[ NEW ! ] きみと共に歩こう

玄関先。
スニーカーを履く。
靴紐を解いて、結んで。
ちょっと気取って香水なんか振ってみる。
パパのをちょっと借りた。
ジーンズの裾はロールアップ。
お気に入りのトートを肩に掛けて、家を飛び出す。
ふわっ!
一陣の風が舞った。
ここはマンションだが、よくある外廊下なのでこうした事は度々ある。
エレベーターホールまで駆け出すと、買い物帰りのお隣のおばあちゃんと顔を合わせた。
「裕太くん、お出掛けかい?」
ぼくは黙って大きく頷くと、手を振ってエレベーターへと直行した。
ボタンを押すが、エレベーターはなかなかやって来ない。
待ち時間がもどかしい。
どういう訳かぎゅうぎゅうのエレベーターにどうにか乗り込むと、肩をすくませて一階への到着を待った。

降りると、そこには既に新しいママとその連れ子が待っていた。
前のママが事故に巻き込まれて空の星となってから丸一年。
パパはそれをけじめとして、新しいママを迎えたのだった。
その時、ぼくは連れ子の顔を見て、逃げ出したい衝動に駆られていた。
こんな感情を人に抱くのは、初めての事だった。
だってまだ小五だよ!
それなのに、ぼくは……。
その連れ子の事が好きだと、この時にはっきりと自覚したのだ。
一目惚れだった。
「やあ、裕太くん。話は聞いているよ。ぼくの名前は耕太。なんか体型、似てるね。よろしく!」
勢いよく片手が出て来たので、恐る恐るぼくも差し出す。
柔らかな掌。
鼓動が早くなり、気が遠くなる。
見ると耕太くん、顔を紅くしていた。
その様子を見て新しいママは、「あら分かりやすい事!別にいいけど、程々になさいね。」と言うのだった。
何の事か分からずにぼくは戸惑ったが、耕太くんは勢いよく頷いていた。
それは、ある夏休みの出来事だった。

ーきみと共に歩こうー
[リリカルライフのススメ]

その日は、日曜日だった。
ぼくは耕太くんや新しいママと一緒に、近所の古めかしいレストランに居た。
パパは月に一度の休日出勤だったが、いつも午前中で上がるので、その到着をみんなで待っていたのだ。
ぼくと耕太くんが食べていたのは、スパゲッティナポリタン特盛、ハンバーグ、それにライス大盛。
あとでプリンアラモードも来る。
新しいママは、オニオンスープとスパゲッティミートソース。
苺パフェも頼んだ。
ここはぼくにとっては初めてのお店で、メニューこそ平凡だが味はうんまい。
ただ、骨董品屋さんのような店内の雰囲気はちょっと苦手。
有り体に言って、薄気味悪くて怖いのだ。

カランカラン♪
店内に乾いた音が響いた。
扉が開くと、現れたのはパパだった。
午後12:20。
ちょうどお昼時である。
座るなりチキンドリア、唐揚げ、ライス大盛、ビッグパンケーキを頼むのである。
確かパパ、家で朝食をしっかり摂って会社に着いてからも、カップ麺とおにぎり二個くらいは毎日食べていたようであるから、ぼくの食欲はきっとパパからの遺伝なのだろう。
では耕太くんは?
新しいママはスレンダーな美女。
普通の男の人は、見目麗しいとか言うのだろう。
「ねぇ、前のパパ太ってた?」
ぼくが尋ねる。
耕太くんは凄い勢いで皿に乗ったライスを掻き込みながら、黙って大きく頷いてくれた。
「こら、品がないわよ!」
ママがそう言うので、口の周りにご飯粒を付けたままで耕太くん、照れ隠しに笑うのだった。
それがあまりに可愛くて、ぼくも真似っこをする。
「おい裕太、お前まで真似をする事はないだろう。」
パパからの突っ込み。
でも気にする事はない。
怒ったからといって殴るような人でもないからだ。
ぼくと耕太くん、顔を見合わせて、二人して笑い合う。
「なんだ、そう言う事か。まぁ、仲がいい事は悪い事じゃない。うまくやれよ、二人共。」
そう言うとパパ、皿に盛られた大盛ライスをこれみよがしに掻き込むのだった。
「あらあら、あなたまで。大人げないわあ!私はマイペースで行くのよ。」
ママはそれはもう優雅に、残りのスパゲッティを口に運ぶ。
でもパパががっつく姿はママにとっても、満更ではないようだった。

