習作 5 : [短文六連]




雨が降る

地面にぶつかって、弾けて音が鳴る

静かだ、それでも

こんな日は、ぼくに少しばかりの悦びをくれる

泣き虫の空と、のんびり、ゆらり

静かだ






心が疼く

夜の闇に紛れて、空を舞い上がる

今日もまた、駄目だった

あの人は、見向きもしてくれなかった

それでも、ぼくはめげない

いつの日かきっと、晴れ間は見えるはずだから

その時、あの人がたとえ隣に居なくても

今のぼくならきっと、まだ大丈夫

また飛べたよ

そんな想いを胸に抱いて、今夜は眠ろう






カメラを構える

今時、珍しいだろう

本職の写真家ならともかく、素人が鳥一羽を撮るくらいで一眼レフを持ち出すのだ

大袈裟かもしれない

父が、空の星になった

あの鳥のように、大空を目指せるだろうか

シャッターを切る

そこには、在りし日の父の笑顔が、確かに、しっかりと写っていた

あなたのいる場所へ、五十年後、きっと行きます



息子


ひとつひとつ、つぶさに観察してゆく

花にもいろいろあって、その表情は豊かだ

それはまるで君みたいで、ぼくはひとつため息をつく

ねぇ、祥一郎

君が大きくなった時、ぼくもまた成長していられるだろうか?

君が大きくなった時、ぼくは今日の日のことを忘れないでいられるだろうか?

ねぇ、どう思うかい?

「あなた、祥一郎、ご飯よ!」

さぁ、よかった、今日はカレーライスだ、旨そうだ!

立ち昇る湯気で、顔が少し上気する。

祥一郎、そんな時に不意に君を見て、そして妻を見て、ふと泣きそうになった

息子よ、まだ寝るなよ

夜はまだ始まったばかりなのだから

君となら、君たちとならきっとどこまでもゆける、そう信じられたから、ぼくはいつまでも、優しい男でありたいと願う

君たちもきっと、そうだろう?






遠い空を眺める

一歩ずつ、後退りしながら

心がじくじくと痛む

過去の呪縛から、逃れられない

思考が、空回りする

ショートしかけた脳内に、クローバーがひとつ

四つ葉だ

きっといい事、いつかあるんだ

ぼくは、後退りするのをやめた

夜明けは、もうすぐやってくる

閑話休題

妹が、結婚した

幸せになれよ、ただそれだけを思った

優しい兄ではなかった

それでも、人の道からは外れていなかったと、信じたい

心の棘を一本ずつ丁寧に抜き取っていって、前へと進めたら

優しい人になれたらいいな



無題


心の中に、ささくれが目立つ

辛いな、眠ろう

夢に微睡み、微笑み浮かべる

目が覚めた後で

心が痛み、悦び忘れる

日々そんな事の、繰り返し

一体いつから、眠るばかりで

砕ける心を、支えていたろう?

逃げていたろう

頭が割れるように痛むその時に、見えた

このまま寝たきりになって

それでこそ幸せを

幸せを、掴む自分が

涙に溢れ、悦びの嗚咽

植物人間、それでも

目が覚めているよりは、まだ

救われて、救われて……

それでもまだ人間だと、主張するのなら

死んでしまえと、一喝するのだ

それでいい、それでいい

辛くても、目を覚ませ

二本の脚で、立って歩け

このまま眠るくらいなら

もう一度言う

死んでしまえと

悦びなど要らない

生き抜け!

それが唯一の道

もう一度言う

生き抜け!
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