Sound Of Silence

(1) 語り : 朔太郎

世界が、ほぼ終わってしまった。
人々は、地球上から皆、消え去った。
チラン耐性を持った、僕と魔法使いの少女の二人、それに僕の相方を残して。
僕はずしんと重たい気持ちを抱えて、他に誰か居ないか、探して回っていた。
そこへ、追い打ちをかけるように残酷な少女の一言が。
「無駄だぞ。」
大聖神を始めとする能力者が、敵の脅威からは身を守りつつこぞって体当たりする事で、その場に居た敵の殲滅には成功したのだとか。
しかし、敵は後から後からやって来て、結局地球は敵の手に落ちつつあったのだ。
しかも敵の攻撃のせいで、先も言った通りに人々はほぼ居なくなってしまった。
にもかかわらず建物や他の生物は、綺麗に残っている。
これは、敵が特殊な爆弾を使って、人々だけを残らず抹殺しようとしたからだ。
僕達はチラン耐性が豊富だったから、助かったという訳だ。
「私の千里眼の能力で人々を探してはみたのだが、見事に誰もいない。」
死体まで消し去るとは、念が入っている。

誰も居ない街。
当面は食べ物には困らない。
しかし、賞味期限切れの問題は重くのしかかる。
保存食品にも賞味期限はあるからだ。
しかも、電気もガスも水道も使えない。
このままでは早晩、行き詰まる。
「他の神様は、助けに来ないの?」
純粋な疑問。
「こうなってしまってはな。無理だろう。すでにこの星は神々からも見放されているから、救いの手が差し伸べられる事はないと思え。」
正直、泣きたくなった。
だがこの少女は、希望を捨ててはいなかった。
「住む場所なら、魔法で何処でも鍵は開く。電気やガス、水道も魔法でどうにかなるだろう。最大の懸案事項は食べ物だが、幸いにして人間以外の動植物は生きている。これらを魔法で捕獲・調理などして食えば良い。まぁいずれは畑や牧場のようなものもやらねばならんだろうが。」
少女の名はサーベター。
「ねぇサーベター、僕に出来る事は何かないの?」
この問いにサーベター、即答だった。
「あるぞ。朔太郎、お前には素質がある。魔法を覚えてもらう事になる。それから、言ってみれば私達はアダムとイブだ。不妊治療と私の魔法を使えば、ゲイのお前ともセックスをせずに子供が作れる。全て双子にして、二十人は作りたい。手伝え。これはたった二人だけ残された私達に託された、大切な使命なのだ。仕事はたくさんある。お前も頑張れ!」
一瞬、気が遠くなる。
と、そこへ。
「僕も混ーぜて!」
僕の相方、脩君だ。
「何だ、お前も生きていたのか!近くに居過ぎて、見落としていた。不覚だ。」
実は脩君には、戦いの間背中にぴったりとくっついてもらっていたのだ。
同じデブながらも僕は大柄で脩君は小柄なので、すっぽりと隠れてしまい、サーベターの視界には入らなかったのだ。
「良かった!お前とも子供を作れば、種の健全性はより良く保たれる。」
そう言い放つサーベターに、脩君は僕が疑問に思っていた事を、躊躇なく口にする。
「不妊治療と魔法で二十人ねぇ。別にいいけど、生まれて来た子達、誰が育てんのさ?」
これにはサーベター、即答だった。
「それはもちろん、魔法を使えるようになる可能性が限りなくゼロに近いお前だ。他の事をしろとは言わん。子作りと子育てに専念しろ。」
「うげぇー!僕、子供嫌いなんだけど。二十人なんて無理筋もいい所だょ。」
抵抗する我が相方へ、サーベターがとどめ。
「嫌なら死んでくれてもいいんだぞ。お前、この世界には昔からカニバリズムという風習があるのを知っているか?」
「わぁーったよ!やりゃあいいんでしょ!」
脩君、やさぐれている。

それからは僕と脩君、そしてサーベターには、子作りの試練が待っていた。
まずは僕の番。
そしてサーベターが無事に出産を終えたら、今度は脩君の番だ。
あの魔女の女の子とセックスをしなくても子供が出来るというのは、この状況下に於いては確かに、都合はいい。
だが、僕達男はともかく、サーベター、痛むというのだ。
大した事はないというが、負担の掛かる事をことごとくサーベターに押し付けているようで、流石に気分が優れない。
しかし僕には、そんな事にかまけている時間はなかった。

魔法を覚えなくてはならないのである。
これは大変だった。
まず、無数にある魔法陣の描き方を全て覚え切らなくてはならない。
そして、力の引き出し方とコントロール方法のマスター。
時間が足りない。
少しでも早く習得して、サーベターの力になりたいのだ。
だが、焦っても仕方ない。
結局、一日中魔法漬けの日々を送るより他なかった訳である。

