Unforgettable Season

長い冬。
澄み渡った空の下、青年は白い煙を吐く。
木々の葉は落ち、細い枝は白い薄化粧をしていた。
目の前には、一面の銀世界。
他には何もない。
本当に、何もない。
しゃりしゃりと、靴底が音を立てる。
帰って来た。
この地へ、故郷へ。
振り返ってみれば、色々あった。
俺は負けた、青年はそう思っていた。
確かに、そうだ。
負けたから、ここに居るのだ。
これからは己の意志のままに生きる事は叶わない。
青年はゲイであった。
だからこそ、涙が込み上げて来た。
これまで、その時々によって様々な男を好きになって来た。
そんな自由な恋愛もこれからは、叶わないのだ。
いけない、このままでは!
そうも思った。
だが今更、無力なこの青年に一体、何が出来るというのか?
嘲笑するかのように、風がざわめいた。

その時だった。
「私が助けてもいいわょ。困ってるんでしょ。お互いさまよ。」
見ると目の前に、いかにも気位の高そうな、苦手なタイプの美少女が佇んでいた。
ぼーっとしていたせいだ。
不覚を取った。
だがこのお姉さん、かなり本気な様子だったので、従ってみてもいいかと青年は思った。
この時を境に、青年の人生は一気に変わる事となる。

青年は、いわゆる無名の戦士だった。
これまで、いろんなものと戦って来た。
たとえば、他の人達には見えない悪霊の類と。
他にも、異世界からやって来た魔物と。
戦績はそこそこ上がっていた。
だが、内容が良くなかった。
青年は、命を削るような戦い方をしていた。
結局の所、そのままでは、持たなかったのだ。
そして、グレゴリ・ダークマターへの敗戦である。
青年は終わった筈だった。
そこへ差し伸べられた救いの手。
掴まない手はない。
青年は、美少女のか細い手を、藁にも縋る思いで掴むのだった。

青年、名は遥希という。
大聖神ペグナムの突如の降臨によって、遥希は特殊な力を得るに至った。
選ばれたのは、チラン耐性があるからだ。
それからは、悪霊や魔物が見えるようになった。
雑魚を相手にするのは、表面上は容易かった。
みるみる体力は失っていったが。
遥希は不器用だったから、戦い方が下手だったのである。
そんな事もあり、東京に大死精グレゴリ・ダークマターが現れるも、遥希一人では到底、太刀打ち出来なかった。
瀕死の重傷を負った遥希は大聖神ペグナムの怒りを買い、故郷に追放された。
弱い者が居ても邪魔なだけであるし、戦っている遥希も傷付く、そういう事である。
ただ、大死精グレゴリ・ダークマターは大聖神ペグナムが追い払ったものの、打ち負かすまでには至らず、脅威は相変わらず残されたままだった。

美少女の名はエルピリス。
彼女には重たい過去があった。
最愛の父と母は、まだエルピリスが幼い頃に大死精グレゴリ・ダークマターとの戦いで戦死。
エルピリスは、孤児となった。
三日三晩、泣き腫らした。
その直後から、異母兄弟の差し金からの嫌がらせを受ける事になる。
エルピリスは強くなりたい一心で、大聖神ペグナムの地上別邸の門を叩いた。
エルピリスには、チラン耐性があった。
それが理由で、入門を許可されたのである。
この当時の地球には、実戦に耐え得るチラン耐性を持つ者は、エルピリス、遥希、それにベグベドスの三人だけだった。
チラン耐性を持つ者は、大死精グレゴリ・ダークマター及びそれによって生み出された悪霊や魔物の攻撃から、身を守る事が出来る。
それでも、やはり遥希一人では敵わなかったのだ。
大死精グレゴリ・ダークマター、それはもう手強いのである。

「ふぅん、エルピリスって言うんだ。良い名前だね。僕は遥希。もしかして君もチラン耐性があるとか?」
「そうだ。他に実戦に耐え得るチラン耐性を保持する者は、ベグベドスのみ。彼は変わり者だからな。ペグナムの呼び出しにも、応じたり応じなかったり、いい加減だ。だからお前も、気にすることはないぞ。私だってたった独りであのグレゴリ・ダークマターを相手にするのは、正直怖い。」
「でも、早く叩かなきゃいけないんでしょ?僕に何が出来るかな。」
「助け合えばいい。ベグベドスも、事ここに至ってようやく、慌て始めたようだからな。ペグナムでさえ単独では倒せなかった相手だ。協力の必要性はペグナムにしても身に沁みて分かっている筈だ。」

