[ NEW ! ] Still in the middle of it

[1] In the air : Introduction

夜中、デイベッドの上で。
君と二人で、酔ったまま寝そべり、転がって微睡んで。
空中を揺蕩っている、そんな気分。
でも何故か、周囲の景色が目まぐるしく変わってゆくような。
これから二人にしかない速さで、何処までも行こうか。
君はどうしたい?
僕は前に進みたい。
それから、ひとつだけ言っておく。
俯瞰だけはしないで。
そんなに高みには居ないで。
僕が壊れてしまうから。
分かってくれるかな。
準備が出来たら、出発だよ。
さぁ、行こうか。

Still in the middle of it
[君に追い付きたい]

[2] Clouds

「そんなには急げないよ、ねぇ、晴之!」
僕は叫ぶ君の手を取って、駆け出していた。
色々な意味で、胸が痛い。
でも、気にしない。
そんな場合ではないのだ。

君には本当はいつでも、ゆったりと隣りで寝そべっていてくれれば、そう思っていた。
だが、今は急がねばならない。
「ほら、乗って!」
君のお尻を後ろから押して、乗車を急かせる。
二人して車に乗り込むと、パーキングブレーキのスイッチを解除、アクセルペダルをそろそろと踏み込んでゆく。

車は一路、海岸沿いの道路を目指していた。
日の出を見るためだが、雲が多い。
気になる。
「ねぇ、今日は無理なんじゃないの?初日の出じゃないんだし、止めとけば。」
「大丈夫、予報では晴れだよ。」
「予報なんて外れるよ、もう知らないからね!」
緩いカーブに沿って、車を加速させてゆく。
高速に乗って一時間、下道に降りると程なくして海が遠くに見えて来た。

「そろそろ夜明けだ、飛ばすぞ。」
その時、俄かに雲が立ち込めて来た。
ゲンナリして減速をすると、警察の速度超過取り締まりが行われていて、既のところで危機を脱したのだった。
「よかったね、晴之!」
「うん!でも夜明け見られないんだよなぁ、残念!」
「また今度来ればいいよ。」
日の出は見たかったが、結局僕は空の雲に助けられていたのだった。

[3] Minimalism

僕はいわゆるミニマリストだった。
中も外も真っ白な一戸建てに住み、家の中には何もなかった。
いわゆる、がらんどうに近い住居。
竣工当時まだ十八歳、未成年であった。
一戸建ての資金はもちろん、工場を経営している両親からの生前贈与である。
今も二十歳の小僧に過ぎないのだから、生意気には違いない。

改めて。
僕はミニマリストだ。
テレビさえもない、そんな生活。
それが一番だと、そう思っていた。
その考えを改めたきっかけが、君との同居だ。
君はたくさんの荷物を持っていた。
どうしても捨てたくないのだという。
結局、僕が折れた。
持ち込みを許可したのだ。

あの当時、僕はイライラしていた。
「何だよ、この本の山は!」
君の荷物の中でも特に多かったのが、本。
置く場所がなくて床に山積みにされていたのだが、その殆どがハードカバーのものなので、蹴つまずくと痛いのだ。

レコードやCDの山も、僕を悩ませた。
まさか踏み割るわけにもいかないのだが、やはり床に山積み。
君が何を考えているのか、当時の僕にはわからなかった。

僕はミースに憧れていた。
この家も、それ故に設計されたものだ。
真っ白な外壁と内壁、ステンレス製のオールフィックスのガラスウォールによるファサード、装飾を徹底的に排した建具。
典型的なモダニズム建築そのものだ。
それも繊細な、まるでミースのファーンズワース邸を大きくしたかのような、贅を尽くしたようなもの。
食器洗い乾燥機にでさえも、取っ手がない。
ダブルノックすると扉が開くのだ。
IHもビルトインオーブンもビルトイン冷蔵庫も、どれもが目が眩む程に美しい。
余計な家具も、一切なかった。
それが時を経て、今はまるで室内がドン・キホーテの店内のようだ。
どうしたものか。