(2) 語り : 語り部

宇宙の果て。
天の川銀河とは大きく離れた、異なる銀河の一部に勢力を持つ大規模な宇宙海賊が、既にほぼ無人となった地球を手中に収めようとしていた。
もはや、大した抵抗もなしに資源のある惑星を奪えるというので、皆乗り気だ。
「総大将!ここを第二の根城にして、天の川銀河を乗っ取っちゃいましょう!」
「まぁそう早まるな。天の川銀河にも戦う力を持った種族は居るだろう。ともあれ、地球を第二の根城にするという意見に関しては、私も正しいと思っている。反対する者はおるまいな?」
これにはその場にいた皆が気勢をあげた。

夜。
地球上の湾内に着水している艦艇内にある宇宙海賊御用達のラウンジで、ワイングラスを片手に談笑する二人。
総大将ヘルマン直属の部下だ。
髪の紅い大男がブリーノで、ネイビーの艶やかなミディアムヘアのスレンダーな男がクラーロだ。
クラーロはヘテロクロミアである。
クラーロが言う。
「このワインと地球、どちらがより飲み干す価値があるかな。」
ブリーノ、これには「それは俺にも分からねぇな」と応じた。
「ではどちらがより手に入れ易いかーー。」
クラーロがそう言いかけた所で、「地球だな」とブリーノが短く答える。
「まぁ、そうであって欲しいものだ。だが、甘く見るなょ。あと一歩の所で全てを失う羽目になった輩の、何と多い事か。」
「分かってるさ。まぁ飲め。」
「すまんな。」
ブリーノ、クラーロのグラスに年代物のワインを注いだ。

実の所ブリーノの心中にも、穏やかならざる思いはあった。
クラーロと共に大規模な宇宙海賊のナンバー2の座を占めるだけあって、単なる猪ではないのだ。
しかし、守りに徹する時でもないーーそうも思っていて、内心は複雑だった。

翌朝。
全幹部の前で、総大将ヘルマンは作戦名を告げる。
「これが地球での最後の戦だ。作戦名は、花のワルツ。皆の者、我に続け!」
「うぉーっ!」
宇宙海賊、全軍出陣。
サーベター達には残酷な程に、残された時間は少なかった。

(3) 語り : 語り部

サーベターの双子の妹ユーリが、魔法で造ったノアの箱舟とでも言うべき宇宙船で、宇宙海賊から逃れようとしていた。
乗っていたのは、先の攻撃にもかかわらず奇跡的に助かった、地球人五千人。
生き残っている地球人の、これがほぼ全てだ。
宇宙船はいち早く宇宙海賊から逃れる為に、ワープを繰り返していた。
どんどん地球から遠ざかってゆく宇宙船。
サーベターとユーリは仲良しだったが、もう会う事もない、そう思われた。
逃げられない使命を背負い、離れた場所でそれぞれが戦おうとしていた。

やがてユーリが率いる宇宙船は、今まさに地球を襲っている宇宙海賊の根城のある星系へと、到着しようとしていた。
現地の湾内に宇宙船を着水させるユーリだったが、人の気配が全くない。
それもそのはず、その星は宇宙海賊に叛乱を起こして勇敢に戦ったパルチザン達が死刑を待つ、収容所だったからだ。
はなからその事に気付いていたユーリ、厳重にロックされた扉の数々を魔法で次々に破壊して回る。
生き残っていた現地のパルチザン達は皆、拷問を受け続けたせいで、傷だらけだ。
ユーリ達は彼らからは熱狂的に歓迎されたが、海賊達から逃げ切れるか。
捕まれば、万事休すだ。

ここでユーリは、敵の戦略コンピュータから、興味深い情報を得る事が出来た。
最先端の軍事技術を獲得する為に、近くの銀河の惑星トリーを手中に収めようというものだ。
特に敵は超重装甲広域拡散A2熱爆雷弾頭搭載大型ワープミサイル・ガルペゴンを欲していた。
早速ユーリは、トリーの国王マクセン麾下のラーヴェ元帥とコンタクトを取る。
この情報はたちまち国王の耳に入り、その逆鱗に触れた。
「直ちに機動部隊の半数を、敵本拠地の惑星へと向けて出発させよ!私が指揮を執る!」
国王の号令の下、おびただしい数の艦艇が空高く飛んで行くのだった。

(4) 語り : 朔太郎

僕は魔法をどうにかマスターした。
間に合った。
けれども、戦力になるのは、僕を入れてもたったの二人。
何が出来るか。
正直、よく分からない。
それでも、それでも。
完全には終わらせられない、この世界。
全てをなげうってでも。
放り出せない。
逃げ出してはいけないんだ!
深呼吸する。
気持ちが落ち着く。
僕はゲイだけれど、これからはパパにだってなるんだ。
しっかりしなきゃ!

