Snowman [恋を紡ぐ人 外伝 2]

[Part 1 語り : 嵐太]

雪が、積もっている。
足元を掬われそうな、そんな道程。
途中には、落書きだらけの塀が聳え立つ。
それを見て、何故だかツンと悲しくなった。
真っ白に全てを塗り替えてしまいたい、そんな衝動が胸をよぎった。
ふと見下ろすと、真っ白で可憐な名もなき花が、凛とした姿で咲いていた。
積もっていた雪に抗うように、真っ直ぐに空を目指していた。
僕もこうありたい、そう願いながら、再び歩き始めるのだった。

「おーい、嵐太。一緒に学校行こうぜ。」
目の前の丸い物体は、洋二。
僕の中学での同級生、片思いの相手だ。
「うん!バスの時間に間に合わなくなるから、走ろ!」
「よし来た!」
足の速さでは僕は洋二には到底敵わない。
洋二、ただ丸いだけではないのだ。
運動全般を得意としているのである。
「おーい!早くしろー!バスが来ちゃうぞー!」
山間部の農村なのでバスの本数は極端に少ない。
次のを逃せば、僕達は確実に遅刻するのだ。
「はぁ、はぁ、はぁ。間に合ったー。」
「お、ちょうどバス来たぞ。乗ろうぜ!」
いつも通り、席はがらがら。
正直、採算は取れていないらしいが、村人の大切な足だけに、なくす訳にもいかないのだとか。
僕らにしたって、雨の日も風の日も自転車で片道一時間というのは、いくら登校のためとはいえ勘弁だ。
このバス、村の皆から頼りにされているのだ。
「洋二、宿題やってきた?」
「やべ!忘れた!」
「まだ時間あるから、ここで写しちゃいなよ。ノート貸したげる。」
「サンキュ!恩に着るぜ、嵐太。いつもあんがとな。」
洋二は揺れるバスの車内で器用にノートを取る。
いつもの事、上手いものだ。

去年の冬。
父方の祖父母が次々と後を追うように他界した。
思えば祖父も祖母も、僕が彼女を連れて来るのを心待ちにしていた。
それを知っていながらずっと僕は、洋二に恋をしていた。
許されない裏切りだったかもしれない。
それでも僕は、洋二への想いを断ち切る事が出来なかった。

「よっしゃ、終わり!」
バスが学校前のバス停に着く少し前の絶妙なタイミングで、洋二は宿題のノートを書き写すのを終えた。
この辺、いつも洋二は要領がいい。
そういう所も含めて、僕は洋二が好きなのだ。
「行くぞ、嵐太。」
「うん!」
バスが停車するのと同時に、僕達は学校へと駆け出していた。
今が洋二との、“或る意味では”幸せの絶頂にある事など、この時の嵐太はまだ知る由もなかったーー。

僕達は小学校時代からの幼馴染だった。
洋二と出会った瞬間に、僕は恋に堕ちた。
まぁいわゆる、マセガキだったので。
告白など、思いもよらなかった。
心の何処かで、自分は他のみんなとは違うという事を、感じ取っていたのだと思う。
失敗して全てを失うのも、怖かった。
だからそれ以来今日まで、その話題には決して触れる事もないまま、洋二とは友達として仲良くしていたのである。
小学校時代の密かな楽しみだったのは、月に一度のお泊まりの日。
洋二の家に遊びに行って、そのまま泊まるのだ。
洋二の部屋で、布団を並べて、二人してそのまま寝転がって、夜遅くまでお喋りして。
それはもう、楽しかった。
三日前から胸がドキドキして、夜寝付けない程だったのだ。
待ち侘びた時間。
夢中だった。
先に寝付くのは決まって、洋二。
僕は洋二の寝顔や寝姿を見るのも、楽しみにしていたのだ。

時は流れ。
中学に上がってお泊まりはなくなったものの、洋二の肉体はさらに魅力を増し、僕の心を虜にした。
特に釘付けになったのは、夏の水泳の授業。
肉感のある、キラキラと輝く素肌が眩しかった。
僕は洋二と会うためだけに、小学校も中学のこれまでも、無遅刻・無欠席を通した。まぁ洋二は頑丈だったので、それに合わせて登校を続けるというのは、それはもう大変だったのだが。

そう、洋二は僕の、まさに全てだった。

[Part 2 語り : 泗水]

