[ NEW ! ] EVERYDAY, needs somebody’s love

[1] Introduction

車は、速度を徐々に上げてゆく。
首都高速、視界の先には浮世離れしたタワーマンション群と海が広がる。
四人乗りのオープンカー、頭上は星空の海。
幸せだった。
この時までは。
だが、運命は時に意地悪をする。
橋の上、突風が車を煽った。
混乱の中、ドライバーである一家の長は、ハンドル操作を誤る。
一瞬の出来事だった。
後部座席にいた双子の兄弟二人は無事だった。
だが、運転席と助手席に座っていた両親は、助からなかった。
繰り返し訪れる、涙のさざ波。
兄弟は悲しみに暮れていた。
互いの手を取り合って、兄弟は立ち上がるしかなかった。
小一の秋、まだ幼い二人の、これがスタートラインだった。

EVERYDAY, needs somebody’s love
[リリカルライフのススメ]

[2]

夢うつつ、微睡みの中で兄弟の朝は始まる。
義母が部屋に現れた。
寝起きの悪い兄弟を、揺すって起こす義母。
この時、兄弟は小二になっていた。
両親が不在となった兄弟は、遠縁の家に引き取られた。
これは朝の日課、毎日繰り返される光景、アラームには頼らないのだ。
「さ、康太、凛太、朝よ。起きなさい!」
「はーい……。」
のそのそと起き出す兄弟。
登校までの時間は、そうない。
兄弟は部屋から脱衣所まで向かうと、ダブルボウルの洗面台の前に仲良く並んで、歯磨き。
顔も洗って、朝食も食べずに出掛ける。
もうタイムリミットだからだ。
「たまには早起きして、朝食くらい食べなさいね。」
義母の声を背に、いざ出陣。

授業は、いつも退屈だった。
兄弟は、自分達には勉強は向いていないと、痛い程に自覚していた。
それでも、出席だけはしなければいけないという義務感はあったので、無断欠席をすることは決してなかった。
今日は小テスト。
いつもテストは赤点ギリギリの兄弟、予習などしてこよう筈もない。

翌日、小テストの返却。
また駄目だった。
後悔しても、時既に遅し。
しかし、兄弟にとってはテストの点数などどうでもいいこと。
それはもう、打たれ強くなっているのだ。
「なぁ、凛太はテストどうだった?俺はギリギリセーフ。」
「僕もセーフ!際どかったけどね。」
「おぉ、あぶねー!俺よりヤバいじゃんかよ!」
「えへへ、まぁね。」
そこへクラスメイトの晴太がやってきた。
その体型、三人揃って、丸みを帯びている。
寄り集まって、暑苦しいことこの上ない。
「僕な、28点!赤点だったんよー、残念!」
「宿題頑張れー!」
「おぅ!」

その後、給食の時間。
配膳係には晴太も加わっている。
「晴太、多めになー。」
「僕もー。」
「もう、無理なの、そういうのー!ほれ、行った行った。」
晴太が二人に給食のビーフシチューをよそうと、周りの生徒達が鼻をひくつかせた。
辺りには、仄かにいい香りが漂っている。
「いただきまーす!」
号令。
皆の挨拶と共に、食事の時間が始まった。
座席は、班毎にまとまって配置をする。
康太、凛太、晴太は裕子と同じ班、皆友達だ。
「なんか三人のビーフシチュー、多くなーい?ズルいんですけどー!」
「そんなことなーい!黙って食えー!」
晴太は裕子の文句に頰を膨らます。
実際、量はそんなに差はないのだ。
ただ他の三人同様、裕子もまた、食いしん坊ときている。
お腹が空いていたから、隣の芝が青く見えたのだ。
「それにしても裕子、太ったなー。」
「うるさーい!それより、秋じゃない?いい季節だし、今夜辺り肝試しでもやらない?」
「何処でー?」
「ほら、近所の!解体前の病院があるじゃない?年明けには取り壊しになるらしいから、今の内に行っておきましょうよ!」
「あー、彼処なー。怖くね?俺その病院の院長の息子だったから知ってるけど、怖い噂度々聞くよ?」
「だから肝試しにぴったりなのよ!ね、三人共行きましょ!」
「あーい。丸太橋公園に、夜七時に集合で。銘々飯は食ってこいよ。」
「了解!」
こうして、秋のビッグイベントは突如、決まった。
だがそこには、思いもかけないハプニングが待ち構えていたーー。

