているのだ。
「なぁ、凛太はテストどうだった?俺はギリギリセーフ。」
「僕もセーフ!際どかったけどね。」
「おぉ、あぶねー!俺よりヤバいじゃんかよ!」
「えへへ、まぁね。」
そこへクラスメイトの晴太がやってきた。
その体型、三人揃って、丸みを帯びている。
寄り集まって、暑苦しいことこの上ない。
「僕な、28点!赤点だったんよー、残念!」
「宿題頑張れー!」
「おぅ!」

その後、給食の時間。
配膳係には晴太も加わっている。
「晴太、多めになー。」
「僕もー。」
「もう、無理なの、そういうのー!ほれ、行った行った。」
晴太が二人に給食のビーフシチューをよそうと、周りの生徒達が鼻をひくつかせた。
辺りには、仄かにいい香りが漂っている。
「いただきまーす!」
号令。
皆の挨拶と共に、食事の時間が始まった。
座席は、班毎にまとまって配置をする。
康太、凛太、晴太は裕子と同じ班、皆友達だ。
「なんか三人のビーフシチュー、多くなーい?ズルいんですけどー!」
「そんなことなーい!黙って食えー!」
晴太は裕子の文句に頰を膨らます。
実際、量はそんなに差はないのだ。
ただ他の三人同様、裕子もまた、食いしん坊ときている。
お腹が空いていたから、隣の芝が青く見えたのだ。
「それにしても裕子、太ったなー。」
「うるさーい!それより、秋じゃない?いい季節だし、今夜辺り肝試しでもやらない?」
「何処でー?」
「ほら、近所の!解体前の病院があるじゃない?年明けには取り壊しになるらしいから、今の内に行っておきましょうよ!」
「あー、彼処なー。怖くね?俺その病院の院長の息子だったから知ってるけど、怖い噂度々聞くよ?」
「だから肝試しにぴったりなのよ!ね、三人共行きましょ!」
「あーい。丸太橋公園に、夜七時に集合で。銘々飯は食ってこいよ。」
「了解!」
こうして、秋のビッグイベントは突如、決まった。
だがそこには、思いもかけないハプニングが待ち構えていたーー。

[3]

夜更けが早くなった、十月。
肌を撫でる風が、ひんやりとする。
木の葉が色付き始めてきたが、暗いのでもうよく見えない。
街灯が、辛うじて木々の葉に色を付ける。
待ち合わせ場所の丸太橋公園は、文字通りの丸太で出来た橋や、噴水のある大きな公園だ。
時計台の下で康太と凛太は、晴太と裕子を待っていた。
時は既に七時半。
待ち合わせ時刻を大幅に過ぎていた。
「おーい!康太、凛太ー!」
「遅いぞ、二人共ー!」
「私も晴太も、お父さんとお母さんを振り切るのに苦労したの。ごめんなさいね、言い出しっぺなのに。」
「まぁいいや、行こうぜ!二人共。」
「えぇ!」
「おぅ!」
四人は暗闇に近い中をそろそろと歩き出す。
目的地はすぐそこだ。
片側二車線の道路を挟んで公園の斜め向かいに、仮囲いに覆われた古びた病院の建物が鎮座していた。
今にも崩れ落ちそうなその建物は、肝試しにはもってこいの場所に思えた。
ここで凛太が声を発した。
「あー……。この仮囲い、どうやって登ろう。」
もっともな指摘だが、これには解決策がある。
「下見してあるの。隣の建物との間の隙間に、囲いの板のない場所が一箇所だけあるから、そこから私が入るのよ。三人には狭い隙間だから、ここで待つといいわ。私が中から正門を開けるから、大丈夫よ。」
「へーい。」
「あいよー。」
「了解ー。」
三人が銘々返事をすると、裕子は器用に身体を隙間に入り込ませた。
これは、誰にでも出来ることではない。

やがて裕子の言った通りに正門は開き、残った三人も中へと入る。
全て順調の筈だった。
だが、その様子を隣の邸宅のおばあさんが窓越しに、見ていた。
おばあさんは息子夫妻と共に暮らしていた。
旦那は既にこの世にはない。
「ねぇねぇ侍女さん、隣の廃屋に子供達が入っていったわよ。危ないから通報してあげて。」
「かしこまりました、お館様。」
この場合には通常、お館様という表現は用いられないが、おばあさんはその表現をいたく気に入っていた。
何故ならおばあさんの祖先は、名の知れた大名だったからである。