或る寒い冬の日、よく出来た雪だるまを前にして、僕とオースは命を吹き込む事にした。
しんどい。
でもその甲斐あって、試みは成功した。
成人男性程の大きさの丸々とした雪だるまが、訥々とした口調で喋り出す。
「こんにちは。私、名前がまだありません。付けてくれると嬉しいです。」
この雪だるまには、世界有数のリゾート地・マルタの気候でも溶けない特殊な魔法が掛けてあったので、マルタと名付ける事にした。
「君の名前はマルタだよ!これからよろしくね。」
そう言うと僕は手を差し出す。
すかさずマルタのふっくらとした冷たい手が出て来た。
握手して友情成立、かな。

マルタには魔法使いとしての初歩の能力は吹き込んであった。
後は鍛錬あるのみ。
頑張って欲しい所だ。

それから半月ほど経って。
オースのアンテナが、地方の農村で蠢く少年の愛と苦悩を捉えた。
たまたまだったようである。
遠いが、放ってもおけない。
という訳なので、浩司さんを置いて、僕とオースとマルタとで現地へ出発。
まだ透明化や瞬間移動の魔法が使えないマルタが目立たないようにと、移動は僕の軽を使う。
実地訓練の意味もあるから、マルタを置いていく訳にはいかない。

寒村。
過疎地域。
到着しての、そんな印象。
ひと気のない道を、暫し歩く。
程なくしてオースが声を上げた。
「ブゥ!」
こんな時だけ、ブタの鳴き声。
それはともかく。
オースのアンテナが捉えた、中肉中背童顔の少年が、丸々と肥え太った同級生と並んで歩いているのだ。
探す手間が省けた。
まずはマルタに話し掛けてもらう。
ここは経験あるのみだ。
「私はマルタ。ちょっとお話いいですか?」
「なんだこいつ……!」
「雪だるまが喋ってる!」
あからさまに警戒されるマルタ。
無理もない。
ここは助け船。
「やぁ!僕たち魔法使いの一行なんだ。恋の悩みを聞いて回ってるんだけど、何かあるかい?」
「うぉっ!?本物の魔法使いか!俺、聞いた事あるぞ。でも恋なんて、した事ねぇーなぁ!嵐太、心当たりの子とかいるか?」
次の瞬間。
嵐太は突然、駆け出した。
明らかにこの話題を避けている。
この様子から見るに、嵐太の恋の相手は隣の同級生だろう。
逃げ出されては話にならないので、ここは勉強熱心なオースが最近習得した動体静止の魔法で、嵐太の動きを止める。
「うぉ!すげぇ!微妙に宙に浮いてるし!でも嵐太、どうして逃げ出したんだ?」
この子、鈍いのだろうか?
こんなに分かりやすい状況で気付かないとは。
まぁこの場合にはその方が都合が良いので、別に構わないのだが。
「マルタ、やってみ?」
僕はマルタに、がっしりと紡がれた丈夫な長い長い赤い糸を手渡した。
昨夜、オースのちょっとした異変を見て胸騒ぎがしたので、特に丈夫に長く紡いでおいたのだ。
マルタは器用に嵐太の指先に赤い糸を結わえつける。
うん、大丈夫だ。
案外これが出来なくて脱落する魔法使いの卵も居るのだ。
基本中の基本、無事に出来て、ひとまず安心である。
で、もう片方の端を同級生の太ましい指先に結び付けようとするのだが。
またもや、あからさまに警戒される。
「何だよ、その糸!」
助け船を出そうと思ったのだが、ここはマルタ、自力で解決を試みる。
「大丈夫ですよ、この糸は二人をより仲良くさせるためのもの。悪さはしません。」
マルタの穏やかな声で警戒心が薄れたのか、同級生はすっと指を差し出した。
オースがこれにオナラをかけて、この作業は終了。
オースのオナラをかける事で、二人の関係はよりほっこり長続きするようになる。
そして糸は瞬時に、見えなくなった。
目をぱちくりさせる同級生。
洋二というらしい。
ここでオース、嵐太に掛けた動体静止の魔法を解く。
言うまでもなく糸は自在に伸縮するので、たとえ離れ離れになったとしても大丈夫だ。

二人はこれで結ばれるはずだった。
だが、この直後洋二に悲劇が訪れる。
農家を営んでいた洋二の父が心筋梗塞で倒れ、そのまま帰らぬ人となったのだ。
洋二の家は三人家族だった。
かつて共に暮らしていた父方の祖父母は既に他界しており、もう居ない。
暮らしていけなくなった洋二とその母は、急遽親戚のつてを頼って上京する事になったのだ。