店を出ると、日差しが眩しい。
もうすぐ八月、まさに夏の盛りといった所だ。
「涼しいし、映画でも観に行かないか?」
気の利いたパパの提案。
これには、ぼくも含めた他の三人も乗った。
まぁ、ぼくも一応、乗ってみた訳で。
でもママ、知っているのかな?
パパの映画の好みって、かなりマニアックだよ?
そんな事を思いながら映画館に辿り着くと、案の定薄気味悪いパパ好みの映画が上映している。
タイトルからして、もう!
「ヨナグニサンと惑星ルメール」である。
ポスターには大きな蛾が写っていて、見る者の頭をクラクラさせる。
ここでママが一言。
「まさかこれじゃないわよね!ラヴ・ファンタジア、素敵!」
ママの勝ちである。
よかった!
ぼく、蛾は苦手だったのだ。
耕太くんもそれは同じだったようで。
「なあ裕太、ぼく死ぬかと思っちゃった。蛾はないよなぁ、蛾は!」
「あはは!ぼくも耕太くんと同じ事思ってた。」
「なぁ裕太、そろそろお互い呼び捨てにしよう!ぼくの事は耕太でいいよ!」
「えー、なんか照れ臭いや……。」
ドギマギしながらそんな事を言うと耕太くん、とんでもない事を言い出した。
「ぼく、きみのこと好き。裕太、キスしよ!」
「耕太くん、駄目だってばこんな所で!なんなら呼び捨てにするからさ、帰ってからにしよ!」
そう、ここは耕太くん……いや、耕太の勝ちだった。
目の前にはしてやったりといった表情の耕太。
それにしても凄い。
このやり取りだけで、恋愛について回る面倒な事柄をまとめて吹っ飛ばしてしまったのだ。
これについては、あとで話を聞かねば。
などと思っていると。
「二人共、恋愛もいいけど、程々よ。子供なんだから勉強も頑張るのよ!」
……筒抜けだった。
後で聞いたのだけど、ママ、大学で助教授としてジェンダー論を教えているのだとか。
ジェンダー論というのがそもそも、小学生のぼくには難しかったのだけれど、これについてはママが丁寧に教えてくれた。
そんな風にしてパパの事も教育しちゃったらしい。
なるほどね。
どうりで。
まぁ、ぼくと耕太にとってはとてもありがたい話だったのだけれど。

映画は、ただひたすら眠かった。
これは耕太も同じだったよう。
小学生にはまだちょっと難しい内容だったのだと思う。
それでも、それがかえって心地よかったのは二人揃って同じだったようで、微睡みながらの大満足の二時間なのだった。
空調の効いた室内のふかふかシートで、ポップコーンを食べながら、うとうと。
気持ちよくないはずがないのだ。

帰宅の途に着く。
今日からぼくたち一家四人の家は、耕太とママが住んでいた家となる。
ずっとシングルマザーだったママが築三十年で買ったという、庭付きの広めの古民家。
ママが動物好きなので、マンションは駄目なんだって。
ぼくとパパが住んでいたマンションは、売りに出す事になった。
これはぼくと耕太の教育資金に充てるのだとか。
何だか、プレッシャーだな。
荷物の引っ越しは、来週末に行われるとの事。
といっても、寝床はもうあるのだ。
パパとママは一階の和室で仲良くお布団。
ぼくと耕太は二階の板の間で、新調したばかりの二段ベッドだ。
二人とも太ってはいるけれど、耕太の方がひとまわり大きいので、ぼくが上の段。
今日から同じ部屋で寝起き、何だかどきどきする。