四人は恐る恐る、建物の中へと入る。
言うまでもないが、中は真っ暗だ。
床がミシミシと音を立てる。
抜けそうな箇所もあるくらいだ。
危ない。
でも四人は、怯まなかった。
蛮勇が、四人の足を前へと進ませた。

[4]

ふと、頭上から水が垂れた。
それを機に凛太は思い出す。
幼い頃、今住んでいる遠縁の家に遊びにきていて熱を出し、この病院へと担ぎ込まれたことを。
40.0℃を超えていて、危険な状態だった。
だがこの病院にやってきてから自然と、熱は下がっていった。
病院の院長は、父だった。
父から息子へと代々受け継がれてきた、院長の座。
それも途絶えてしまった。
実は病院は、より利便性の高い都心部へと移転していたのだ。
ここは取り壊され、賃貸マンションになる予定だった。
マンションの名義は父、亡くなったために計画は白紙となり、敷地は売り払われた。

葬儀の日、凛太は特に泣いた。
甘えん坊だったのだ。
康太はただひたすら、凛太の背中を支え摩っていた。

一同、嫌な予感がする。
特に凛太は、背中を震わせていた。
「ねぇ、帰ろうよ!」
凛太が叫んだ。
その時だった。
「坊ちゃん達、お久し振りです。ここは危ないです、戻りましょう。」
康太と凛太は、その警備員を知っていた。
かつてここに病院があった頃に勤務していて、顔馴染みだったのだ。
「君彦さん!」
「お久し振りです!迷惑かけてごめんなさぁい、、、。」
康太と凛太の二人は、警備員の君彦に抱きついた。
こうして、四人の秋の冒険は、終わりとなったかに見えた。
だが、ことはそう容易くは運ばない。
長年の経験で、何かが起こる、そう察知した君彦は、四人を守る体勢を整えた。
その時だった。
ガッシャーン!
大きな物音と共に、天井が抜けた。
降り注ぐコンクリート片。
君彦は四人を守るようにして、その身体に覆い被さっていた。
運良く助かったが、予断を許さない。
四人は即座に携帯で救急車と警察を呼び、建物の外に出た。
この後、四人皆がみっちり両親に叱られたことは、言うまでもない。
特に康太と凛太の義母は、泣き叫んでいた。
それだけではない。
一同皆が、病院跡の前で涙していたのだ。
四人は皆、心から反省していた。
二度とすまい、そう誓って、少しだけとはいえ成長したのだ。

[5]

春風が心地いい。
四人は、小三になった。
家族ぐるみの付き合いであり、四人の仲は相変わらずとてもいい。
以前と変わらず、教室での班も一緒。
あれから四人の一家は、君彦の元へと、毎月欠かさずに来訪していた。
君彦は病院でリハビリの真っ最中。
右脚に麻痺があるのだ。
病院代は四人の両親が出す。
「ねぇ三人共、今日の放課後、病院に行くでしょ!」
「行くけど、お前のせいでもあんだぞ、少しは反省しろよ。ま、他の俺たち三人も同罪だけどな。」
「わかってるわよ!私、帰りの鰻、楽しみー!」
これには、三人口を揃えて。
「全然分かってないな、裕子……。」

その後、お見舞いを終え、老舗の座敷で鰻重を頬張る一同。
中でもいつもの子供四人は、がっついている。
「あらあなた達、もっと上品に食べなさいよ、私みたいにー!」
「冗談止してよ!上品が笑い死ぬから!」
「あら凛太、失礼ねー!頭にきちゃう!」
「そういう時はな、凛太。冗談よし子、って言うんだぞ。」
「康太ちょっとそれ、何時代の何語ー?あなた、年齢偽ってるでしょ?私聞いたこともないわよ、そんな言い回しー。」
裕子の母がここで、四人に注意をする。
「ほら四人とも、鰻くらい黙ってしっかり食べるのよ!」
「はーい。」

ひとつだけ、変わったことがあった。
裕子が、凛太に恋をしたのだ。
でも、言い出せない。
知っていたのだ。
他の三人が皆、ゲイであることを。
だから、鰻と共に凛太への想いを、飲み込んだ。

帰り道。
「みんな、また明日ねー!」
裕子が最初に声を上げた。
「おぅ、またな!」
「またねー!」
「アディオス!」
他の三人も、続いて挨拶を交わす。
「ちょっと晴太、最後くらいちゃんとしなさいよー!」
「アディオス!」
裕子は怒るが、晴太は調子に乗るだけだ。
「もぅー!」