嵐太と洋二、別れの日。
それはすぐに訪れた。
急な話だった。
二人共、噎び泣いていた。
特に嵐太、滝のように次から次へと涙が溢れて、止まらなかった。
その時だった。
マルタが、泣き止まない二人を包み込むように、抱き締めた。
マルタの全身が、ほんのりと青く光る。
この時、僕とオースは気付いた。
マルタは、何があっても二人の絆が壊れないようにと、魔法を掛けていたのだ。
教えてもいないのにこんな魔法が使えるとは、正直意外だった。
雪だるまにも、魔法の素質なんてものがあるのだろうか。
もしかしたら、決して出来まいと思っていた瞬間移動も、その内にはーー。
待つ事暫し。
魔法を掛け終えるとマルタ、そっと二人の元から離れる。
洋二の目には、もう涙はなかった。
「また会おう。約束だぞ!」
洋二のふっくらとした大きな掌が、嵐太の手元へと差し出される。
おずおずと握る嵐太。
洋二は、これを力強く握り返した。
再び、がっちりと抱き合う二人。
今度は、涙はない。
その場に居た一同、拍手で二人を勇気付けた。
二人の親はこの時にはもう、彼らの想いに感付いていたようだ。
だが、双方共にある種の覚悟が出来ていたから、二人を咎める事はなかった。
他の人達はただ単に、二人の友情を讃えていたのだった。

[Part 3 語り : 嵐太]

毎日、毎日、歯を食い縛って過ごしていた。
せめて中学までは卒業せねば、そんな思いが体を辛うじて動かしていた。
洋二の新しい住所は聞いてあった。
中学を卒業したらすぐに向かうつもりでいた。
それから一年半。
卒業式を終えて。
進路は、決まっていた。
東京の町工場へ就職する事になっていた。
どうしても東京に出たい、そんなわがままを結局、最後まで押し通した。
上京の前の晩、僕は遂にゲイである事を両親にカミングアウトした。
両親は、既に気付いていた。
「知っていたよ。一つだけ、言っておきたい事がある。」
その言葉に、僕は固まった。
固唾を飲んで見守る僕。
「チャンスは、そうそうあるものではないよ。洋二くんへの想い、大切にしなさい。」
やはり、知られていたのだ。
同時に、その言葉の持つ重みと温かさに、僕の涙腺は決壊した。
父と母は、僕の事を代わる代わる抱き締めてくれた。
長き別れになる事は分かっていた。
それでも行くと、僕は決めていた。
洋二に、逢う為に。
全てを擲ってでも行くと、決めていたから。
それが僕を今日まで突き動かして来た、たった一つの原動力だったのだから。
今更、変えられない。
その日の夜は、長かった。
それでもなお、僕の決意と覚悟は小揺るぎもしなかった。

翌日。
旅立ちの朝。
冷たい向かい風が強かった。
怯んではいけない。
空は澄み渡っていて、どこまでも抜けるようだ。
向かい風の中でも空は応援してくれているのだから、前向きに行きたい。
両親は、昨日の晩とは打って変わって、満面の笑みを浮かべている。
これは心強かった。
中学の入学祝いに両親からプレゼントされた、愛用の革張りのボストンバッグ一つ持って、僕は駅へと歩みだした。
「またいつか、会おうねぇー!約束だよー!」
「大きくなって、帰って来い!」
「辛いことも多いだろうけど、頑張るのよ!」
両親の思わぬ力強い声援に送り出されて、いよいよ上京だ。

一年半前、洋二出発の日。
彼は僕に小さなメモ紙を渡してくれた。
そこに、洋二の東京での住所が書いてあった。
「口で言っても忘れるだろ。」
そう言いながらも洋二、新住所を何度も何度も読み上げる。
お陰で洋二の東京での家の住所は、今でも諳んじられる。
要するにメモなど要らなかった訳だが、人間には間違いというものがある。
このメモはお守り、或いは最後のよすがなのだ。
失くせない、決して。