俄かに雲行きが怪しくなる。
遠くの方で、雷鳴が轟く。
敵がやって来た。
数が多い。
これでは、敵わない。
それでも、怯えている時間はない。
早速、サーベターと共にチランブーストの魔法陣を描く。
せめてここ、日本だけでも、守りたい。

敵の陣頭に立つのは、総大将らしい。
真っ赤な、巨大な艦艇だ。
まぁ、ある意味では、筋が通っている。
流石は総大将というべきか。
しかし、何の宣戦布告もなしに、いきなり攻撃が始まる。
敵には、武士道はないと見える。
当たり前か。

(5) 語り : 語り部

その時だった。
ユーリが戻って来たのだ。
五千人の地球人と、彼らや元パルチザン達を乗せる、トリーの艦隊を引き連れて。
トリーの艦隊は既に宇宙海賊の根城を粉砕撃滅していた。
ガルペゴンを使わずに。
ユーリは、覚えたてのチランミラーリングの魔法で、チラン耐性を持つ者を大幅に増やし、それをチランブーストの魔法で更に増幅させる。
地球全体がこれにより、シールドで守られた。
そこへマクセンが、ガルペゴン発射の合図を出す。
発射といっても、別に空を飛ぶ訳ではない。
発射口から完全に飛び出すのと同時に、敵の艦艇内に直接ワープするのだ。
発射口から完全に飛び出す必要があるのは、ワープの影響を母艦に与えない為。
推進用のエンジンは必要ない為に搭載していない。
極めて珍しいタイプのミサイルだ。

敵の総艦艇数はおよそ一万隻。
ガルペゴンは四万発。
ガルペゴンは地球程度の小規模な惑星なら、数発で吹き飛ばす事が出来る。
形成は完全に逆転した。
もちろんその他の兵器も使って、一斉に攻撃が始まった。
敵のエネルギーと融合して、巨大な爆発が起こる。

一瞬の沈黙。
永遠にも思える、沈黙の音、沈黙の響き。

次の瞬間、巨大な爆風と爆音が、辺りを満たした。
チランシールドの効果がなければ、地球はとうに吹き飛んでいたに違いない。

(6) 語り : 朔太郎

「耳鳴りがするょ。みんな、大丈夫?」
僕がその場の皆に確認をすると、揃って、ニッと笑った。
トリーの艦隊が続々と東京湾に着水する。
マクセン搭乗の総旗艦だけが、僕達の居る新宿御苑に着陸した。
「あのシールド、凄いね!」
僕が初対面のユーリに話し掛けると、ユーリは得意げにこう抜かした。
「あれはチランミラーリングといって、まだ確立されていない未完成の魔法。出たとこ勝負だったけど、賭けに勝っちゃいました!」
出たとこ勝負って……。
怖っ!
しかし、そんな事ばかりも言ってはいられない。
今回地球を救ってくれた惑星トリーの国王、マクセンがタラップを降りて、直々にこちらにやって来たのだ。
僕達に向かって、国王が言葉を掛ける。
「この度の被害には、心から同情する。そちらの魔法使いの方々のお陰で、敵に先制攻撃を仕掛ける事が出来た。そのお礼として、地球の方々には是非ともトリーに移住して頂きたい。敵地の元パルチザンもそうするそうだ。どうだろうか?」
その瞬間、前に現れたのは、ミリーとプリーと言うらしい、良く似た兄弟。
地球に住む事にした、マクセンの息子達である。
悪運強く、生き延びていたのだ。
もちろん生き残れた理由には、リスにしか見えない小動物、ペグの力もあったようで。

ミリーが言う。
「この人達は行かないょ。僕達も残る。気骨ある地球人の行く末を、最後まで見届けたいからさ。」
プリーも続ける。
「ここはトリーと違って虫も獣もいるし、嫌な所もあるけど、慣れちゃうと快適なんだ。何より、自由!」
ミリーとプリーのその言葉を聞いて、二人をがっちりと抱き寄せるマクセン。
で、一言。
「お前達、ホモなのか?」
これには、二人顔を見合わせて、苦笑い。
「そうなのか?」
仕方なしに、二人はそうっと頷く。
ゴツン!ゴツン!
目から火花が飛び出るような衝撃。
マクセン、渾身のげんこつ。
「今ので許してやる。達者で暮らせ!」
手を振るマクセン。
「ありがとーう!父さーん!」
二人、涙が止まらない。
恐らく、二度と会えないのだ、などと思っていると。
「また来年来てやる。それまでに復興に当たって欲しい物のリストを作っておけ。用立ててやる。それじゃ、また!」
マクセンは後ろを振り返る事なくタラップを登ってゆき、飛び去って行った。