その後、兄弟の部屋にて。
「冗談よし子はネタが古かったな。でもアディオスも今時遣わねぇよな。」
「というか、康太にしても何処からそんな小ネタ拾ってくる訳ー?よくわかんない。」
「俺、お前のこと好きだぞ。」
「なに、突然。知ってたよ。でも、兄弟だしなぁ。」
「関係ねぇよ、キスするぞ。」
その時、凛太は逃げなかった。
代わりに、目を閉じた。

長いキス。
二人の想いの分だけ。
いつまでも共にいよう、そう誓った春の宵。
ずっとずっと心に残る、大切な大切な出来事だった。

[6] Conclusion

康太と凛太の二人は、無事に結ばれた。
義理の両親までもが、それとなくその事実を知っているという有様。
それでも裕子は、気丈だった。
そう、それを知ってなお、友達でいようとしたのだ。
或いはそれが、この時の裕子に出来る精一杯だったのかもしれない。

愛しくて、切なくて、締め付けられそうな胸を抱えて、恥ずかしくて。
四人それぞれが、各人なりの、ひと足早い思春期を迎えようとしていた。
どうして僕はここに、君といるんだろう。
たとえそれに理由がなくとも、僕は、君が、好きだーー。
凛太の想いは、康太にちゃんと届いていた。
両想い、船出は順風満帆だ。
兄弟でも構わない。
恋に、愛に理屈や説明などいらないーー。
そんな想いを胸に抱えて、康太と凛太は今、幸せだった。
今はいない実の両親の分まで楽しんでやろう、心から二人は今、そう思っていたのだった。

-The End-

[ NEW ! ] 夕焼け色の子供達

夕焼け色の子供達
[リリカルライフのススメ]

仁太は駆け出していた。
時につまづきそうになりながらも、学校への道のりを急いでいた。
時刻は8:00をとうに過ぎている。
もたもたしていると遅刻するのだ。
「おーい、仁太ー!」
「仁太くーん、おはよーう!」
後ろから声が聞こえる。
広太と晴美だ。
三人は近所に住む同級生で、幼馴染み。
この春で小学五年生になる。
背丈は三人共同じくらいだが、晴美がスレンダーなのに対して仁太は結構ぽっちゃりしているし、広太に至ってはわんぱく相撲に精を出すなどかなりの太め体型だ。
「二人共汗だくじゃなーい!まだ真夏でもないのに。さ、走る走る!」
晴美の掛け声でラストスパート。
汗だくなのは晴美も同じだが。
ともあれ、校門はすぐそこだ。
「こらー!遅いぞ、急げー!」
生活指導担当の須藤教諭が三人を急かす。
この後、三人がちょうど教室に滑り込んだところで、チャイムが鳴るのだった。
「ふぅ、ギリギリセーフ!」
「危なかったね!間に合って良かった。」
「私のお陰よ!さ、席に着きましょ。」
三人は昔から仲が良い。
だが、おしゃべりしている暇はない。
早速担任の桐原教諭が登場、ホームルームの開始だ。
「起立、礼!」
「あら、廣瀬仁太と杉原広太、それに源晴美。汗だくじゃない。間に合ったから許すけど、今日は体育の授業もあるから、帰ったらちゃんとシャワー浴びるのよ。」
「はーい、桐原先生!」
「よろしい!」

その後三人は、三限の体育まではどうにか耐えていたが、四限の数学でこらえきれずに揃って居眠り、桐原教諭の怒りを買うのだった。
「そこの三人、やる気あるの?まだ午前中よ!宿題山ほど出されたくなかったら、しゃきっとしなさい!」

帰り際、晴美が仁太と広太の二人に声をかけた。
あれからどうにか持ちこたえた三人は、今日の授業も終わりとあって、元気いっぱいだった。
「ねぇ、帰りに裏山へ寄ってきましょ!作りかけの秘密基地、完成させなくちゃ!」
「おし、行こうぜ!広太も来るだろ!」
「うん!」

裏山の茂みを抜けると三人の目の前には、 造りかけの秘密基地がどん!とあった。
廃材を利用して造られてはいるが、それなりには大きい。

「あとは屋根を載せるだけよ。いつもの工場跡地から、廃材を拝借するの、行きましょ!」
「おう!」
「待って、置いてかないで!」
「広太、モタモタすんなよー!」

やがて三人は思い思いの廃材を抱えて、造りかけの秘密基地の前まで戻ってきた。
この一連の作業で棟梁ともいえる働きをしているのは、言うまでもないかもしれないが、晴美だ。
晴美のお陰で作業はスムーズに進み、夕方の四時半頃には秘密基地は完成していた。
「ジュースで乾杯、といきたいところだけど、今日はもう遅いから明日ね。明日は学校が休みだから、ここに午前十時に集合!銘々適当にお菓子やジュースを持ってくるのよ!解散!」