玄関の前。
ドアをママが開けてくれたのだが、覗き込むとミニブタやらアヒルたちやらネコたちやらが、こちらに向かって駆け寄ってくる。
中でも大迫力だったのはミニブタだ。
百キロはありそうな雰囲気で、気圧される。
「怖っ!」
心にもない事、というほどでもない事が、口をついて出てくる訳だけど。
「怖くない、怖くない。こいつ、何にもしないよ。りんごっていうんだ。好物がりんごだから、そんな名前。一応オス。引きこもりのお兄ちゃんがママの代わりに世話してる事も多いよ。ママ、売れないタレントもしていて忙しいからね。」
なるほど、よく見るとおとなしい。
賑やかなのはむしろアヒルだ。
ナキアヒルだとかコールダックだとかいうらしい。
これ、何羽いるのだろう?
五羽は視界に入ったのだが……。
首を捻っていると、耕太が。
「全部で七羽いるんだ。近所迷惑じゃないかってヒヤヒヤしたけど、どうも両隣は昔から空き家だったみたいで、苦情がきた事はないよ。全部オスだから鳴き声はこれでも小さいしね。」
何だかなぁ。
落ち着かないなぁ。
などと思っていると。
「じき慣れるよ!」
といって、耕太がぼくの頰にキスをした。
あまりの事にほんの一瞬、固まってしまったが、これがぼくのファースト・キス。
嬉しくて、思わず耕太に抱きついたのだった。
「こんな所で、はしたないわねぇ。中でお遣りなさいな。」
ママの声が聞こえるが、気にせずにじゃれ合う。
「部屋、片付けなさいよー!」
そういってママは先に中に入ってしまった。

耕太の部屋。
これからは、ぼくたちの部屋。
二段ベッドがあると聞いて想像していたよりも、狭くない。
勉強机は既に二つ、並んでいる。
この分なら前の家から持ってくる荷物は、少なそうだ。

夏休み中はミニブタ・りんごやネコたち、ナキアヒルたちのお世話はぼくと耕太が担当する事になった。ママは家でも家事に論文にラジオトークのネタ作りにと忙しいし、パパはパパで持ち帰りの仕事や趣味の読書がある。
引きこもりのお兄ちゃんも、動物のお世話は本当は好きではないようで。嫌々していたという訳、家に居させてもらうのと引き換えに。

ちなみにぼくたち二人の部屋には扉はなく、カーテンで仕切られているだけ。
「なぁ……あの時声出たら、絶対これ聞こえるよな。」
耕太はそういうのだが、ぼくには意味が分からない。
「ねぇ、それってどういう意味?」
ぼくがきょとんとしているのを見てじれったくなったのか、耕太、「もういいよ」といって布団に身を放り投げた。
拗ねてしまったようだ。
困ったな。
試しに、抱きついてみるか。
ここは素早さが肝心。
躊躇っている暇などない。
「えいっ!」
ぼくは耕太の上に馬乗りになると、そのまま覆い被さってディープ・キスなるものをしてみた。
ここでアクシデント。
引きこもりのお兄ちゃんが、部屋に入ってきたのだ。
お兄ちゃんはぼくたちの痴態には全く関心がなかったようで、りんごを連れて置いていくと、そのまま部屋を去っていった。
「な、このままおっ始めなくてよかったな!」
「そうだね、あはは!」
ぼくたちは笑った。
ぼくも分かった。
ここでは絶対に声は出せないのだ。
と、ここでりんご、二段ベッド下段の柵を乗り越えてこちらへ来ようとする。
「うわ、ベッド壊れる。とりあえずまだ夕方前だし、暑い時期で散歩にも早い時間だから、みんなで昼寝でもしよっか。」
さすがは耕太。
ナイスアイディア。
ぼくはりんごがのしかかってくる前に場所を空けると、梯子で上の段へと上った。
みんなでお昼寝。
これはこれで、幸せな時間。
ぼくは耕太の隣がよかったけど、そこはりんごの指定席なのかもな。
ここは新参者だし、仕方ない。