後日。
ペグナム地上別邸にて。
何日かぶりの東京、ペグナムを前に緊張の面持ちの遥希。
取り成すのは、もちろんエルピリスだ。
「生意気を言って申し訳ありませんが、敗戦の罪は、次の勝利で償えば良いと思うのです。たとえチラン耐性があったとしても、グレゴリ・ダークマターは独りで戦って勝てる相手ではありません。協力しましょう!私エルピリスと遥希、それにベグベドスとペグナム様とで協力すれば、勝機はあります。是非!」
これにペグナムは、幾分か穏やかな面持ちでこう返した。
「そうだな、その通りだ。遥希よ、今一度機会を与える。これが最後だ。我々の勝利へ貢献せよ。これが我々に残された唯一の道だ。覚悟を決めよ。」
ペグナムの鋭い眼光が、遥希を捉えて離さない。
「かしこまりました。仰せのままに。」
そうは言うものの、遥希の声は緊張からの震えで、ずっと上ずっていた。

翌日、都心部有数の広さを誇る公園に、ペグナムと三人が集結。
午後にもグレゴリ・ダークマターの襲来が予想される中での事だ。
皆、顔付きが違っていた。
早速、作戦会議を練る。
「私と遥希、それにベグベドスの三人がシールドを張って攻撃を防ぐので、ペグナム様はその隙にエクストリーム・プラズマ・フレアで敵を攻撃。敵の動きが止まった所で、私達残りの三人も攻撃に転じるの。どうかしら?」
「確かに、他に手はなさそうだな。皆の者、これでゆく!全力を尽くせ!」
円陣を組んで気合いを入れる。
まだ経験の浅い若い人間である三人にとっては、こんな事は初めてだった。
それだけ重要な任務なのである。
そこへ、背後から声が聞こえる。
遥希を呼んでいるのだ。
それは祐太郎だった。
「遥希、頑張れーっ!」

半年前の事。
遥希は祐太郎と付き合い出した。
祐太郎は、それは可愛かった。
相思相愛で、遥希は祐太郎を溺愛していた。
仕事に戦いにと忙しく、なかなか逢えなかったが、折をみては長電話をしていた。
だが、ペグナムによって故郷に追放されて、もう逢えないだろうと遥希は思っていた。
それまでやっていた工場での仕事にしても、ペグナムの魔法によってねじ込んで貰ったようなものだったから、追放となれば首になるのは当然だった。
最後の夜、二人して号泣していた。
「また会えるよね?」
そう聞かれて当てもないのに、嘘の笑顔と共に「きっと会えるよ!」そう答えてしまう自分が忌々しいとさえ思った、遥希だった。
あの夜以降、祐太郎の瞳からは、光が消え失せようとしていた。
その祐太郎が今、ここに居る。
何故なのか?
どうしてこの場所に居ると知っているのか?
答えはすぐに分かった。
「心の中を読ませて貰ったぞ。祐太郎君には私がコンタクトを取った。大事にしてやれ。彼は一途だ。」
エルピリスの優しさが、遥希の胸に沁み渡る。
高飛車だと思っていたが、とんだ勘違いだったようだ。
遥希は祐太郎に、心を込めて叫んだ。
「戦いが終わったら、また逢おう!約束する。もう何処へも行かないから!」
「約束だょ!負けないでね!きっとだょ!」

遥希の父親は、今時珍しい位に保守的だった。
内心では、母親は遥希に理解を示してはいたが、頑固な父親の手前、口には出せないのだった。
ある時、流石に耐えかねてゲイである事をカミングアウトするのだが。
「それはお前の個人的な嗜好の問題だ。結婚すれば気が変わる。言っておくが男と付き合ったら勘当だぞ。」
父は勘違いをしている。
ゲイであるのは、嗜好や趣味の問題ではない。
必ずしも好きでやっているという訳ではなく、好きになるのがたまたま男ばかりだったというだけの話だ。
これは、変えられない問題なのだ。
しかし頑固な父を前に、遥希は無力だった。
そんな折、戦士になる事を条件に東京行きをサポートしてくれたのが、ペグナムだったのだ。
「東京に行けば彼氏も出来るだろう。感謝するんだな。」
ペグナムにそう言われて、遥希は弾けた。
様々な男と、寝たり付き合ったり。
そんな中で知り合ったのが、祐太郎だった。
それまでは自分中心で、相手がどうなろうと関係なかった。
だが祐太郎を前にして、この子を泣かせてはいけない、何故だか遥希はそう思った。