[3]

夜更けが早くなった、十月。
肌を撫でる風が、ひんやりとする。
木の葉が色付き始めてきたが、暗いのでもうよく見えない。
街灯が、辛うじて木々の葉に色を付ける。
待ち合わせ場所の丸太橋公園は、文字通りの丸太で出来た橋や、噴水のある大きな公園だ。
時計台の下で康太と凛太は、晴太と裕子を待っていた。
時は既に七時半。
待ち合わせ時刻を大幅に過ぎていた。
「おーい!康太、凛太ー!」
「遅いぞ、二人共ー!」
「私も晴太も、お父さんとお母さんを振り切るのに苦労したの。ごめんなさいね、言い出しっぺなのに。」
「まぁいいや、行こうぜ!二人共。」
「えぇ!」
「おぅ!」
四人は暗闇に近い中をそろそろと歩き出す。
目的地はすぐそこだ。
片側二車線の道路を挟んで公園の斜め向かいに、仮囲いに覆われた古びた病院の建物が鎮座していた。
今にも崩れ落ちそうなその建物は、肝試しにはもってこいの場所に思えた。
ここで凛太が声を発した。
「あー……。この仮囲い、どうやって登ろう。」
もっともな指摘だが、これには解決策がある。
「下見してあるの。隣の建物との間の隙間に、囲いの板のない場所が一箇所だけあるから、そこから私が入るのよ。三人には狭い隙間だから、ここで待つといいわ。私が中から正門を開けるから、大丈夫よ。」
「へーい。」
「あいよー。」
「了解ー。」
三人が銘々返事をすると、裕子は器用に身体を隙間に入り込ませた。
これは、誰にでも出来ることではない。

やがて裕子の言った通りに正門は開き、残った三人も中へと入る。
全て順調の筈だった。
だが、その様子を隣の邸宅のおばあさんが窓越しに、見ていた。
おばあさんは息子夫妻と共に暮らしていた。
旦那は既にこの世にはない。
「ねぇねぇ侍女さん、隣の廃屋に子供達が入っていったわよ。危ないから通報してあげて。」
「かしこまりました、お館様。」
この場合には通常、お館様という表現は用いられないが、おばあさんはその表現をいたく気に入っていた。
何故ならおばあさんの祖先は、名の知れた大名だったからである。

四人は恐る恐る、建物の中へと入る。
言うまでもないが、中は真っ暗だ。
床がミシミシと音を立てる。
抜けそうな箇所もあるくらいだ。
危ない。
でも四人は、怯まなかった。
蛮勇が、四人の足を前へと進ませた。

[4]

ふと、頭上から水が垂れた。
それを機に凛太は思い出す。
幼い頃、今住んでいる遠縁の家に遊びにきていて熱を出し、この病院へと担ぎ込まれたことを。
40.0℃を超えていて、危険な状態だった。
だがこの病院にやってきてから自然と、熱は下がっていった。
病院の院長は、父だった。
父から息子へと代々受け継がれてきた、院長の座。
それも途絶えてしまった。
実は病院は、より利便性の高い都心部へと移転していたのだ。
ここは取り壊され、賃貸マンションになる予定だった。
マンションの名義は父、亡くなったために計画は白紙となり、敷地は売り払われた。

葬儀の日、凛太は特に泣いた。
甘えん坊だったのだ。
康太はただひたすら、凛太の背中を支え摩っていた。

一同、嫌な予感がする。
特に凛太は、背中を震わせていた。
「ねぇ、帰ろうよ!」
凛太が叫んだ。
その時だった。
「坊ちゃん達、お久し振りです。ここは危ないです、戻りましょう。」
康太と凛太は、その警備員を知っていた。
かつてここに病院があった頃に勤務していて、顔馴染みだったのだ。
「君彦さん!」
「お久し振りです!迷惑かけてごめんなさぁい、、、。」
康太と凛太の二人は、警備員の君彦に抱きついた。
こうして、四人の秋の冒険は、終わりとなったかに見えた。
だが、ことはそう容易くは運ばない。
長年の経験で、何かが起こる、そう察知した君彦は、四人を守る体勢を整えた。
その時だった。
ガッシャーン!
大きな物音と共に、天井が抜けた。
降り注ぐコンクリート片。
君彦は四人を守るようにして、その身体に覆い被さっていた。
運良く助かったが、予断を許さない。
四人は即座に携帯で救急車と警察を呼び、建物の外に出た。
この後、四人皆がみっちり両親に叱られたことは、言うまでもない。
特に康太と凛太の義母は、泣き叫んでいた。
それだけではない。
一同皆が、病院跡の前で涙していたのだ。
四人は皆、心から反省していた。
二度とすまい、そう誓って、少しだけとはいえ成長したのだ。