二時間程、経ったか。
部屋の窓からぼんやりと、沈む夕陽が見える。
眠い目をこすりながら梯子を下りると、ぼくは下の段の耕太のほっぺに、ちゅっ!
こうしてぼくたちは、りんごの散歩に出かける事にした。
「りんごにハーネス着けるから、ちょっと待ってて!」
耕太がそういってハーネスを着けている間ぼくは、本棚のコミックスの背表紙を眺めていた。
知らない漫画がたくさんある。
読んでみたくて、うずうずする。
とはいっても、もうりんごの散歩の支度も完了。
「さ、行こ!」
耕太の合図で出発。
階段を下りて、玄関へ。
「ねぇ、あなた。そろそろご飯だから、クッキー食べるのやめて頂けます?」
ティーポットから空になったカップに熱々の紅茶を注いで、サーブするママ。
そのまま居間と食堂への入り口を横切ろうとするぼくだったのだが。
「待って、ここでちょっと話を聞こうよ。」
耕太がそう小声でいって譲らないので、仕方なくりんごと共に腰を下ろす。
ぼくたちは入り口の手前に隠れて、無言だ。
りんごも、借りてきたネコのようにおとなしい。
で、パパはというと、不満そうに「あと十枚だけ」とかいっているのだが、ママに取り上げられてしまった。
「今日は鰻です!ご馳走が不味くなります、やめてください!」
ママの声が響く。
「仕方ない。ところであれは、大丈夫なのか?」
「あれって?」
「耕太と裕太だよ。今にもおっ始めそうな雰囲気じゃないか。まだ早くはないのか?」
「あら、いいんじゃない?止めたって無駄よ、隠れてやるもの。それよりコンドームの使い方教えた方がよっぽど有意義だわ。ほら、生なんて不潔じゃない?入れる場所が、ほら!」
「そこまでにしろ、分かった。そうだな、それもいい。それより二人共、そんなところに隠れていないで出て来るんだ!盗み聞きはよくないぞ!」
ぼくたちの事、パパにはバレていたのだった。
どうして?と一瞬思ったが、すぐにりんごのお尻がちょっぴりはみ出ていた事に気付く。
これぞまさに、頭隠して尻隠さず。
立ち位置の問題で、ママは気付いてはいなかったようだが。

「来い。コンドームの使い方、教えてやる!」
パパがズンズンと和室へ進む。
するとママ、「ちょっと待って!」
と言って駆け出した。
持ってきたのは、男子高校生の性教育用教材らしい。
時々高校に出向いては、サンプルとして配っている物の余りなのだそうだ。
なるほど、これはわかりやすい。
しかしなぁ……妙にリアルだ。
胸がドキドキする。
そんなぼくたちをよそに、「ほぅ、よく出来ている」などと感心しているパパ。
さすがは大人、余裕だ。

こうしてぼくたちの仲は、呆気ないくらいにパパとママ公認となった。
身体の関係も含めて。

りんごのお散歩中、ぼくたちはずっと無言だった。
散々引きずり回されて、ようやく家に到着。
いつもこんな感じらしい。
よく平気だな、などと思っていると。
「何でお前、ずっと喋らなかったんだよ?」
怒っている訳ではないようだったが、明らかに顔つきがおかしい。
「耕太だって、何で話さなかったのさ。」
ぼくが文句を垂れると、耕太、腹を抱えて笑い出した。
「だって裕太、顔茹で蛸みたいだったんだもーん!」
「それは耕太もおんなじだよー!」
二人して笑った。
りんごは目をパチクリとさせながら、キョトンとしていた。

その日の夜は、鰻を食べて精がつき、早速事に及んだのだった。
多分下の階では、同じ頃にきっとパパとママが……。

ぼくたちは事が済んだ後も裸のままお喋りを続けていて、気が付くと空が白み始めていた。
りんごはこの部屋の片隅に移動させられていた大型ケージの中で、すやすやと眠っている。
「ね、散歩行かない?空綺麗だし。近所の公園。」
キスをして、ぼくたち二人、立ち上がる。
すると実にタイミングの悪い事に、りんごが目を覚ましてしまった。
「しょうがない。一緒に行くか、りんご!」
耕太がりんごの散歩の支度を始めた。
まぁまだ比較的涼しい時間だし、ちょうどいいだろう。
そう思っていたのだが。
クーラーの効いていた部屋を一歩出た途端に汗が噴き出す。
「耕太、タオルいるよー!」
「おぅ!待ってな!」
「下で水筒も用意しようよ。」
「おぅ、そうだな。確か使ってないのもあった筈……。」