祐太郎と一緒に居ると、本当に楽しかった。
素の自分をさらけ出せるのが、嬉しかった。
だからグレゴリ・ダークマターとの戦いに敗れた時、何もかもが終わりだ、遥希はそう思った。
そうした訳なので、あの時のエルピリスの救いの手は、頭上から下りてきた一本の蜘蛛の糸のようなものだったのだ。
エルピリスはいわば、恩人だった。

一方のベグベドスは、遥希にとってはよく分からない所のある人物だった。
ベグベドスはエルピリスと同じくバイリンガルなので日本語は話せるのだが、にも関わらず意思の疎通が難しい。
「奴は気難しいが、おだてておけば問題は起こらない」とはエルピリスの言。
それ以降、遥希はベグベドスとは上っ面だけの会話をする事になるのだがーー。
これが結構、上手くいったのである。
ベグベドス、案外単純な所があるのかもしれない、そう思う遥希なのだった。

東京も季節は、すっかり冬。
雪がちらついてきた。
突如現れるグレゴリ・ダークマター。
空間の裂け目からその巨体を徐々に誇示してゆく。
それはまさに、圧巻だった。
三人共、恐怖で後ずさる。
しかし、逃げるという選択肢は用意されていない。
ここで逃げ出せば、世界は終わるのだ。
勝てばヒーローになれる。
だが負ければーー。
道は一つしかない。
戦って勝つ事、それだけだ。
「行くぞ、三人共!我に続け!」
ペグナムの掛け声で陣形を整える皆。
三人はシールドを張ってペグナムを守る。
次にペグナムが声を上げた。
「エクストリーム・プラズマ・フレア、放射!」
敵が怯んだ。
すかさず三人も攻撃に転じる。
その時だった。
グレゴリ・ダークマターの一撃が遥希に加えられようとしていた。
「遥希、危なーい!」
祐太郎の叫び声のお陰で間一髪、難を逃れた遥希。
再びグレゴリ・ダークマターへの攻撃に転ずる。
しかしーー。

ダメージは与えた。
それも、確実に。
だが、致命傷には至らなかった。
ペグナムは叫んだ。
「私は今、ここで散る!私の体当たりでももし消えなければ、次はお前達が体当たりしてくれ!頼んだぞ!」
それは、決死の特攻だった。
衝突と共に激しい爆風が吹き荒れる。

ベグベドスは、孤児だった。
名前に似合わず日本人顔で、何処となく遥希にも似ていた。
いわゆる童顔のデブだ。
体が大きく、腕っぷしには自信があった。
だからこれまで、生きて来られた。
スラムの中でも、である。
感情は常に押し殺していた。
ふとした拍子に自分が自分でなくなる、そんな恐怖に苛まれていたからだ。
周りからは、よく分からない奴だと思われていた。
それでも、そんな事はベグベドスにとっては、どうでも良い事だった。
ただ生きていたい、それだけを常に願っていた。

「俺は生きていたかった。でも、世界が終わったら何にもならない。気合い入れて行くぞ!!うぉーーっ!!」
次の瞬間だった。
ペグナムとベグベドスの決死の覚悟が、実を結んだ。
世界は、救われた。
残された遥希とエルピリスは、同時に叫んだ。
「ペグナム様ー!」
「ベグベドスー!」

爆音、そして一瞬の静寂ーー。
口を開けて固まったままその瞬間に身を委ねる遥希とエルピリス、一呼吸置いて涙が溢れ出て止まらなくなった。
ペグナムとベグベドスの犠牲によって助かった、自分達。
情けなくもあり、悔しくもあった。
だがその後、遥希とエルピリスを囲んで、いつの間にか人々が万雷の拍手を浴びせていた。
そんな中でハグをする遥希と祐太郎。
ここに新たなヒーローが二人、誕生した。
拍手はもちろん、ペグナムとベグベドスにも向けられていた。
少しばかり戸惑い気味な二人と共に居た祐太郎は、まるで自分の事のように誇らしく胸を張るのだった。
唯一の心残りはやはり、ペグナムとベグベドスの尊い犠牲だったーー。