「ちぇっ、晴美の奴仕切りやがってさ、ちょいむかつく。」
「でもあの子がいなかったら完成しなかったよ。」
「それもそうなんだけどさー。あ!今晩うちに泊まれよ。うちの母ちゃんなら許可出すだろうし、連絡もしてもらうから!そうしろよ。」
「いいの?お邪魔しちゃって。」
「平気平気!何年友達付き合いしてるんだよ。カバンもうちに持ってこいよ、下ろしに行くの面倒だろ。明日は休みだし、一旦集まったあと解散したら、部屋でゆっくりゲームでもやろうぜ。」
「うん、誘ってくれてありがと!」
その時仁太はあからさまに頰を紅く染めていたが、広太はそれには気付かなかった。
広太、少し抜けたところがあるのだ。
梅雨も明けた夏の初めの頃の五時前、まだ地面からの照り返しがあるなか、夕焼けを背に二人は仁太の家の門を潜った。
「ただいまー!広太連れてきたよー!」
鍵は開いていた。
だが反応はない。
おかしい。
普段なら必ず母親がいる時間だ。
仁太は、悪い予感を抱いて、すぐに打ち消した。
だが、廊下を二人でまっすぐ進むと、目の前に血塗れの景色が広がって、仁太を絶望させる。
そう、母親は既にこの世のものではなかったのだ。
遺体の傍らには、べっとりと朱に染まった出刃庖丁を持った、父親が呆然とへたり込んでいた。
仁太が叫ぶ。
「父ちゃん、何で、何で!」
「いや、俺はただ、母ちゃんが浮気をしたと思って、無我夢中で……。」
仁太はその場に泣き崩れた。
横で広太が、その背中を支える。

それから一ヶ月、蝉の鳴く季節。
仁太は、広太の家に預けられていた。
父親は逮捕、子供は仁太一人だったから、家族は消滅した。
でも、希望はある。
「広太、仁太、西瓜切ったわよー!」
そう、仁太は大好きな広太と共に住む、家族となったのだ。
と、そこへ。
「こんにちはー!」
外から声が聞こえる。
晴美だ。
広太の母親がこれに応じる。
「あらちょうどよかった、西瓜切ったのよ、食べてきなさいな。」

「なぁ晴美、お前んち、父ちゃんと母ちゃん元気か?」
突然、仁太が深刻な面持ちで尋ねる。
「あら、元気よ。気持ちはわかるけど、あなたの父さん、どうかしてたのよ。」
「それならなぁ、元気ならなぁ!」
「あら、何?」
「大事にしろよー!」
仁太が叫んだ。
仁王立ちだ。

仁太の母親は浮気などしていなかった。
父親は、後悔に打ちひしがれていた。
仁太は、寂しかった。
それでも、広太と晴美がいるから、何とかやっていけそうだ。

西瓜を食べながら、三人並んで、縁側で。
そろそろ昼下がり、暑い盛りだ。
「ね、これから秘密基地へ行きましょ!」
「三人とも、怪我しないように気をつけるのよー!」
「はーい!」
ここは三人揃って、ユニゾンで。

秘密基地で、密談を交わす三人。
「いいこと、両親には内緒よ!探検に出るの、この夏休み中に。」
「え、何処へ?」
広太と仁太の二人は、きょとんとする。
「山向こうのダムへよ!」
「えぇー!?」
二人は驚いた。
だが、晴美はやる気まんまんだ。
「決行は明日の朝。準備は欠かさないでね!集合場所はこの秘密基地よ!」
その後も密談は続いた。
「ダムの上から写真を撮って、SNSに上げるのよ!」
「晴美、そういうの好きだもんねー。」
「この出しゃばり女!」
「まぁ!むかつくわー!」
「バレたら怒られるよ。」
「顔は出さないのよー。」

夜、満点の星空の下で。
「綺麗ねー。流れ星は流れないのよね、こんな時に限って。」
「そんなに上手いこといくかよ。」
「明日、成功するといいね。」
「そうね。」
だが世の中、そう上手いことはいかない。
翌日、三人の身に思いもかけないアクシデントが降り注ぐことになるのだ。

