[ NEW ! ] LONGING for PARADISE

[1] Confession : Introduction

君という楽園への憧れを、僕はその心の内に、ずっとずっと秘めていた。
始まりは、九歳の頃のこと。
転校生としてやって来た君の姿を一目見て、恋に堕ちた。
思わず仰け反ったのを覚えている、机に座ったままだ。
君は怪訝そうな顔をしながら、僕の座席の隣に腰を下ろした。
それからの僕は君のことを、遠巻きながらもずっとずっと、見つめていた。
けれども君は所詮は、遠い遠い存在に過ぎなかった。
僕は君を見ながらいつでも、歯軋りをしていたのだ。
時には涙も、流した。
止まらない夜もあった。
それでも僕は、諦めなかった。
いつの頃からか心の中でそう、誓っていたからだ。
君の前では、何も言えなかった。
でも、恋の炎だけは絶やさないようにと、必死に薪をくべていた。
歯を食い縛って、這い蹲って。
そんな日々を乗り越えて、十三の冬、ようやっと告白を果たした。
泣きべそをかきながら、ただ「好きだ」、それだけを告げた。
君はただ頷くだけだった。
拒否されたのかとも思った。
だが次の瞬間、君は僕の頭を撫でてくれた。
何が何だかわからなかった。
それでもただ、そう、ただひたすらに、嬉しかったーー。

LONGING for PARADISE
[MIKENEKO to SHIRONEKO : Garden]

[2] Before I knew it, I had fallen asleep

今朝も君と添い寝。
君と早く共に暮らしたくて、敢えて中卒で就職した僕。
二人揃って、まだ十五。
親は止めなかった。
君と僕との、ダブルインカム。
だからこそ何とか、暮らしてゆける。

今日は二人揃って休日。
夏だから外は暑いけれども、クーラーが効いていて室内は気持ちがいい。
こんな時は、うたた寝もより楽しい。

君は付き合いだしてから今まで一度も、本当に一度たりとも僕に好きだとも愛しているとも言わない。
何かはあってもよさそうなものなのだが。
それでも、その代わりにことあるごとに何度も、頭を撫でてくれる。
だから大好きだ。
実は僕も、愛しているという言葉は重たくて苦手なのだ。
代わりにいつでも、大好きだと告げている。
嬉しそうにしてくれるから、その度に幸せいっぱい。
関係はないが、生き様という言葉も嫌いだ。
幾ら何でも、大袈裟に過ぎると思うのだ。
僕はまだしも、君まで嫌っていたとは、生き様という言葉も嫌われたものだ。

「おはよ、秀嗣。先、朝風呂入ってくるね。終わったら、しようね。」
君にそう言われて、それでもまだ眠くて、手をひらひらさせて返事の代わりとする僕、どうしようもない。
シーツの残り香、君の微かな寝汗の匂いで、僕は次第に安らいでゆく。

いつの間にか寝てしまっていたようで、身体の荒々しい動きで目が醒めると、僕は君に貫かれていた。
小さいけれども、そんな感じだったのだけれども、幸せな、幸せな朝だった。

一頻り行為を終えると、交代でシャワーを浴びて、出かける支度をする。
東京湾フェリーで海を越えて、久里浜まで遊びにゆくのだ。
そのまま電車で、鎌倉まで出る予定。

僕達の地元は金谷の近くだ。
だからフェリーは便利なので、よく使っている。
何より、思いの外料金が安いのだ。
フェリーの二階席からは、海が一望出来た。
内装が古いが、テーブルが広くて、座席も快適だ。
今日はよく揺れる。
帰り、欠航にならないとよいのだが。

その後、暫し。
僕達は小町通り沿いのイワタ珈琲店でプリンアラモードを食べていた。
ホットケーキで有名な店だが、プリンもまた美味しいのだ。
ここは混雑店だから、食べ終えるとすぐに器が下がってしまう。
そうなるとお会計をせざるを得なくなるので、ここはちびちびと食べて粘る。
千円もしたのだ。
せっかくの庭の見える極上の席、五分で出るのはもったいない。