遥希とエルピリスは、TVクルーの取材にも卒なく受け答えをしていた。
そしてその映像は、遥希の両親も目にする事となる。

エルピリスとの別れの時。
遥希は、泣いていた。
女の子との別れだというのに。
好きだった訳ではない。
恩人なのだ。
だから、最後に握手を交わした。
「元気で。」
「そっちも。」
人々の拍手が最高潮に達する中、遥希とエルピリスは別々の方角へと歩みを進めてゆく。

ふと、遥希の携帯が突然、音を鳴らした。
慌てて出てみると、相手は父親だった。
「遥希、良くやった、でかした!お前の事だ、仕事なんてすぐに見つかる!頑張れ!相方さんと幸せになるんだぞ。」
遥希は、泣いていた。
ゲイである自分に対して、ようやく許しを貰えたのだ。
次から次へと止め処もなく、大粒の涙が零れ落ちていった。
それは、無理のない事だったーー。

遥希の父親は、資産家だった。
その支援を受けて、遥希と祐太郎の住まいは無事に確保出来た。
こぢんまりとしたワンルームマンションの、一室だ。
遥希の仕事も程なくして、見つかった。
遥希は体力はあったから、土木作業員としての仕事を得た。
祐太郎は体は大きかったがそこまでの体力はなかったので、以前から小さな会社で営業をやっていた。
それだけでもきついと思っていた位なので、力仕事は無理なのだ。
でもまぁ、ダブルインカムで当然子供も居ない訳であるから、それぞれの収入が多くなくとも、十分にやって行けるのである。

しかし、遥希とエルピリスにとっては予想外の事ではあったが、二人の戦士としての任務は、終わった訳ではなかった。
まだまだ戦わねばならない相手は、たくさん居たのだ。
そう、ラスボスとも言える大鬼神ヴェーグ・ヴォーレとそのたくさんの配下の最後の脅威が、ひたひたと迫っていた。
配下筆頭のグレゴリ・ダークマターのまさかの敗北、これに怒っての大鬼神自らの襲来である。
今は亡きグレゴリ・ダークマター以外の配下は、実力で言えば雑魚といっても過言ではない。
だが、ラスボスのヴェーグ・ヴォーレは、No.2であったグレゴリ・ダークマターの実力をも遥かに凌ぐ攻撃力を持つ。
それだけに、本当に手強いのだ。
地球には、ペグナムの跡を継いだ大聖神マルストが降臨していた。
ヴェーグ・ヴォーレの地球襲来が予測される中、神々の王の命で急遽派遣されたのだ。
マルストは、神々の中ではペグナムよりも、以前から大変上級の存在とされていた。
そうは言っても、共に戦いに打って出られる程のチラン耐性を持つものは、地球には最早遥希とエルピリスの二人のみ。
絶体絶命だった。
だが、これが最後の脅威なのだ。
少なくとももうこの天の川銀河には、それ程の悪は他には一切存在しない。
何としてでも生きねば。
そして、世界を救わねば。
別れたばかりの遥希とエルピリスは再び顔を合わせ、マルストから、秘義クリスタル・サンダー・バーストを伝授されていた。
この苦境を乗り越えれば、安寧の時代がやって来る。
まさに正念場だ。

冬の終わり。
遂に大鬼神ヴェーグ・ヴォーレが侵略してきた。
見る間に空模様が急変、雷鳴が辺りに轟いた。
地面から現れる敵の数々、およそ二千。
雑魚とは言っても、これはしんどい。
こちらは大聖神マルストを含めてもたったの三人。
戦いの様子を人々は、今度は避難所のテレビで固唾を呑んで見守っていた。
「今から私は爆死する。非核超高温度熱エネルギー爆弾を体内に仕込んだ。これを私の体内のエネルギーと融合させる。これが私の最初で最後の攻撃だ。間髪を入れずにクリスタル・サンダー・バーストを敵に浴びせて欲しい。それでも駄目なら特攻するのだ。いいな。何度も言うがこれが最後の敵だ。頼む、頑張ってくれ!」
語気に、そして圧に押されて、二人は頷くのみだった。