翌朝、土砂降りの空模様。
先が思いやられる三人。
それでも決行したのだ。
子供だけに、勇気だけはある。
或いは、それは蛮勇だったかもしれないが。
もちろん、親は心配した。
大雨の中デイパックを背負って我が子が出かけるのだ。
無理もない。
だが、三人は振り切った。
それぞれ、互いの家へ本を持って遊びに行くのだと言って。

秘密基地前、地面はもう泥まみれだ。
ずぶ濡れになった三人が、ここで合流。
「さぁ、行くのよ二人とも!」
「大丈夫なのかよ、おい。」
「出たとこ勝負よ、レッツゴー!」
草叢を掻き分け、泥にまみれて前へと進む三人。
もう必死だ。

その時だった。
突如地面に足を取られる仁太。
そのまま勢いで斜面に転げ落ちる。
広太は悲鳴を上げた。
そこへ、今は亡き仁太の母親の姿が現れた。
少なくとも、残された二人にはそのように見えた。
仁太の母親は我が子を優しく抱き上げると、元いた場所へとそっと戻したようだった。

仁太は気絶していた。
泣き叫ぶ二人。
仁太の母親は何かを語りかけたようだった。
やがて目覚める仁太。
その瞬間、走馬灯のように母親との思い出の数々が思い起こされた。
この時が本当の意味での、仁太と母親との別れだったようなのだ。

思えば、今は丸っとした体つきの仁太も、産まれたての時には体重1,000gを切っていた。
それからも仁太は体が弱く、度々熱を出しては母親を困らせた。
或る日、仁太は母親に言った。
「何でぼくなんか産んだのさ、辛いよ。」
その瞬間、母親は号泣した。
それを見て仁太は、己の言い様を酷く後悔したのだった。

そこから、仁太は頑張った。
学校に通うようになってからも、勉強も運動も精一杯やり、人並みにはなった。
母親の思いが仁太を突き動かし、育んだのだ。

いっとき、仁太は学校で苛められていた。
母親は泣きつく仁太に、頑張れ、頑張れと言った。
仁太はその時は何でそこまで、と思った。
しかし、違うのだ。
母の励ましはやがて実りを生み、広太や晴美との出会いに繋がった。
母の支えが、今の仁太を生んだのだ。

今、三人は苦境にある。
自業自得でのことだ。
でも、乗り越えなければならない。
母親の思いを無駄にしてはならないのだ。

母親の最後の思いを胸に、仁太は目を覚ました。
泣きじゃくりながら、抱き合う三人。
せっかくだから踏破しようと、ダムへと土砂降りの中、突き進む。
アディダス、ニューバランス、ナイキ。
思い思いのスニーカーが、泥の上に足跡を刻んでゆく。
汗だくの中やがて三人は、ダムの傍まで近づくことが出来た。
結論から言うと、三人はダムへは入れなかった。
そこまで容易く侵入出来る施設ではなかったのだ。
当然だ。
だが、この一件で三人の絆はより深まった。

帰宅後、三人は母親からこっぴどく叱られた。
無理もなかった。
でも、その場にいる皆が泣いていた。
嬉しかったのだ。

秋。
新学期が始まった。
晴美は広太に恋をしていた。
だが、晴美は知っていた。
広太と仁太は付き合い始めていたのだ。
三人で、始業式からの帰り道。
晴美は言う。
「ねぇ、あなた達付き合ってるんでしょ!」
仁太の答えは、呆気なかった。
「おう、そうだよ。それが何か?」
晴美は激怒して去ってゆくのだった
「もう、馬鹿!」

何も知らない広太はボソッと告げた。
「晴美たぶん、仁太のこと好きなんだよ。」
その時、普段は滅多に働かない仁太の勘が、見事に働いた。
「晴美が好きなのたぶん、お前じゃないの、広太よ。」
「でもぼくは、きみが好き。手繋いで歩こ、仁太!」
さりげなく差し出される、ふっくらとした掌。
仁太はそれを、臆面もなく握った。
恋の秋到来、付き合い出したばかりの二人には、幸せへの道程が用意されていた。
辛いのは晴美だ、でも仕方ない。
三人の関係はこうして、新たな幕開けを迎えようとしていた。

それから、晴美が登校することはなくなった。
登校拒否になったのだ。
教室で、二人。
「なぁ広太、最近晴美こないな。」
「んー、ぼくのせいかもなぁ、どうしよ。」
「まぁでもこの場合、俺らがどうにかしようとしてもどうにもならないもんだしなぁ。」
「そっか、悲しいね。」
「まぁな。」
暫しの沈黙。
ホームルームで。
桐原教諭がその話題に触れる。
「源晴美が登校拒否をしています。誰か心当たりのある者はいませんか?」
二人は黙して語らなかった。
結局この話題はホームルームで持ち出されることは、二度となかった。

