Beautiful People(Unforgettable Season 2)

荒涼とした大地。
夕陽が眩しい。
そこに独り佇む男の背中は、どこか哀愁を帯びている。
世界の終わりが、迫っていた。
そんな時だというのに男は、焦る事もなく諦観を漂わせた目付きでただ、目の前の景色を眺めていた。
男の名は、ヴィアルテ・フォン・ドルト。
これから目指す国は、辺境の小国・日本。
鬼神ヴェルデスを倒す為の、言ってみればレジスタンスのような、そんな運動を組織する事を目指していた。
無駄かも知れない、そんな事は分かっている。
でも彼は日本人に、最後の望みを託したのだ。
他の先進国は軒並み、廃墟と化していた。
日本はまさに、最後の砦だったのだ。

日没が迫る。
男は踵を返すと、四駆に乗り込み、その地を後にした。
車を走らせる事二時間。
約束通りの時間に、寂れた飛行場に到着した男。
手を振るその先には、フィアンセの姿があった。
男はヘテロセクシャルなのだった。
「ヴィアルテ!」
「フィリシア!」
駆け寄り、抱き合う二人。
そんな二人を急かすように、パイロットの声が響き渡る。
「急いでください!追っ手が来るといけませんから!」
小型飛行機に乗り込み、ベルトを締める二人。
程なくして飛行機は離陸した。
まだ希望の残る地、日本へ向かってーー。

日本では、有事法制の下で国民の自由が制限されていた。
非常事態なのだ。
「ヴィアルテ教授はまだかね。」
成田空港でヴィアルテを待ち構えるのは、日本政府の高官達。
中でもヴィアルテを特に待ち侘びていたのは、その場の高官達の中でもトップにあたる、防衛相だ。
すぐにも鬼神ヴェルデスへの対策を取りまとめたい。
そんな事情もあり、危険を承知で空港まで駆け付けたのだ。
ヴィアルテはドイツの大学で教鞭を振るうその道の専門家であり、有効な対策を持って日本まで来てくれる事を、その場の高官達皆が待ち望んでいた。

タラップから降りるヴィアルテとフィリシア。
待ち構えた高官達が、こぞって握手をする。
だが、ヴィアルテの策を耳にした高官達は、失望の色を隠せなくなるのだった。

「レジスタンス!?そんな、馬鹿げた!」
激昂する防衛相。
一方のヴィアルテは、至って冷静だ。
「自衛隊の戦力で鬼神ヴェルデスに対抗するのは、不可能だ。それよりも一億総決起を促して、いわばレジスタンスのような力で対抗する事を考えた方が、話が早い。これは唯一の選択肢であって、他に方法はないのだ。」
そこまで聞き終えると、一同肩を落とすより他なかった。

ヴィアルテは首相官邸に招かれた。
そこでもレジスタンスのような運動を起こす事を主張し、苦々しい顔つきでやんわりと首相に拒絶されたのだった。

こうした流れの中、報道管制下にあって、ヴィアルテの訪日は結局日本国内では伝えられなかった。
そんな中にあっても、ヴィアルテの考えに同調する者が日本には居た。
精霊使いの少女・マグネーだった。
マグネーはヴィアルテの心の叫びをその力で受け止め、考えを読み解いたのだ。
ヴィアルテの心の内を読むのは、マグネーにとっては容易い事だった。
何故ならマグネーにとってはヴィアルテは、祖父なのだ。
分かりやすいのである。
ヴィアルテも内心では、マグネーが動いてくれる事を期待していたから、この流れは上出来と言えるだろう。
マグネーは早速、レジスタンスの呼び掛けを日本中の人々に対して行う事にした。
ネットワークは使えない。
政府の統制下にあるからだ。
残された時間は少なかったが、マグネーは持てる全ての力を使って、日本中の人々の心を動かしていった。