(7) 語り : 語り部

ミリーとプリーは、財務相と外務相を務める事になった。
ここは、惑星トリーとのパイプが重視された。
防衛相と農水相は兼任でサーベター、復興相と国交相も兼任でユーリ。
どちらも、魔法が使えるからこその任命だった。
残りの大臣の椅子は、生き残った知識人が務める。
朔太郎も魔法は使えるが、生まれて来る子供達の子育てに専念するのだ。
魔法の能力では、サーベターやユーリの方が一枚上手だからだ。
ただ、サーベターはまだ妊娠中である為、出産までの間は防衛相と農水相の任を代わりに朔太郎が務める。
ユーリと脩も双子を作る事にした。
今は非常時だ。
子供は何人居ても足りない位なのだ。
仕方ないのである。
ミリーとプリーは作らない。
元宇宙人、そんな彼らには誰も子作りは求めなかったのである。

たったの五千人強。
残された地球人は、本当にそれだけだ。
もちろん中には、高齢の為に子作りが出来ない人達も居る。
だからこそ、若者には子作りが求められた。
古き良き地球の自由は、失われたと言える。
もっとも、発展途上国の中には、以前からそんな自由は存在していない、そういった国もあるにはあった訳だが。
だが、窮屈ではあっても朔太郎達は皆、絶望はしていない。
生き残れたのだ。
それだけでも幸せなのだ。
まだ悲しみのどん底にいる人達も少なくない。
朔太郎も脩も、親兄弟を根こそぎ奪われた。
それでも、前を向くのである。

(8) 語り: 語り部

一年後……。
子供が出来ても、朔太郎と脩は付き合っていた。
むしろ前よりも、仲良くなっていた。

子供は、可愛かった。
だがまぁ、うるさいうるさい。
男の子の双子が二組である。
サーベターもユーリも仕事で忙しい。
魔法がフル稼働なのだ。
よって、食事の支度から子供の面倒から洗濯から掃除から何から何まで、全てを朔太郎と脩がやるのである。
ちなみに、この八人は同居している。
これは朔太郎と脩が希望した事。
双子の面倒など、一人ではとても見きれないのである。
これ以上子供が増えたら……。
そう思うと、背筋が凍る思いの朔太郎と脩なのだった。

(Epilogue) 語り : 語り部

それからすぐ。
首都は東京に決まった。
地球全体何処を見回しても、何処も彼処もゴーストタウンなのだ。
その中でも最も被害が少なかったのが、日本だったのである。
極東の島国であった事が、幸いした。
という訳で、生き残った地球人の中で最も多かったのも、日本人なのだ。
東京に決まる訳である。
民主主義の基本に則った、とも言える。
各庁舎やその他公共施設などは、全てサーベターとユーリの魔法で建て替えられた。
老朽化した建物も幾つもあったし、そうでなくても、今の人口では使いにくい無駄に大きな建物も多かったのだ。
人口が増えた時には、また方策を考えればいい。
完全な復興には途方もない時間が掛かる。
それに比して、人の寿命は短い。
そう、人手不足は深刻で、これは簡単には解消出来ない。
だからこそ、少人数でも運用の出来る、効率の良い施設が求められたのだ。
時には、朔太郎が手伝う事もあった。
しかし魔法で、といってももちろん、一筋縄では行かない。
複雑精緻で時間の掛かる、大仕掛けで大変な魔法なのだ。
だからそれなりに時間は掛かるが、魔法の方がそれでも効率は良かったのだ。

朔太郎と脩、この頃はミリーやプリーと親交を深めていた。
「ねぇ、6Pしない?」
ミリーがまた面倒な事を言い出す。
いつもの事だ。
ミリーにもプリーにも彼氏は居るから、彼らも交えてSEXをしようと、そういう話なのだが。
「チーズみたいだね。6Pチーズ。そうだ、チーズ食べよう、みんなで!」
プリーが食べ物の話にすり替えてしまった。
先程までの話を完全無視するつもりでいた朔太郎と脩も、プリーのこの話には乗った。
「いいねぇ!食べよう、食べよう!」
「僕、チーズ大好き!チーズLOVE!」

で。
チーズを食べながら朔太郎は言う。
「こんな時だからこそ、LGBTI友の会みたいなものを作ろうょ!」
すると……。
「いい考え!僕が会長!」
「いや、会長は僕だっつの!」
ミリーとプリーが恒例の喧嘩を始めてしまった。
あーあ。
先が思い遣られる。

ちゃんちゃん。

サブタイトルのSound Of Silenceというのは、SOSと沈黙の音とか沈黙の響きとかいう英語のフレーズとのダブルミーニングです。
地球の人口は、これまでの全てのお話の中でも一番減りました。
そうした中での制約とか、基本的な権利とか、その辺の絡みは、もう少し上手く書けたら良かったな、とは思います。
何はともあれ、楽しんで頂けましたら、誠に幸いです。
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