[3] GARDEN

しばらくの間そんな感じで、居心地のいい座席を陣取っていると。
窓の外に白いペルシャ猫が現れて、手招きをした。
よく見ると首輪をしていない。
野良だろうか、まさか。
そんな風に二人して思っていると、そのペルシャ猫、僕達に話しかけてきたのだ。
誰にでも聞こえる声ではないようだ。
驚いた。
「お店の外に出て頂ける?お話があるの。」
ペルシャ猫が駆け出したので、慌てて席を立ち、お会計を済ませて店の外に出る僕達。
目の前には、先程の白いペルシャと三毛猫が二匹揃って、並んでいる。
両方とも雌だ。
で、用件。
何を話すかと思えば、「私達を飼ってくれない?いい仕事するわよ。」といった調子。
ガーリーでちょっとわがままな、可愛らしい猫達だ。
僕達は築四十年の小さな古民家に住んでいて、賃貸だがペットの飼育は認められている。
間取りは2Kなのでとても小さいが、お風呂はある。
猫二匹、まぁ可愛いし、せっかくだからいいか。
二人してそう思っていたので、この話は成立。
猫達は後からヒッチハイクで来るというので、まぁ驚きはしたのだが、僕達はそのまま鎌倉観光を楽しんだ。

江ノ電で藤沢へ。
久し振りのことだ。
途中、鎌倉高校前駅で下車。
線路越しの圧巻の景色を眺める。
「ね、ここいつ来ても凄いよね!」
「そうだなぁ。いつか一緒に、海沿いに住みたいなぁ。」
結局その後、藤沢駅前のビルでサンマーメンを食べて帰途に着いた。

さて、誤算だったのは、二匹の餌。
何と“金色の缶詰”でないと食べないのだという。
あれ、物凄く高いのだ。
僕達、貧乏なのに。
涙が出そうだ。
季節はいつの間にか冬になっていた。
冬は寒いから、余計に食べるのだろうか?
僕達の憂鬱を尻目に、二匹はノースポールの花咲く庭で、機嫌よさそうに駆け回っている。
元気なものだ、ただでさえ寒いのに。
程なくして庭は、二匹のとっておき、お気に入りの場所となった。

僕には、気になっていたことがあった。
「ねぇ、そこの二匹、名前は?あと、何でうちに来たの?」
「私はペルシャの野良、リューシュ。こちらの三毛さんは、ローズっていうお名前よ。ペアで人助けをしてきたのだけれど。その話は少し後にするとして。ここに来たのは、庭が素敵だったから。野良は疲れたの。人助けもひと休み。これから末長くよろしくお願いするわね。ね!きっといいことあるわ!」
この様子だと、“いいことあるわ”だなんて、甚だ疑わしい。
本当かな、と思う。
「私達、ノースポールが好きなのよ。こんな素敵な庭はきっと、楽園に違いないわ。危機回避の魔法があるの。いつか危ない時に使ってあげるわ。だからたくさん可愛がって頂戴ね!」
「危機回避の魔法ね、何だかなぁ。」
思わず僕は零した。
だがのち程このフレーズは、僕達にとって重要な意味を持つことになるのだった。

[4] Life will change

その瞬間、人生が変わった。
季節外れの冬、空からの稲妻が、家の前の路上に佇んでいた僕の姪っ子を直撃した。
泣き崩れる僕の姉。
遊びに来ていたのだ。
残念ながら姪っ子は、即死だった。

その時から姉は、変わった。
「あなたが死ねばよかったのよ!」
これが口癖になった。
今までは優しかったのだ。
しかしこれは最早、どうにもならない。
亡くなった人間を生き返らせるのは、三毛猫の力をもってしても難しいらしいのだ。

それにしても、瞬間を目撃したのだ。
僕達のショックも大きい。
姉は毎晩のようにやって来ては、僕達に絡んでくる。
そんなある日。
サコッシュを斜めがけにした姉が、今夜もやって来た。
「やぁ。」
迂闊に玄関扉を開ける僕。
次の瞬間、さらに運命は大きく変わろうとしていた。
「死んで!娘のために!仇!」
サコッシュからペティナイフを取り出すと、姉はこちらに突進して来た。
「危なーい、秀嗣さん!」
叫びながらも、微動だにしない猫達。
先日の稲妻の際には、猫達は運悪く眠っていたのだ。
その点、僕は運がいい。
既のところで、姉が固まった。
さらに三毛猫が魔法をかける。
姉はこの瞬間に、妊娠した。
間違いなく、旦那の子を宿したのだ。
どうやったのかは想像もつかないが。
再び動き出した姉に、ペルシャが告げる。
「妊娠したわ、あなた。大切に育てるのよ。今度は私達がいるから、大丈夫!」
泣き崩れる姉。
掌に収まっていたペティナイフは、地面に落下していた。
僕と姉はこうして、和解した。