東京の外れ。
まだ真新しいアパートの一室で、とあるゲイカップルが同居していた。
欣治と雅人だ。
少し歳の離れたカップルで、欣治が三十二、雅人が二十三だった。
共にサラリーマンをしている。
彼らは日本では歴代でも大変珍しい、チラン耐性の保持者だった。
突然変異で、先日耐性を得たばかりだ。
彼らなら、鬼神ヴェルデスの攻撃にも耐えられるかも知れない。
マグネーは彼らを、レジスタンスのリーダーにしようと考えていた。
彼らは今、有事法制の下で出社もままならない。
逆に言えば時間はあるのだ。
マグネーは彼らの住む部屋の扉をノックする。
ドアが開くと、欣治が顔を出した。
マグネーは語り掛けるのではなく、念を送る事で意思の疎通を図る。
己の言う事が確かであると信じさせるには、これ位のパフォーマンスは必要だと考えたのだ。
驚いたのは欣治だ。
慌てて、中に居る雅人を呼びに行く。
「お、おかしな奴がドアの外にいる!け、警察を呼んでくれ!」
「待って!私は怪しい人間じゃない!」
念の回路を欣治だけでなく雅人にも開いて、コミュニケーションを図るマグネー。
ここでヘマをしたら取り返しがつかない。
焦っていた。

ここで、助け船が現れた。
ヴィアルテである。
血が繋がっている能力者同士、互いの事は分かるのだ。
そう、マグネーの精霊使いとしての能力は、祖父ヴィアルテによって磨かれてきたのだった。
「やぁヴィアルテ爺ちゃん、久し振り。」
「そっちこそ。」
固く握手を交わす二人。
付いて行けないのは、欣治と雅人だ。
「欣治君、雅人君、世界を救うには君たちの能力が必要なのだ。協力してくれ。協力しない自由もあるが、その場合は日本も他の先進国の二の舞となる。よく考えてくれ。」
ヴィアルテの重い言葉。
他に選択肢がない事を知って、欣治と雅人の表情は見る間に固く引き締まるのだった。

富士の樹海の中。
森の精霊達が動き出した。
実の所ヴィアルテは、こうした事態が訪れるまでは、ドイツ国内でも軽んじられていた。
警鐘は鳴らし続けていた。
だが、遅かったのだ。
人々がその言葉の重みに気付いた時、事態は既に手遅れだった。
日本だけでも救いたい、いやまだまだ発展途上国には人々が大勢残っている。
彼らを救う為にも、ここでヘマなどしている訳にはいかないのだ。
ヴィアルテはマグネーと共に、精霊を呼び出し続けた。
やがて到着した彼らは、皆半透明ではあったが、人の形をしていた。
富士の樹海の中には、精霊が多い。
矢折れ力尽きた者達の魂が大勢、彷徨っているからなのだ。

決戦の日は近かった。
マグネーがドジっ子と呼ぶ妹分も、日本へと駆け付けた。
ある重要な装備を持って。
「ドジっ子、遅ーい!」
マグネーが怒鳴り付ける。
「すみませーん!でも私は、ドジっ子じゃなくてフェフレーですょー。」
「そんな事は、どうでもいい!」
偽らざる心境。
「それよりもあれ、持って来ただろうな?」
「もちろんですょ。」
フェフレーは、そう言うと己の背中を指差した。
その先には大きなハードケースがあって、見るからに重そうだ。
その中身は、チランブースター。
名前の通り、チラン耐性を増幅させる為の装置だ。
ヴィアルテが陣頭指揮を執って製作を進めていたのだが、訪日までにあと一歩の所で間に合わなかった。
それを助手フェフレーが引き継いで、完成させ持参したという訳だ。
フェフレーが持参したオリジナルを、知己のある魔法使いのファンドラが魔法で増やす手筈となっていた。
だが、肝心のファンドラが来ない。
「仕方ない。我々だけで準備を進めよう。」
ヴィアルテが諦めかけたその時、丸々とした男の子の声が響き渡った。
「悪い!朝食作り過ぎて、食べてたら遅くなった!」
ガツン!
マグネーが魔法使いの男の子ファンドラの頭を殴った。
クリーンヒットだ。
「痛え!殴る事ないじゃんか!」
「危機感なさ過ぎ。自分の役割の重さ、少しは自覚しろ!」
「だってさ、食わなきゃ力が出ないんだもん。」
そこへやって来た、欣治と雅人。
「やぁ、来てくれたか!」
マグネー、打って変わって喜色満面だ。
森の精霊達も続々と訪れて来ている。
役者は、揃いつつあった。
「ほらドジっ子、馬鹿ファンドラにチランブースター渡して!さっさとする!」
「はーい。ほらよっ!」
フェフレーは拗ねた様子でファンドラにチランブースターを渡すのだが、見た目よりも体力のないファンドラ、渡されたチランブースターを落としてしまう。
「いやー!」
「あーあー!」
皆口々に悲鳴を上げる。
肝心のチランブースターはというと、ハードケースのお陰で無事だった。
この後ファンドラがマグネーにボコボコにされたのは、言うまでもない。