ふと、苦虫を噛み潰したような表情だと君に言われた。
それもそうだろう。
でもこれは、君のせいでもあるのだ。
少しは責任を感じて欲しい。
何にも分かっていないようだが、僕はこれでもミニマリストなのだ!
内面の均衡を得て、精神の面でもミニマル且つフラットであろうとするために、ゲームすらもやらない。
雑多なパッケージやら攻略本やらが散乱するのも頂けない訳で、まぁ当然な訳だ。
そして何より、クリアな思考を保ちたい。
君は魅力的だが、ここは僕の家なのだし、少しは気を遣ってくれてもよさそうなものだが。
“ねぇ君よ、そこら辺、どうなんだい?”
尤も、僕にはそんなことを君に偉そうに言うだけの資格はない。
まぁ、仕方ないのだ。
君の笑顔のためなら、いくらでも忍耐しようというもの。
それが、かつて君に悪いことをした僕の中での、道理だ。

[4] 君に追い付きたい

君には幼いところがあるが、それでも今もって僕は、君に追い付けないでいる。
走っても走っても、置いてきぼり。
僕は君以上に幼いのだ。

君は小さい頃から、同級生に嫌がらせを受けていた。
僕は知っていた。
何故なら僕こそがその同級生のひとりで、嫌がらせの首謀者だったのだから。

妬ましかった。
見ているだけで、腹が立った。
それらが全て君を愛おしいと感じていたからなのだと気付くまでには、その時はまだ少し時間が必要だったのだが。

僕はよく、君の服を脱がした。
見たかったのだ。
だがその時は、己のそんな醜い気持ちには、気付いてはいなかった。
それでも、僕は君の裸体を見て、精通前とはいえよく絶頂を迎えていたものだ。
止められなかった。
愛おしい筈の君が悲しそうに泣いていても、僕は己の手の動きでさえも止めることが出来なかった。

そんな或る日のこと。
僕はいつも通りに皆の面前で、君のことを“犯そう”とする。
その時だった。
前兆はあった。
君の雰囲気が、いつもとは明らかに違うのだ、面食らった。
君は何故だかニマニマとして、「いいよ」、それだけを言って笑うのだった。
途端に、恥ずかしくなった。
何も出来なくなった。
僕はその場はどうにか取り繕い、君を学校の屋上へと呼び出したのだった。

昼休み、屋上にて。
僕は君に、告白をした。
「好きになっちゃった。今までごめん。付き合おう!」と。
君はやはりニマニマとしながら、「知ってたよ、オッケ!」とだけ言って抱き付いて来た。
それまで笑っていた割には、君は僕の胸の中で、おろおろと泣いていた。
誰も居ない屋上での、生涯忘れられない出来事だった。
それ以来今日まで、僕は君に頭が上がらない。
これは仕方ない。
君となら、それでいい。

君に追い付きたい、いつか肩を並べて共に歩いてゆきたい。
それはずっと前からの、僕の心からの願いだった。
もちろん、それは叶う筈もなかったが、それでも僕は諦めたくはなかった。

君となら共に歩いてゆける、そう信じられたから、僕は君に己の未来の全てを託した。
君もそうしてくれるだろうか?
もちろん、そうには違いないのだろうが、僕には少し照れがある。
「僕のこと、好きか?」
恥ずかしいので、ツンとした面持ちで。
「何を、今更。大好きだってば、決まってるでしょ!いつまでも付きまとってやるから!」
やはり君も、ツンとした面持ちだったのだが。
不意に、キスをされた。
二人の間に、風が吹き抜ける。
「キスって気持ちいいね!僕を選んでくれて、ありがと!」
君はそう言って、またもやニマニマと笑うのだった。
君のそんな笑顔が大好物な僕もまた、同じように笑っていた。
君と僕とで、いつまでも共に唄ってゆきたいーー僕は心から、そう思っていた。

[5] Meet in the middle

振り返る。
十五の春。
旅立ちの時。
成績の良くなかった僕達は、揃って僕の父の工場に就職した。
職場でも、仲はよかった。
君とこれからも共に居たい、あの時も今と変わらずにそう思っていた。
でも勇気がなくて、あと一歩が踏み出せない。
君の周りに、不穏な空気を感じていた。
不安で身動きが取れなかった。
目醒めろ、自分。
夢を、恋を終わらせないためには何が必要か。
土壇場でも根性さえ見せれば、大抵はそれでいい。
でも、時には違ったアプローチも必要だ。
周りの声を無視したままでは、何も聞こえない時もある。
ふと、溜め息が漏れた。
その時から六日間だけ前のこと。
静かな部屋で、僕は書き物をしていた。
君へ送るインビテーションだ。
二人だけのパーティ。
本当はこんなもの、要らない。
それでも送るのだ。
ありったけのまごころを込めて。
封をして、ポストに投函する。
君に届け、それだけを思いながら。