電車に揺られること一時間。
乗り換えの駅に到着。
ホームで電車を待つ。
そこへ、携帯の着信があった。
洋二からだ。
一年半ぶりの洋二からの着信。
出ない訳にはいかない。
カラカラになった喉を意識しながら、僕は携帯を操作する。
開口一番、洋二は残酷な事を僕に告げた。
「俺、路上でバイクに巻き込まれて、両足を切断した。お前とはもう、逢えない。」
だから僕は、一世一代の大勝負に出た。
あっけらかんとこう言ったのである。
「何だ、そんな事か。頭も顔も腕も胴体も付いてるんだろ?なら何の問題もないよ。」
電話口の洋二は固まっていた。
チャンスだ。
ここで僕は一気に畳み掛ける。
「僕、洋二の家で一緒に暮らしたいんだ。就職先は決まってるから、どうしても必要なお金以外は全部洋二の家に入れる。洋二と共に歩きたい。駄目だったら、消えてなくなったっていいんだ。」
次の瞬間、洋二の怒号が響いた。
僕には意外だった。
だがもう、後には引けない。
「簡単に消えるなんて言うな!お前に俺の面倒が看れるっていうのか?笑止千万だぜ!可愛いだけじゃ暮らしていけねぇんだよ!」
頭が沸騰した。
洋二は僕の人生の全てを否定しようとしていたからだ。
だから今度は、僕が叫んだ。
「そんな腐った根性のまま、一生一人ぼっちでいるつもりかよ!淋しいじゃんか!お前はそうは思わないのか!僕は一生添い遂げる覚悟を決めた。だからいち早く上京してお前に逢いたかったんだ。弱音を吐くのは、もうよせ!足が何だ。僕がお前の足になればいいだけだろが!」
ここで電話口の相手が、突如変わった。
次に電話に出たのは、洋二のお母さんだった。
「話、聞いてたわ。あなた、本当に覚悟は出来ているのね。」
一世一代のチャンスだ。
僕は勢い込んで、「もちろんです!何があっても添い遂げようって決めていましたから。ずっとずっと前から。夫婦だって同じじゃないですか!」とまくし立てた。
「分かったわ。うちの息子の事、くれぐれも見捨てないでね。後、一緒に住んでくれるのはありがたいけど、お金は毎月入れて頂戴ね。全部だなんて言わないから、気持ちだけでも、必ず。」
これはもう、願ったり叶ったり。
望む所だ。
「もちろんです!お約束いたします。金額は、僕の手取りをベースに、そちらの言い値で。小遣いは遣り繰りします。こちらこそよろしくお願い申し上げます。」

それから一ヶ月が経って。
僕は東京の洋二母子と一つ屋根の下、共に暮らしていた。
暮らしは楽ではなかったが、僕には洋二がいた。
顔を見ているだけでも、楽しい。
洋二は通信制高校に通いながら、資格の勉強をしていた。
元来の頑張り屋の性格が、プラスに働いた。
幾つか有用な資格を取って、障害者枠での採用を目指しているのだ。
幸いにして時間はある。
焦らず、ゆっくりやればいい。

[Part 4 語り : マルタ]

私はこの頃、心配だったのです。
魔法使いとしては駆け出しの頃に出会った中学生の二人、あれから上手くいっているかな、と思って。
胸騒ぎがするのです。
最近になって泗水さん、私の事を一人前だと言ってくれるようにはなりました。
命を吹き込んでくださった際に泗水さんとオースさんの才能が私に伝播したようで、私も瞬間移動が出来るようになりました。
泗水さんや紫蘭姐さん曰く、これは奇跡だそうです。
瞬間移動では、その道の第一人者である紫蘭姐さんには大変お世話になりました。
泗水さんやオースさんにも協力して頂きましたので、皆さまには感謝してもし切れません。

さて。
泗水さんの家でのホームパーティーの際に、私が懸念に思っていた事をその場に居た皆さまにお伝えしました所、さすがは先輩の皆さま、認識は既に共有されていました。
紫蘭姐さん曰く、一人の魔法使いの力では切断された脚の再生はおよそ不可能だとの事。
そこで、世界初の試みとして、最新の研究に基づく分散魔法を試してみたいとの考えが披露されました。
これは、紫蘭姐さんに好意的な世界中の魔法使い達の力を使って、世界各地から洋二くんの足を再生させようというプロジェクトです。
私は現地に行ってその事を洋二くんとその母、そして嵐太くんに伝える役回りを仰せつかりました。
もちろん、分散魔法にも現地にて参加させて頂きます。

二日後。
私は瞬間移動を使って早速、現地へ到着。
そこは都内下町の小さな古民家でした。
親類から借りている借家のようでしたので、生活は楽ではないのでしょう。
あ、こんな事を言っていると泗水さんに怒られますね。
今日は日曜日。
皆さん、在宅中。
以前は洋二くんの母、仕事を三つ掛け持ちしていたようですが、嵐太くんが来てからは二つで良くなったようです。
なので日曜日は、お休み。
都合が良いので、瞬間移動で早速居間へとお邪魔します。
こんな時、私のほんわかとした見た目と声だと警戒されにくいので、実にありがたい。
その上手い使い方も皆さまから教わりました。
これも一つの才能なんだそうです。
皆さまには感謝です。