地の果てと言ってもいい。
断崖絶壁が立ち塞がる、その向こう側。
遥かなてっぺんに、鬼神ヴェルデスの地球に於ける総本山があった。
部下は五名と少ないが、精鋭揃いだ。
神殿で祝杯をあげるヴェルデス一味。
これからの戦いでの勝利を祝う祝杯だ。
もちろん、彼らの中には負ける事など念頭にはない。
「大鬼神だなどと大層な名前を名乗る連中が、よもやこんな赤子のような連中に敗北を喫するとはなぁ。」
既に勝ったかのような顔で、ヴェルデスが大言壮語を吐く。
「ヴェーグ・ヴォーレも存外、大した事はありませんでしたね。」
部下もこれに同調。
笑い声が絶えない酒席なのだった。

深夜。
神殿のテラスで、ヴェルデスの部下二人が話をしていた。
「今回の戦い、どう見る?」
「楽勝だろう。」
「だといいのだが。」

アメリカは、復興には数百年は掛かりそうな被害状況だった。
人々もほぼ、息絶えた。
それに比して欧州の被害は少なかった。
建物はあらかた壊れてしまったが、戦士エルピリスの尽力のお陰で、人々の多くはアフリカ諸国へと避難出来たのだ。

これからの地球には安寧の時代が訪れると、誰もがそう確信していた。
しかし、実際にはそうではなかった。
平行宇宙における悪の勢力だったヴェルデス一味が、地球に橋頭堡を築いて、この宇宙を天の川銀河から順に乗っ取ってゆこうと考えたのだ。
これは流石に、誰もが予想し得ない事態だった。
ただ一人、ヴィアルテを除いては。
ヴィアルテには、遠方の通信をリアルタイムで傍受する能力があった。
その能力のお陰で、地球を乗っ取ろうとするヴェルデス一味の悪巧みをいち早く察知する事が出来た。

アフリカの守備はエルピリスに任せる事にした。
一方、日本でのチランブースターの複製は、順調に行われていった。
ファンドラがマグネーに愚痴をこぼす。
「これしんどいー!代われー!」
「お前にしか出来ないから、任せているんだ!やらなかったら、百叩き!」
「うぇー!」
チランブースターは、数が多ければ多いほどいい。
各チランブースターはワイヤレスで同期するので、数が多い程威力も大きくなるのだ。

ヴィアルテは事ここに至って、死の覚悟を決めた。
遅過ぎたかも知れない。
だが、フィアンセの顔が脳裏をよぎる度に、決意は揺らぐのだった。
しかし、日本が落ちればアフリカの欧州の人々や現地住人達、そしてその他の発展途上国の人達の命も危ない。
ヴィアルテのフィアンセは、医師だった。
非核超高温度熱エネルギー爆弾の体内への格納を、フィアンセに頼むヴィアルテ。
他に方法はない、そう思っていた。
ほろほろと涙を零すフィアンセではあったが、そのメス捌きは冷徹でさえあった。

非核超高温度熱エネルギー爆弾自体は人類が生み出した兵器ではない。
神々の王の生み出した兵器だ。
それだけに小型であるにもかかわらず非常に強力だが、数がない為に、失敗は許されない。
ヴィアルテはその特殊な能力を用いて神々の王とコンタクトを取り、現存する爆弾二つを全て、入手したのだった。
神々の王は地球を見放していた。
爆弾を渡しながらも、もう救われない、そう確信していたーー。

結婚式を挙げた。
とあるチャペルで。
ヴィアルテとそのフィアンセ・フィリシアの挙式である。
ごく少人数でのこぢんまりとした、けれども温かみのある挙式となった。
間違いなく、この戦いでヴィアルテは空の星となる。
今それを知っているのはフィリシアのみだが、いずれは皆が知る事となる。
だからこそ今、こうして結婚式を挙げる事が、二人にとってはどうしても必要だった。
実はフィリシアもヴィアルテの決断を受けて、知人の医師に頼んで非核超高温度熱エネルギー爆弾を体内に格納していた。
その事はもちろん、ヴィアルテも知っていた。
死ぬ時も、二人一緒。
ささやかな幸せの記憶が、今の二人を支えていたーー。