その三日後、意外な人物から連絡があった。
君の父からだ。
迂闊だった。
パーティには出られない、慇懃無礼にそれだけを告げると、電話はすぐに切れた。
冗談ではない。
許せない、とは言わない。
僕にそんな資格はない。
もとより、そんな高邁な存在では僕はないのだ。
それでも。
そんなに高みから僕達の仲を引き裂くのは、どうだろうかと、そうも思うのだ。
時が経つのは思いの外早い。
あっという間に、パーティの当日。
それは、今からちょうど五年前のことだ。
今は、揃って二十歳。
準備だけはしておいた。
駄目かもな、そう思ってはいた。
僕は、君ひとりが来てくれれば、それでいい。
だが当日、思わぬことが起こる。

時間だ。
インターホンが鳴る。
この日は両親は不在。
そのタイミングを、狙っていた。
君に違いない。
僕は駆け出していた。
喜び勇んで扉を開ける。
だが、そこに居たのは、三人だった。
君と、その両親ーー。
腰が抜けそうだった。
君以外の目の前の二人は、僕のことをこれでもかと、睨み付けていた。

会食は、淡々と進んだ。
人数は当初予定よりも多かったが、ご馳走をたんまりと作っておいたので、どうにか足りたのだった。
ひりひりとする、空気感。
それでも、こうして君の顔を見ることが出来ている。
ここは妥協すべきだ。
と、君の父がここで切り出す。
「もう無理だな、と分かったよ。息子を押さえ付けておくのは。晴之君、充のことは任せた。添い遂げるんだ、でないと許さない!たとえ充の上司であっても!」
君の、充の父は握り拳を作って、どたんと音を立てて席から立ち上がった。
僕には余裕がある。
そんなことは朝飯前だからだ。
だから一言、こう言った。
「もちろん、喜んで!」
この言葉を聞いた君の両親は、少しばかり安心した面持ちを見せて、僕の家を後にした。

それからの年月、僕達はいつでも幸せだった。
住まいは変わったが、きっとこれから益々幸せになることだろう。
それにしても今から振り返ってみると君の両親は、僕の両親に怯えているようにも見えた。
無理もない。
君の、そう、充の勤め先の社長が僕の父なのだから。
僕は少なくともあの当時はその事実を目一杯に利用していたのだから、少しばかり狡いような気も、自分ではしていた。

[6] Prima donna : Conclusion

君はクラシック音楽が大好きだ。
オーディオにも少しは凝り始めた。
尤も、お代は僕持ちなのだが。
昔の報いだ。
これも当然のこと、仕方ない。
君は管弦楽曲や室内楽が好きだったようだが、最近になってオペラを聴き出した。
映像を見ながら、対訳を見ながら、音楽を聴く。
側から見ていても、大変なことだ。
僕にはさっぱりわからない。
僕はジャズが好きなのだ。
クラシック音楽は好んでは聴かない。
君のいいところは、自分の価値観を僕に押し付けないところだ。
でも、いつかは二人でコンサートホールに行ってみたいというのもあるから、少しずつ勉強はしていこう。
勉強とはいっても、職場のそれよりは少なくとも数段楽しいのだから、きっと大丈夫。

有り体に言えば、君さえ居てくれれば、僕はずっとずっと、楽しく生きていける。
時には弾けることも必要、泣くことも、笑うことも必要。
でもそれは、君の存在あってこそ!
いつまでもどこまでも、君と共に生きたい。
だからもう一度言う。
聞き逃さないで、耳を澄ませて。
恥ずかしいから、小さな声で言う。
“大好きだよ!”
いつかきっと心から愛せるようになるから、その時まで待っていて欲しい。
まだ愛というには幼いけれども、いつかはその日が来るから。
僕は君にいつか追い付くから、その日が来たら、共に歩こう。
その時まで、僕はがむしゃらに走り続けるのだ。
君のお陰で踏み出せた一歩、人生の一歩。
心から感謝して、今日も君と共に眠る。
明日、晴れるといいなーー。

-The end-
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