転機はすぐに訪れた。
突然の人事異動で晴美の父が転勤となり、引っ越すことになったのだ。
別れの日。
晴美は告げた。
「私、広太のことが好き!それは引っ越しても変わらない。元気でいて、二人とも!」
「晴美も元気でね、頑張って!」
その瞬間だった。
晴美が広太の頰に、キスをした。
それは晴美にとっての、ファースト・キスだった。
しかし甘美な味は、長くは続かない。
刻一刻と、別れは迫ってくる。
「またね。」
そう言って、晴美は泣いていた。
車に乗り込むと、号泣しながら手を振る。
振り返す二人もまた、泣いていたのだった。

晴美は、広太や仁太と出会うまでは、独りぼっちだった。
独善的な性格が仇となり、友達が出来なかったのだ。
腕力があり、怒らせると怖いということもあって苛められることこそなかったものの、学校では孤独を噛みしめる日々だったのだ。
広太と出会った時、最初は何とも思ってはいなかった。
だがその優しさに触れ、自分でも気づかないうちに恋に堕ちてしまう。

エピソードがある。
実は晴美と広太の家は隣同士なのだが、晴美がスイミングスクールに行った帰りにばったり遭遇することが、何度かあったのだ。
広太はその度に、晴美の荷物を持ってあげた。
たとえ出かける途中であっても、待ち合わせ時刻を遅らせてまでそうしたのだ。
晴美への好意があった訳ではない。
広太はゲイだ。
だが、自分や仁太と友達になってくれた晴美には、感謝をしていた。
だからこそ、度々親切をして恩返しをしたのだ。

晴美は親切をされているうちに、広太への好意を抱くようになった。
だがこれにはもう一つ訳がある。
今は病気で痩せ細ってしまった父もまた、元気な頃は広太と同じような背中をしていたのだ。
しかし悪いことに、自分の思いに気づく頃には晴美の引越しはもう決まってしまっていた。
初恋なのだ。
そうしたこともあろうというもの。
引っ越ししてから、涙を流すことも度々あった。
それでも翌日には元気になるのが、晴美流。
それに晴美はもう大丈夫、新天地で背中の大きな子を見つけたようだから。
その子も優しかったから、晴美ともすぐに打ち解けた。
恋仲になりそうな予感。
運命の風は、追い風へと変わった。
潮目が変わったのだ。

一方、広太と仁太はますます仲を深めていた。
広太は、気は優しくて力持ち。
仁太は、わんぱく坊主。
元々、気が合うのだ。
彼らはきっと、大人になっても支え合いながら生きてゆくことだろう。

学校からの帰り道、楓並木には色がついた。
真っ赤に染まったそれはまるで、晴美が好んで着ていた洋服の色のようで、二人には感慨深かった。

秘密基地は二人で使っている。
親に聞かれたくないちょっとした話をするのに、最適なのだ。
そろそろ思春期、いろいろある。

登校、授業、下校、それは晴美がいなくても毎日続く。
同じようなことの繰り返しの日々は、二人にはつまらなくも思えたが、どっこい、互いの存在がそれをいつの間にか面白くしていたのだった。

学校からの帰り道、ふとした瞬間に、二人は手を繋いだ。
もうすっかり慣れた手つきで、そっと握り合う。
目の前には、広く長い道。
二人には一瞬それが、未来まで続いているように見えて、嬉しかった。

広太の両親はもちろん、カミングアウトなどなくても二人の関係を知っていた。
大人なのだ。
当然なのである。

今日は広太と仁太が出会った記念日。
家に帰ると、広太の母親が二人のためにホールケーキを用意してくれていた。
やがて父親も帰ってきて、皆でお祝い。
照れ臭い二人、仏頂面で頰を染める。
でも本当は嬉しいのだ。

鈍色の日常でも構わない。
こんな日々が何処までも続けばいいと、二人はむしろそう思っている。
今、二人は幸せだ。
それはきっと、遥か彼方まで続いていくことだろう。

宵の前、共に歩く道。
沈みつつある夕陽に照らされて、二人は夕焼け色に染まっていた。
それでも構わない、どんとこいーー今の二人は、そんな心境で日没を迎えようとしていた。
そう、物語は何処までも続いてゆく。