今も姉は我が家に、度々遊びに来る。
新しく生まれた甥っ子を連れて。
甥っ子は、姉に似て綺麗な顔立ちをしている。
女の子にはきっと、モテるだろう。

姉には笑顔が戻った。
時々悲しそうな瞳はするのだが。
「仕方ないのよね。亡くなったゆっちゃんの分まで、大翔のことは幸せにするから、許してね、ゆっちゃん。」
ある日の夜、姉はそう言って泣き出してしまった。
こんなことが時々あるから、心配にもなる。
その時、うちの三毛猫が叫んだ。
「Change your life !」
姉につわりが訪れる。
またもやの、妊娠である。
「あなたと旦那さんの子よ!悲しんでいる暇はないわ!しっかりと育てるのよ!」
姉は一言「ありがとう」とだけ言って、その場に泣き崩れた。
姉は猫達に特殊な力があることは、会話などからとうに察していたから、この反応は不思議ではない。

人生が変わる時、幸せになれるように祈ろう、そう思った。
姉もどうにか幸せになった。
僕達もそうありたい。
きっと出来る、そう誓って、僕は拳を握り締めた。

[5] Just imagine that we can fly like birds

ある冬の夜。
遊びに来ていた姉が突然、言った。
「想像してごらんなさい、私たちが鳥のように飛べると。きっと出来るわ!あの猫ちゃん達が居てくれるなら、尚更のことよ。」
すっかり元気になったようで嬉しい。
刺されそうになったこともあっただけに、感慨深い。
その時、うちのペルシャが声を張り上げた。
「やってごらんなさいよ、みんなで。特別に今夜だけ、力を貸してあげる。」
「今夜だけ?何で?」
君が聞き返すと、明快な答えがペルシャから返って来た。
「あら図々しいこと。あの魔法、疲れるから嫌なのよ。また一年くらい経ったらやってあげないこともないけど。」
「あら、まぁ!」

皆の身体が、宙に浮き始める。
「ちちんぷいぷい!」
三毛が呪文を唱えながら前脚をひょいひょいと動かすと、僕達は突然開いたサッシから庭に出て、そのまま庭から空に向かって飛び始めた。
これはさしずめ、ピーターパンの空の旅だ。
次第に身体が透明になっていって、僕達は風と一体になる。
見下ろすと、ビルの無数の光。
とても綺麗で、僕は泣いてしまった。
次の瞬間。
僕達は急速に落下してゆく。
後で聞いたのだが、三毛が居眠りをしてしまったらしい。
ペルシャが起こしてくれたらしく、際どいタイミングでどうにか無事に、着地することが出来た。
その場所は、ちょうど姉の家の前。
送る手間が省けたので、僕達は三毛を許すことにした。

[6] 約束の地 : Conclusion

一月の朝。
正月休みで、平和なことこの上ない。
庭のノースポールは今日も元気だ。
猫達は炬燵の中でのんびりしている。
「ねぇ秀嗣さん、冬は寒さで体力を消耗するから、餌を一日五食に増やして頂けるかしら?何なら六食でもいいのよ。」
「炬燵の中で何が寒いだ!“金色の缶詰”一体幾らすると思ってるんだ!大体この間は寒い中庭で駆け回っていたじゃないか!うがぁーっ!」
結局僕達は一日四食を与えるということで、猫達と和解した。
しかし金がかかる。
まぁ姉の件もあるから、邪険にも出来ないのだ。

約束の地。
そんな場所があるなら、きっとここがそうなのだろう。
これからもきっとたくさんの困難があるに違いない。
それでもペルシャのリューシュと三毛のローズの二匹が居れば、きっと乗り越えられる。
「秀嗣!」
君が抱き付いた。
君という楽園への憧れは、こうして報われている。
「大好きだよ!」そう言って君を押し倒して、今日も一日が始まる。
今日は積極的に攻めたいという、年に一度あるかないかの珍しい気分なのだ。

大丈夫、きっとこの場所は奪われない。
そう思って、誓って、君に何度もキスをした。
「今年もよろしく!」
そう叫んだ君の笑顔には、涙の雫が浮かんでいた。
もっとスパートをかけて、僕はこれからも君との日々を回してゆく。
「ねぇ、餌。忘れてるわよ。」
そうだった。
毎日毎日、よく食べる猫達だ。
それでもこの猫達に支えられて、僕達はこれからも間違いなく進んでゆける。
もうすぐだ、もうすぐだ、そう言いながら約束の地を求めてきた日々。
報われて君が居て、本当によかった。
よかった。

-THE END-
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