[ NEW ! ] この目で見て来た幸福の全てを、君に渡そう

君が瞬いた。
そんなことが必要なのかは、いつでも疑問に思っている。
かくいう僕も瞬きをしてしまうのだから、世話がないのだが。
こんなことを気にしてしまう僕は或いは、過分に神経質なのかもしれない。
それでも、他の誰よりも君を愛している、それだけは胸を張って何度でも言える。
覚悟は出来た。
そのことについてはのちに語ろう。
ずっと、憧れていた。
正直な言葉を、君から聞きたい。
もちろん、僕から聞くのだ。
だっていつまでも奥手ではいられないから。
片思いに違いない、そうであれば僕の方から告白するのは、ある意味ではひとつの誠意の証だと思う。
それ以外に方法のない、筋の通し方とでも言おうか。
これで終わりになってもいい。
そう、何度も言うが、そんな覚悟はとうの昔に出来ているのだ。
君の瞳に幸せが宿っているのなら、その相手は僕であって欲しい。
でも、違っていても構わない。
元々、図々しい願いではあるのだ。
恐らくは可能性は皆無だろう。
それでももしも結ばれることが出来たなら、これまでに体験して来た、この目で見て来た、あらゆる幸福を共に体験し、やがてはその全てを君に渡そうと思う。
それは僕にとっては、唯一誇らしいこと。

身内はいないに等しかった。
自業自得だった。
愚かだった。
中学を出てから寮住まいで働きに働いて、やがていつか君と共に暮らす夢が出来て、それだけを支えにこれまでやって来られた。
でも、辛かった訳ではない。
捨てられたって構わないのだ。
また何度だって、立ち直れる、やり直せる。
ただ君には幸せになって欲しいから、だから、僕は全力を尽くしてそっと陰から、君を見守っていたいのだ。
贅沢かな、迷惑かな。
それでも、何があっても守り抜こうと決めたから、だから、そっと側で見守り続けようと思う。
それが叶わなくても、それでもせめて--。
改めて言うよ。

-この目で見て来た幸福の全てを、君に渡そう-
[リリカルライフのススメ]

そう、二度と会えなくても、手遅れならば仕方ない。
それならそれで構わないから、最後の日だけは会って、笑って欲しい。
その笑顔をいつまでも目に焼き付けて、これからを生きようと思うから。

昔、ストーカーをやった事がある。
小学校低学年の頃のこと。
好きな子がいたから、耐え切れなくて。
自覚はなかった、全くと言っていい程。
ただ僕の行為が繊細な彼の心を傷つけたことは確かなようで、ある日突然学校の窓から飛び降りて亡くなった。
その子は独りで全部を抱え込んでいたから自殺の動機がわからず、結局容疑者らしい容疑者は、捜査線上には浮上しなかった。
助かったのだ。
それでも、世間の風は冷たかった。
ネット経由であることないこと僕の風評は拡散され、その事態を少なく見積もっても快くは思っていなかった僕の両親は、僕を実家から叩き出して親戚の元へと追いやったのだ。
それから何年もの間僕は、恋というものを心の中から封印していた。
初恋の相手が自殺したのは、私立大学附属小学校の三学年に進級する直前の、春の事だった。
実家から追い出されたので当然、僕は退学。
中途での退学、うちの学校では頗る珍しかったようだ。
通っていたのは先の通り、私立の学校だったのだ。
この事件以降、一家は離散。
結局叔父の元で暮らすことになったのだが、とにかく会話がない。
こちらから話し掛けても挨拶しても、決して声が返って来ることはなかった。
身から出た錆ではあるのだから、或る意味では仕方のないこと。
耐えるしかなかったのだ。
それが懺悔のひとつの形というものだろう。

新しく通い始めた公立の小学校ではどういう訳か、どこから話が漏れたのか、変態呼ばわりばかりされていた。
クラスメイトの父母からも敬遠されていたから、友達は誰もいなかった。
そのこと自体は、辛くはなかった。
ただ、あまりにも痛すぎる失恋だった。

中学を出てからは大工の見習いとして、汗と泥にまみれて働いた。
捕まらなかっただけでもありがたいのだ。
精いっぱい、頑張った。
画像がさほど出回らなかったのが、吉と出たのだろう。
目方が重いせいで最初は敬遠されたが、次第に馬力があることが評価され、居場所を獲得していった。
金属加工会社皆勤賞という、そのお陰で常務にまで上り詰めた父に似て、手先は器用だったから、その点でも見込みはあったようだ。

それから、恋愛は卒業しよう、そう固く誓ったつもりだった。
だがその後も恋愛は、今日までに二度経験した。
最後の恋愛は、ひときわ強烈だった。
突然現場に、これまでの人生で一度も見たことのないような可愛い子が現れて、僕が作業の全般を教えることになってしまったのだ。