英気を養ったヴェルデス一味が、いよいよ日本侵攻を開始した。
用意出来たチランブースターは約一千万台。
レジスタンスに参加するのが最終的には一千万人程となったから、概ねぴったりの数なのだった。

巨大だった。
戦慄が走った。
突如現れたヴェルデス、まさに修羅だった。

レジスタンスのメンバーの先頭には、欣治と雅人が立っていた。
彼らのチラン耐性を、チランブースターで増幅するのだ。
レジスタンスのメンバーは皆、刃物を手にしていた。
これが彼らの、今の精一杯。

レジスタンスのメンバーを陽動として、ヴィアルテとフィリシアがヴェルデスに近付く。
精霊達は、部下五人を引きつけている。
「大丈夫、私は怖くないわ。だってまだ、あの世があるもの。向こうの世界でも、結ばれましょうね。」
次の瞬間、爆音が辺りに轟く。
爆風でさしものヴェルデスも吹き飛ばされる。
ヴェルデスは、二人の勇気の前に葬り去られた。
だが、まだだ。
ヴェルデスの部下が残っている。
手強い相手だ。
しかし、ここでチランブースターの威力が物を言った。
敵の攻撃が届かないのだ。
刃物でざくざくと敵の体を切り裂いてゆく。
如何に巨大と言えども、一千万人ものチランブースターを持った群衆を前にしては、無力だった。
精霊達の力も大きかった。
そうなのだ、所詮は部下に過ぎないのである。
手強いとは言っても、親玉とは比較にもならないのだった。

欣治が声を上げる。

目の前の君を愛そう。
自由をもっと愛そう。
屈服する未来よりも、自由な未来を選ぼう。
目の前の今を愛そう。
未来をもっと愛そう。
恐れ慄いた過去よりも、自由な未来を見つめよう。

人々の美しい意志と情念が、未来を一気に手繰り寄せた。

戦いは、こうして終わった。
思えば大勢、空の星となった。
それでも世界は、ギリギリの所で、踏み止まった。

マグネー、ファンドラ、フェフレー、欣治、雅人。
皆、泣いていた。
結婚したばかりの二人の美しい意志に、心が動かされたのだ。
幸せになって欲しかった。
それだけにもちろん、悔しくもあった。

「じゃあな。元気で、頑張れ!」
マグネーの言葉。
「そっちも。」
素っ気ない欣治の挨拶だが、顔中涙でべちょべちょなので、誰も額面通りには受け取らない。
もうこの面子が顔を揃える事は無いだろう。
それだけに、他の者も涙を堪える事は出来なかった。

半年後。
欣治も雅人も、復興作業に従事していた。
二人共に太ってはいたが、程良く筋肉もあったので、体力は人一倍あったのだ。
勤めていた会社は辞めた。
将来性を見込めない為に、早期退職に応募したのだ。
大手企業だった事もあり、そこそこの退職金が二人分出たので、生活は苦しくはない。

日本人は、五百万人が犠牲となった。
これはアメリカなどの犠牲者の数と比べれば、微々たる数字に過ぎなかった。
それでも同じ日本人であれば皆、心が痛いのだった。

「ねぇ欣治。僕達、運が良かったんだね。これからもずっと一緒に居ようね!嫌だなんて言ったら、寝技で落としてやるから!」
「俺だってずっと一緒に居たいさ。それにしても、レジスタンスのメンバーはあらかた助かったんだな。チランブースターがあったから、かえって安全だったのかもな。」
「そうだね。建物の中に居た人達、大勢亡くなって可哀想だった。」

欣治と雅人は、遥希と祐太郎の二人と、友達になった。
レジスタンスの運動を通じて、知り合ったのだ。
考えてみればデブばかり四人雁首並べて、暑苦しい事この上ない。
だが、ウマが合うのである。
四人の交流は密だ。
これからはこの四人で、幸せを手に入れるのだろう。

未来は、明るい。

-完-

WONDER : WONDER [Unforgettable Season]の続編。
降って来たようなものなので、書くのは早かったです。
ただ、整合性を取る為の推敲が大変でした。
問題なければ良いのですが。
楽しんで頂けましたら、誠に幸いです。
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