柴犬

遥かな空を
眺め続ける
公園の隅
ベンチに座り
雲と光が
移ろいながら
混ざり合う空
いつまでも、ただ
眺め続ける

風が少し強くて
髪が南に靡く
春の香、まだ薄くて
頬が紅く染まった

白い煙
吐き出しつつ
君の事を
想って泣く

君を守りたかった
けれど守れなかった
だから君は去り行く
俺は嗚咽を漏らす

そんな哀れで馬鹿で
女々しい俺の側に
柴犬が寄ってくる
そう、あの時の
君と同じ目をして
真っ直ぐに俺を見る

気位が高そうで
吼えそうな雰囲気で
俺を睨み付けてさ
その目、君と同じで
澄んだ色をしていた

リードを引かれて去る
後ろ姿、目で追う
飼い主は子供でさ
引きずられそうだった
それでも前へ進む

懸命に、懸命に

負けるなよ
離すなよ
俺みたいになるなよ

俺は子供をずっと
消え去るまで見送る

君は歳の割には
随分と幼くて
何時でも真っ直ぐでさ
目が透き通っていた

気位が高くてさ
俺にしか懐かずに
まるで柴犬みたい
そう二人で笑った

君の柔い肌さえ
早くも遠い記憶
それでもたった一つ
あの目、忘れられない

戻らない時間
巻き戻せるなら
君ともう一度
出逢い直したい

それが無理なら
あぁ、そうさ、無理さ
それなら

柴犬でも飼ってみようか

俺はベンチを立って
駅の方に向かった
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