どうしたものか。
恋心はすでに燃え上がりそうではあったが、相手はヘテロセクシャルかもしれない。
一般論としてはむしろ、その確率の方が遥かに高いのだ。
ここは慎重にならねばならない。
そう言い聞かせて、その上でなお粘ろうとしていた僕は結局、まだ愚か者のままだった。

それでも、やはり。
たくさんの、本当にたくさんの幸せを、掌から零れ落ちそうな程に、それも何度も何度も繰り返し、君の笑顔からもらって来た。
少しでも、たとえほんの少しでもその恩返しをしたくて、だから僕は足掻いてみた訳だ。
君のためにならばどんな事でも出来る、そう思えてならなくて、涙が堪え切れなくて、これでもかこれでもかと溢れて止まらなかった、君のせいだよ、たぶんね。
挙動不審でもいい、君とならきっといつまでも共にいられる、そう思ったからこそ、今ぼくは君の前にいる。
もしも君さえよければ、いつまでも側にいよう。
そう君に誓った、改めて。
師弟としてではない、ひとりの男として。

少なくとも想いはこのように、人並み以上にあったのだ。

それから数年後、耐えかねて。
ある日の作業後、夜、誰もいない裏路地で。
僕は自分でも思いがけない行動に出た。
君に告白と共にキスをした、無理矢理に。
押し退けられても仕方のない、馬鹿馬鹿しく粗野な行為ではあった。
でも、君は無抵抗だった。
そこから、僕達の交際は始まった。
まさに奇跡だった。
君はこう言った。
「知ってたよ、兄貴の気持ち。分かりやすかったからね。僕も兄貴となら構わないってずっと思ってた。いいよ、付き合おうよ。」
舞い上がった。
天にも昇る心地だった。
苦闘に次ぐ苦闘の末にようやっと掴んだ、楽園だった。
こうして、物語は始まった。
これは、僕達の恋が愛に変わるまでの道程を描いた小さな話である。

その日の晩から、同棲が始まることとなった。
君は酔った勢いで嬉しそうに転がり込んできたね。
その笑顔、生涯忘れないでおこうと今でも思う。
酔って笑って交わって、喘ぎ声を聞いて沸騰して、夢見心地で夜に溶け入る。
そんな毎日の始まりだった。
強引に手繰り寄せた幸せ。
無理矢理だったが、それでも確かに、この上なく嬉しかった。

夏の宵。
半月前に買った古民家の縁側で、君と二人並んで。
団扇を扇ぎながら生のジョッキを片手に、空に開く花火を見ていた。
昔、可哀想だった君は、今は幸せそうな笑顔で僕と共にある。
これはもう、この上ないこと。
君は言う。
「ねぇ、花火見終わったら、しよっか?」
こんな時、君はいつも積極的だ。

遡ること十五年前。
少年の時分、僕は脆くも砕け散った心の残滓を、拾って、掬って、掻き集めていた。
僕は辛かった、本当に。
二度目の恋の相手が、自殺をしたのだ。
何も出来なかった。
それどころか、憧れだけを抱いたまま、想いさえも伝えられずに終わってしまった。
僕はたぶんその時に、一生分の涙を流したのだと思う。
それくらいに、泣いて泣いて泣き喚いて、日々をやり過ごしながらどうにか生きていた。
彼は苛められていた。
そのことにさえ気付けなかった己の愚かしさを恨んで、その後丸十五年を独りぼっちのままに棒に振った。
当然の報いだった。
それでも心の何処かでやはり僕は、幸せになりたいと願っていたのだ。

それから、長かった。
十五年振りのときめきは、何処かビターなショコラのような味わいがした。
それは眩暈と共に訪れた衝動が手繰り寄せた、ようやっとの幸せだった。

毎日汗を流して、どろどろになって。
そんな中でも、君がいるならきっとまだ、大丈夫。
そう信じられた。
君も子供の頃、辛かった筈だね。
生まれて間もなく両親を事故で亡くした君は、親戚の間中をたらい回しにされて、行く先々の学校でその太ましい容姿を馬鹿にされていたね。

覚えているかな。
僕達は一度、子供の頃に会っているのだ。
その時も君は苛められていたらしい。
ただ、僕には君と苛めっ子達がただの友達に見えたから、何もしなかった。
愚かだった、本当に。
その時僕はただぼんやりと、可愛い子がいるなぁ、とだけ思い、惚けていたのだ。

夏の瀬戸内海、海の前の小屋で。
子供の頃にいなくなって久しい僕の母さんが、知らない男に抱かれていた。
小屋は男のものだ。
行きずりの関係だったのだろう。
情事が終わると母さんは、男に追い出されるようにして外に出た。
僕は声をかける。
「母さん、僕だよ、今行くよ!」
その声に気付いた母さんは、走り去ってしまった。
見失う僕。
また離れ離れになるのが悲しくて切なくて、その場に這い蹲って嗚咽を漏らした。
それが、一年前のこと。
実は興信所に依頼をして、母の居場所を探ってもらっていたのだ。
この時期にまでそれが遅れていたのは、これまではそれを依頼するお金もなかったから。
瀬戸内海にいる、そう知った時から、会いたくなった。
でも、会えなかった。
悔しかった。