いろいろと準備をして、外に出る。
にわかに空模様が怪しい。
「どうする、散歩。」
「んー、こりゃあ駄目かもな。せっかく支度したのになぁ。」

その時だった。
頭上に裂け目が現れて、そこから漆黒の衣に身を包んだ蒼い目の少女が姿を現したのだ。
空を雷雲が覆い尽くす。
「私の名はクラリス。今、世界は未曾有の危機に晒されようとしている。時間がない。年齢的にちょうど、この国の小学五年生くらいの子供たちを探していた。そこの二人、私と共に来てくれ!さぁ!」
直後、裂け目に吸い込まれるぼくたち。
体が宙を浮く。
気がつくと、ぼくたちは黒い鎧を着て、見知らぬ場所に横たわっていた。
周りには同い年くらいの、何千人もの群衆。
クラリスが口を開く。
「諸君!我々は、支配されつつあるこの世界を救うために集うパルチザンである!後ろ盾は何もない。だが、戦え!戦わずして未来はない!幸いにして、きみたちの魂にはクオリアがある。このクオリアがきみたちの纏う鎧と反応して、あとは勝手に戦ってくれる。死ぬかもしれない。だが忘れるな!世界の運命は、きみたちと共にあるのだ。敵はグローリア。皆、我の後に続けー!」
クラリスに続いて駆け出す、ぼくたちとみんな。
確かに鎧が、勝手に動く。
だがここで、不気味な地響きが鳴った。
足を止める、みんな。
空間に巨大な裂け目が出来て、中から恐竜のようなサイボーグが現れる。
「くそ!もう現れたか!」
クラリスは悔しそうだ。
そして、叫んだ。
「ここはロンドン郊外。被害が拡大する前に、何としてでもここで抑えねばならない!行くぞ、突撃ー!」
その時、グローリアが喋った。
「よく聞け!全知全能の機械化鬼神、我が名はグローリア。神の祝福の鉄槌を、人類に捧げよう。受けるがいい!!」
赤い両目からビームが放たれる。
周囲の建物は軒並み、爆音と共に崩壊した。
「私は自爆する!そうしないと表面の金属装甲はびくともしないだろう。後は任せた。続け!」
クラリスはビームを巧みに避けながら、最大の弱点でもある敵の目に、間一髪で飛び込んだ。

轟くグローリアの悲鳴。
装甲は剥がれ落ち、内臓が剥き出しになる。
目を覆っていたレンズはひび割れて、ビームは四方に拡散する。
ぼくたちみんなは即座に、五十人ずつ特攻する事にした。
クオリアのエネルギーとグローリアの体内エネルギーとが化学反応を起こして、特攻のたびに大爆発する。
すぐに終わるかと思った。
だが、なかなか敵は倒れない。
ぼくたちの順番が迫ってくる。
「耕太、もうすぐだね。」
「怖いか?」
「うん。それにお別れしたくない、パパとも、ママとも、耕太とも。」
「そうだな。でも、時間だ。行こうか。」
耕太は鎧越しで手を握ってくれた。
ぼくたちは、涙した。
その時だった。
ちょうど二千人目が特攻し終えたところで、グローリアは最後の攻撃を兼ねて、自爆したのだ。
爆風で吹き飛ばされる、残されたみんな。
散り散りになったが、鎧のお陰で無事だったようだ。
鎧の中のスピーカーから、みんなの声が聞こえる。
可哀想だったのはイギリスの人たちだ。
イギリスの大部分は、グラウンド・ゼロとなった。
広がる廃墟。
周りには、ぼくたち二人だけ。
後に残されたぼくたちは、泣いた、泣いた。
そんなぼくたちの元にやって来て寄り添ってくれたのは、おんなじ鎧を身に纏った、他でもないパパだった。
「私もかつて戦ったんだよ。考えてみれば、いつかは通る道なのかもなぁ。」
「そうだ、パパ、その鎧は!?どうしてサイズが合うの?」
「あぁ、この鎧は着る者の体型に合わせて勝手に伸縮するんだ。私の魂には既にクオリアはないから、戦いには参加出来なかったがな。お前たち、いい動きだったぞ。ママを救ってくれて、ありがとう!」
「世界じゃなくて?」
「あはは!それもそうだな。でもな、私はママとお前たちとずっと一緒に居られるのなら、ほかの地球人全部を差し出してもいいとさえ思っている。それくらい、大切なんだ。」
「ありがとう、パパ!!」
「お前たち、これからもずっと仲良くするんだぞ!」