勇敢なTVクルーが取材に押し寄せている。
蛮勇とも取れなくもないが、使命感があるのだ。
ある意味では称賛に値する。
残念ながら、自衛隊の装備は全く役に立たない。
世界の運命は、たった一人の神と、二人の人間に託されているのだ。

戦闘開始。
例によってシールドを張って、敵の攻撃からマルストを守るのだが、敵の圧が強過ぎて押されている。
数の差が物を言っているのだ。
時間がない。
爆弾を抱えたマルスト、早速瞬時にヴェーグ・ヴォーレの懐に飛び込む。
ペグナム、ベグベドス、そしてマルスト。
悲しかった。
だが感傷に浸っている猶予は少しもない。
直ちにクリスタル・サンダー・バーストを打ち込む遥希とエルピリス。
だが、この状態ではシールドが使えない。
数は圧倒的に先方が多いのだ。
隙を見てヴェーグ・ヴォーレが遥希に襲い掛かる。
さしものチラン耐性を持つ遥希も、これまでか。
その時だった。
「やめてーっ!!」
祐太郎が遥希を庇おうとしたのだ。
ここで祐太郎を死なせる訳には、絶対にいかない。
遥希は絶叫した。
ヴェーグ・ヴォーレとその配下の攻撃を持ち前のチラン耐性の最大限の解放で跳ね返しながら、クリスタル・サンダー・バーストを限界まで放出する。
「うぉりゃーっっ!!」

遥希は、気絶していた。
息はある。
大丈夫だ。
だが、エネルギーを使い過ぎて、チラン耐性をなくしてしまっていた。
結局エルピリスだけが、チラン耐性を残す事となった。
だがこれからの地球には恐らく、長い平和が訪れる事だろう。
敵の総大将とも言えるヴェーグ・ヴォーレの脅威は、去ったのだ。
推測ではあるが、チラン耐性はもう、必要ないと言えばそう言えなくもなかった。
少なくともこの時点ではそうだった。
だから、これで良かったのだろう、皆がそう思っていた。

「大丈夫か、遥希。」
エルピリスが病院で、意識を取り戻した遥希に心配そうに声を掛ける。
盟友なのだ。
絆がある。
その横には、最愛の祐太郎の姿。
遥希は無事に任務を終えて、幸せだった。

一連の活躍を受けて、遥希には公演やTV出演のオファーが殺到した。
父親の親類が経営する会社に入社した事もあり、土木作業員の仕事とも、これでお別れだ。
エルピリスは故郷に戻る。
今度こそ、別れの時がやって来たのだ。
遥希は、今度は泣かなかった。
一回り大きく強くなっていた遥希は、胸を張っていた。
晴れやかな、それぞれの旅立ちだった。

遥希と祐太郎、住まいが変わった。
最初の戦い以降の二人は、遥希の父親が都内の下町で経営する小さなワンルームマンションに暮らしていたのだが、二度目の活躍によって、部屋が少し広くなった。
もちろん、遥希の父親からの贈り物である。
それは賃貸物件の空き部屋ではあったが、父親が経営する物件であり、便宜を図ってくれたお陰で、家賃はタダだ。
息子の活躍が、余程嬉しかったのだろう。

これからは、二人で共に生きてゆく。
手を取り合って、どんな時にでも助け合ってゆく。
まさに前途洋々、二人にはきっと、幸せな未来が待っているのだ。
それはヒーローである遥希に相応しい、輝かしい門出だった。
二人共、笑顔がとても良く似合う。
遅い雪がちらつく中でも、手を取り合って元気だった。
忘れられない季節となった冬、二人にとっては大切な記念となった。

ある日、寄り添い合って物思いに耽る二人。
これまで、色々あったからだ。
それは、何でもないのにのちにいつまでも忘れられない思い出となる、ある昼下がりの事だったーー。
空は澄み渡って、天高く二人を見下ろしていた。
それを見た二人は、空の星となった皆の分まで、幸せになろう、そう誓った。
本当に、心からそう思ったのだった。
「さよなら、ありがとう、みんな。」
遥希は心の中で、はっきりとそう呟いていた。

お・し・ま・い

ここまでお読み頂きまして、誠にありがとうございます。
三部作の最後は、二段構えの展開となっております。
それにしてもこいつは、推敲に苦労しました。
何十回となく読み返しました。
これ以上アラがなければ良いのですが。
楽しんで頂けましたら、幸いです。
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