心、砕け散る時

片道切符の人生
後悔なんてしないよう
たとえ暗闇の中でも
転ばず歩いて行きたい

ざわついた風が今夜は
やけに鬱陶しくて、ほら
見上げると空からは、雨
空洞の心を濡らす

このまま何もかも投げて
逃げ出すのも悪くないと
独り呟いて気分は
逃避行のスター気取り

それでも世の中そんなに
甘くはないから、今夜も
凶事を告げる、携帯の
無機質な音、鳴り響く

出ればそれはいつもの事
叱責に違いないのだ
ハタチを過ぎてなお、俺は
操り人形の如く
己の運命でさえも
日々、親任せ、風任せ

抗えぬ敵に向かって
打つ手は何一つ無くて
独りでまた、ヤケを起こす
酒を呷って、寝転がる

裏通りの細い道の
地べたに大の字になって
ふと見れば女子高生が
指を差してせせら笑う

俺の人生はやっぱり
ハズレくじだったみたいだ

空の青と、海の青が
交差する水平線に
俺は見果てぬ夢達を
知らぬ内に重ねていた

幼き頃の遠き日の
今なお鮮明な記憶
叶わなかった夢達の
墓参りにでも行こうか

もう夢なんて見ないよう
固く心に誓ってさ
あれから随分経ったね
今は袋小路の中

そういえば俺にも昔
大切な人が居たっけ
この人生でただ一人
心を開いた恩人

ギシギシと軋み続ける
脳をバスンとかち割ると
溢れ出す、腐乱した君
曖昧な記憶の波に
揉まれて磨りガラス越しの
景色となった君の顔

それは溜め息が出る程
ただ美しかった筈の
叶わなかった初恋の
甘酸っぱい想い出達

しかしたとえそれを斧で
ズタズタに引き裂いたのが
親であったとしても、俺
きっと孝行してみせる
いつかと言わずに明日にも
お見合いだってしてやろう

だから今夜は少しだけ
独りで休ませて欲しい

明日になったら俺はもう
生まれ変わる事にするよ
だから今夜は、これ以上
俺を責めないで欲しいと

独り、びしょ濡れの空に呟いて、声にならなくて、嗚咽ばかりが辺りに響いて、俺がまだ子供だからだって何度もそう思おうとして、飲み込めなくて

気付いたら、朝日が俺の瞼にちょっかいを出し始めていた
約束の朝
俺は歯を食い縛って、憧れの恩人のそれではなく、親の笑顔を見る為に
腰に手を当てて起き上がると、踵を返して家路に就いた

昨日で俺の青春は
こうして終わりを告げた
いつの日か昨日までの自分を
笑い飛ばせるようになったら
俺もようやく大人になったと
この胸を張れるのだろうか?

その瞬間
心、砕け散って
朦朧とした意識の中
あぁ、生まれて初めて幸せになれるんだな、そうなんだな
そう思ったら
死んでもいい、このまま死んでもでもいい
残った心の残滓が俺にそう囁いて

俺は一人、川に身を投げた
でも、それでも、俺は死ねなかった
暗澹たる長過ぎる余生が、これから始まる
もう少し俺に力が、或いは度胸があったなら、違っていたのだろうか

嫁さんは、美人だった
お見合いで、すぐに決まった
ごめんな、俺、お前の事、嫌いだ
気付くと、俺の心が再び、ガラガラと音を立てて崩れ去るのだった

馬鹿だな、俺
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