それからもぼくと耕太は、とても仲がよかった。
喧嘩らしい喧嘩などした事もないし、浮気なんてのもないだろう。
ただひたすらにウマが合う、そんな感じなのだ。
りんごや他の動物たちとも溶け込めている。
まだ夏休み、世話は大変だが、他に大してやる事がある訳でもないから、まぁいいのだ。
嬉しかったのは、りんごがぼくにも懐くようになった事。
ブヒブヒいいながらすり寄られると、心がちょっぴりウキウキしたりして、気分も上々。
今は夏なのでりんごのおやつにはスイカなども出す。
秋になるとさつまいもをよく与えるらしい。
りんごのスイカの食べっぷりは、豪快そのものだ。
トレーにのせて、切って出すのだが、むしゃぶりつく様には獣の血を感じる。
そうそう、最近お兄ちゃんから「りんごの夜の添い寝はお前たちに任せた」と言われて、耕太が嬉しそうなのだ。
ぼくも添い寝してみたいけど、ここは耕太に譲ろう。

季節は変わりつつあって、もうすぐ九月だ。
たくさんの思い出を残した夏休みも終わり。
宵の口、まだ蒸し暑いけど、クーラーのお陰でお部屋はひんやりと涼しい。
この家の至る所にクーラーがあるのは、人間のためというよりも動物たちのためらしい。
特にミニブタなどは汗腺がないために体温調節が下手だ。
きっとママの気遣いはありがたいだろう。

少しでも、少しでも、前に進めたら。
この頃思う事。
耕太との出逢いが大人への道を手繰り寄せたような気がする。
子供からの旅立ちの時。
それを無性に感じて、でもまだもどかしい。
焦る事はない、でも。
パパの事もママの事も嫌いではないが、今は独りになりたい。
時々耕太とも距離を置きたくなる。
何故だろう。
胸が甘く痛んで、少し身悶えしたくなるように、恥ずかしい。
なるほど、これが思春期の到来ってやつなんだなーー。

夕食前のひと時。
窓辺に立って換気のためにサッシを開け放つと、この時期独特の湿り気を帯びた生ぬるい風が吹き込んでくる。
すると。
二段ベッドの下段でりんごと寝そべっていた耕太が、スッとぼくの間合いに入り込んで、後ろから抱きついた。
「甘えちゃっていいんだぞ、ぼくにも、パパにも、ママにも。」
見透かされていた、そう思った。
風が少し強い。
前髪がなびく。
「少し伸びたな、髪。明日一緒に、切りに行こうぜ。」
「ねぇ。」
「ん?」
「耕太にはいいと思うんだ、時々恥ずかしいけど。でも、パパとママには、さ。」
「なーにいってんだ、お前!ぼくたち、まだ子供なんだぞ。甘えるのは特権みたいなもんだ。嫌でも大人になれば向こうから甘えてくるよ。」
「そんなもんなのかな?」
「そうさ。みんな平等に歳は取るもんさ。」
「じゃあ、ぼくが歳を取った時に耕太はそばに居てくれるの?」
「もちろんだよ!」
邪気がなかった。
瞳に嘘がないのだ。
まっすぐな眼差しに射抜かれて、くらくらする。
でも、だからこそ今、言わねばならない。
後悔のないように、少しでも。
「きみがぼくを選ぶなら、ぼくもきみと共に歩くよ。歩幅が違っても、合わせればいい。約束してくれるね、嘘だけはつかないって。一緒に、生きよう。ありがとう!」
抱きしめ合った。
これで、これから先どんな試練が待っていても、耕太となら、きみとなら生きていける。
きっとこれから先、二人でなら、どこまでもいけるから、だからーー。
愛してるだなんて、まだまだ口に出せない。
でも、これならいえる。
「大好きだよーー。」

お・し・ま・い



あとがき

まぁお読み頂いた時点でお察しだとは思いますが。
書き始めてから完成までは早くて、そんなに時間はかかっていません。
ただ、中盤は気に入らなくて一度ごっそり書き換えました。話の展開に何の変化もないのもぼくらしくないので、こんな感じに仕上がったという訳で。
去年よりはだいぶペースは落ちるかとは思いますが、また気が向いたら上げようかな、なんて思ったりもしています。
よろしければお付き合い頂けましたら、誠に幸いです。
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