それから一年。
もう母さんのことは忘れていた。
君が側にいてくれれば、それでいい。

或る日の夜。
弱った野良猫がふらふらと庭に入り込んで来た。
僕達はその野良猫をフゥと名付けることにした。
もちろん名前を付けたくらいであるから言うまでもないが、飼うのだ。
それを決めたのは、僕。
その野良猫、白と黒の斑模様の毛並みで、目が可愛かった。
警戒心が強く、おどおどしていたが、餌を食べる時は食事をする僕達と一緒、一心不乱だ。

フゥは自分のテリトリーに入られるのを極端に嫌がる。
そう、遠目に眺めている分には平和なのだ。
こうして僕達はフゥとの接し方を学んでいった。
当初は度々動物病院のお世話になっていたが、元気になってからは病気ひとつしない。
手間のかからない、いい子なのだ。
フゥはオスだ。
去勢はした。
僕達二人が仕事をしている間は、近所中を散歩して回っていた。
餌の時間になると決まって、ふらりと現れる。
これくらいがちょうどいいと、そう思わせる関係性。
“家族”が増えて、嬉しかった。

それから一年経った、夏。
僕達とフゥとの距離感は、徐々にではあるが、縮まっていた。
クーラーのない家、縁側で二人と一匹、並んでほのぼの、いい感じ。

そうそう、あれから僕達二人の距離感もぐっと縮まっていた。
朝起きたら歯磨き、終えたらキスは欠かさない。
ベッドも一緒なのだ。
元々の相思相愛、それはもう距離感も縮まる。
朝は和食、僕の担当。
時々朝から贅沢をする。
今日は仕事がお休み、気合いを入れて刺身と煮魚と豚汁だ。
フゥの餌はカリカリ。
わがままを言わない、やっぱりいい子なのである。

お昼、クーラーの下で微睡むフゥ。
この時間になっても家の中にいるとは、珍しい。
フゥのことはそのままにして、僕達は車でアウトレットモールへと向かった。
下道を使って一時間。
話をしていたらあっという間に着いていた。
服を見に来たのではない。
キッチン用品やコーヒー豆などを見て、その後フードコートで昼食を食べるのだ。
だが。
着いた途端に、僕に虫の知らせがあった。
「ねぇ、帰ろう。」
最初は怪訝そうな顔をしていた君も、次第に事態を飲み込んでいった。

玄関から居間に直行して、僕達はフゥの様子を見る。
息も絶え絶え、重体だとわかった。
もう長くはないかもしれない。
その時、君は泣いていた。
いや、泣きじゃくっていた。
その姿に、キュンとした。
不謹慎ながらも。
僕の君への想いが恋から愛へと変わった、それがその瞬間だった。

フゥは助かった。
間一髪だった。
かかりつけの動物病院の先生が腕利きで有名なのも、幸いした。

それから、僕に幸運が舞い込んだ。
母さんが東京に帰って来たのだ。
軍資金が底を突いたらしい。
それだけではない。
たまたま父さんと再会し、程なくして再婚が決まったのだ。
幾ら母さんが綺麗だとはいえ、これはきっとフゥのお陰だと思っている。
僕達は今どうしているかって?
もちろん、僕の父さんや母さんも含めて一緒に、皆で住んでいる。

そう、だから覚悟が出来た。
何もかもを失ってもそれでも、前を向いて生きて行く覚悟。
皆の代わりに自分が犠牲になる覚悟。
みんな出来た。
大丈夫、人間って案外身軽なものだ。
皆の笑顔は、僕の心の栄養、僕を羽ばたかせる翼。
それがあれば何処まででも身軽に、遥か彼方まで飛んで行ける。
皆のお陰だ。
人は生かされている。
それさえ忘れなければ、きっと何処まででも飛んで行けるーー。
だからこそ。
君に贈ろう、君に渡そう、この目で見て来た幸福の全てを。
幸福は独り占めをしていいものではない。
だから真っ先に贈ろう、君に、貴方達に。
そして笑顔が見られたなら、それはもうこの上ない幸福だから。
いつまででも歌おう、何処まででも歌おう、幸福の、未来の歌を。
大丈夫、君と、貴方達となら何処まででも生きていけるね、ねぇ、君よ。
みんな、ありがとう!

お・ま・け

今日は休日。
同居し始めた僕の両親は、旅行でいない。
「ねぇ、しよ?」
君は朝から元気だ。
昨日あんなにしたのに。
まぁまだ若いともいえる男なのだから、仕方ないか。
「よっこらしょっと。たまには駅弁でいくか。」
「それはむしろ食べたい。」
何をいっているやら。
「よし、腰がガタガタになるまでしてやんよ!覚悟はいいね?」
「オッケd(^_^o)」
こうして今日も僕達の幸福な一日が始まるーー。
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