[5]

春風が心地いい。
四人は、小三になった。
家族ぐるみの付き合いであり、四人の仲は相変わらずとてもいい。
以前と変わらず、教室での班も一緒。
あれから四人の一家は、君彦の元へと、毎月欠かさずに来訪していた。
君彦は病院でリハビリの真っ最中。
右脚に麻痺があるのだ。
病院代は四人の両親が出す。
「ねぇ三人共、今日の放課後、病院に行くでしょ!」
「行くけど、お前のせいでもあんだぞ、少しは反省しろよ。ま、他の俺たち三人も同罪だけどな。」
「わかってるわよ!私、帰りの鰻、楽しみー!」
これには、三人口を揃えて。
「全然分かってないな、裕子……。」

その後、お見舞いを終え、老舗の座敷で鰻重を頬張る一同。
中でもいつもの子供四人は、がっついている。
「あらあなた達、もっと上品に食べなさいよ、私みたいにー!」
「冗談止してよ!上品が笑い死ぬから!」
「あら凛太、失礼ねー!頭にきちゃう!」
「そういう時はな、凛太。冗談よし子、って言うんだぞ。」
「康太ちょっとそれ、何時代の何語ー?あなた、年齢偽ってるでしょ?私聞いたこともないわよ、そんな言い回しー。」
裕子の母がここで、四人に注意をする。
「ほら四人とも、鰻くらい黙ってしっかり食べるのよ!」
「はーい。」

ひとつだけ、変わったことがあった。
裕子が、凛太に恋をしたのだ。
でも、言い出せない。
知っていたのだ。
他の三人が皆、ゲイであることを。
だから、鰻と共に凛太への想いを、飲み込んだ。

帰り道。
「みんな、また明日ねー!」
裕子が最初に声を上げた。
「おぅ、またな!」
「またねー!」
「アディオス!」
他の三人も、続いて挨拶を交わす。
「ちょっと晴太、最後くらいちゃんとしなさいよー!」
「アディオス!」
裕子は怒るが、晴太は調子に乗るだけだ。
「もぅー!」

その後、兄弟の部屋にて。
「冗談よし子はネタが古かったな。でもアディオスも今時遣わねぇよな。」
「というか、康太にしても何処からそんな小ネタ拾ってくる訳ー?よくわかんない。」
「俺、お前のこと好きだぞ。」
「なに、突然。知ってたよ。でも、兄弟だしなぁ。」
「関係ねぇよ、キスするぞ。」
その時、凛太は逃げなかった。
代わりに、目を閉じた。

長いキス。
二人の想いの分だけ。
いつまでも共にいよう、そう誓った春の宵。
ずっとずっと心に残る、大切な大切な出来事だった。

[6] Conclusion

康太と凛太の二人は、無事に結ばれた。
義理の両親までもが、それとなくその事実を知っているという有様。
それでも裕子は、気丈だった。
そう、それを知ってなお、友達でいようとしたのだ。
或いはそれが、この時の裕子に出来る精一杯だったのかもしれない。

愛しくて、切なくて、締め付けられそうな胸を抱えて、恥ずかしくて。
四人それぞれが、各人なりの、ひと足早い思春期を迎えようとしていた。
どうして僕はここに、君といるんだろう。
たとえそれに理由がなくとも、僕は、君が、好きだーー。
凛太の想いは、康太にちゃんと届いていた。
両想い、船出は順風満帆だ。
兄弟でも構わない。
恋に、愛に理屈や説明などいらないーー。
そんな想いを胸に抱えて、康太と凛太は今、幸せだった。
今はいない実の両親の分まで楽しんでやろう、心から二人は今、そう思っていたのだった。

-The End-
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