分散魔法には、四千人を超える賛同者が参加する事になりました。
あまりに物理的距離が遠いと魔法の力も減衰していくのですが、それでもこの数ならきっと、大丈夫。
紫蘭姐さんの顔の広さがここで物を言ったという事です。

居間に移動。
驚きの表情を見せる三人に、私は告げました。
「これから洋二くんの脚を復活させます。これにはたくさんの魔法使い達の思いが込められている事を、どうか忘れないでください。」
昨日のリハーサルで、分散魔法には欠かせないシンクロナイゼーションの概念を知った私。
今回のセッションに参加する魔法使い達は優秀な人間が多いので、多少の脱落者が出ても大丈夫でしょう。
やがて紫蘭姐さんの開始の合図が念で送られて来ました。
いよいよです。
私も精一杯の力を洋二くんに送ります。
若輩者の私が今ここで魔法の力を送っているのは、距離が近い方が簡単に出来るという単純な事情もあっての事です。

十五分が経過した頃、洋二くんの脚がうっすらと実態化して来ました。
一旦なくなった肉体の一部を再生させる作業というのは、神の領域にも限りなく近く、大変な作業なのです。
さらに五分後、ポンっという音とモクモクと上がる煙に包まれて、洋二くんの脚は再生しました。
成功です。
研究所レベルの話でない初の成功事例を作るべく、特に多くの魔法使いが世界中から参加した今回の分散魔法。
必勝を期して組まれたチームは、困難を乗り越えて易々と分散魔法を成功へと導いたのでした。
今後の課題は、如何にして参加する魔法使いの人数を減らせるか。
でも、良いデータが取れたようで、研究者陣は大喜びだったようです。

洋二くんが立ち上がります。
両脇を母と嵐太くんに支えられて、少しずつ少しずつ、ふらふらよたよたと歩き始めました。
ブランクがあった事を思えばこれは、上出来です。
やがていつの間にか嵐山師匠や紫蘭姐さん、泗水さん、オースさん、紀章さんなどがやって来まして、洋二くんに拍手の雨を降らせていました。

洋二くんは資格の勉強は続けながらも、とりあえず就職する事にしました。
これで洋二くんの母も仕事を掛け持ちしなくて済みます。
洋二くんと嵐太くんに、心からの笑顔が戻りました。
まだ初々しい二人、子供のようです。
側で見つめる洋二くんの母も嬉しそう。
嵐太くんですが、洋二くんと同じ食事を摂るようになって、前よりも少し丸くなっていました。
洋二くん、何だかとても嬉しそう。
どうやら体型がどうのというよりも、顔が丸くなって昔の嵐太くんみたいになったのが、嬉しくてたまらないらしいのです。

二人の絆はますます固く結ばれました。
あれから私はこの家には度々様子見に訪れるのですが、この頃洋二くん、終始上機嫌。
若くて運動神経抜群で力持ちの洋二くん、仕事もすぐに決まりました。
頑張り屋の二人、これから先も何があっても乗り越えてゆく事でしょう。
「二人共、頑張るんだよ!」
二度目の来訪となった紫蘭姐さんの綺麗でよく通る声が響きます。
頷く二人。
感極まった洋二くんの母、その場で泣き崩れてしまいました。
一方の洋二くんと嵐太くんは、子供のようにやんちゃな笑みを浮かべています。
今夜は嵐山師匠や泗水さん、オースさん、紀章さんなども交えて、皆でパーティー。
瞬間移動が出来ない面々は、車でやって来ます。
幸せな夜は、もうすぐです。

-完-

Essentials for Living シリーズ初の外伝です。
主役は雪だるまのマルタ。
この雪だるま、溶けてしまうと映画のスノーマンそのまんまになってしまいますので、溶けない事にしました。
ありがちな名前ですが、しばらく前に世界さまぁ〜リゾートで観て以来、マルタは憧れの地なのです。
マルタかモルディブ、いつか行ってみたい(多分一生無理。)
全体は四つのパートに分かれておりまして、それぞれに語り部が設定してあります。
僕が時々試みる、若干トリッキーな手法です。
ともあれ、楽しんで頂けましたら、この上ない幸せです。
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