LONG & WIDING ROAD

煌めく星々の下で。
澄み切った空気を吸い込んで白い息を辺りに吹きかけながら、ボクは考えていた。
いつの時代も、人々は戦いを繰り返して来た。
今もまた、新たな戦いの火蓋が切って落とされようとしている。
ボクに何が出来るのか。
太刀打ち出来るか。
いっそ、逃げようか。
途中で道に迷って敵に捕まったら、最期かも知れない。
でも、戦地で亡くなるのも同じ事だ。
それならば、或いはーー。

リン、リン、リン。
携帯のアラームが鳴る。
この時代、携帯の事はスマートフォンと呼ぶらしい。
ボクに言わせれば、ちっともスマートではないのだが。
それにしても、また奇妙な夢を見た。
場所が何処かさえ分からない草原の中で、甲冑を身に纏って佇んでいた。
いつの時代の話だろうか。
きっと、漫画の見過ぎだろう。
そう思う事にして、ボクは洗面台へと向かった。
でもまだ、夢の中にいるような。
そんな不思議な感覚もあるにはあった。

夏。
冷たい水の感触が心地良い。
目が覚める瞬間だ。
歯も磨いて、朝食だ。
「夏彦、ご飯よー!いい加減、いらっしゃい!」
母が呼ぶ声がする。
食卓に座って、いつもと変わり映えのしない朝食に手を付ける。
厚切りトースト三枚、ベーコンエッグ、コーンスープ、大盛りサラダ、昨日の残りの煮物、鯖の味噌煮。
組み合わせがおかしいが、いつもの事だ。
気にしない。

さて、ボクの名前は先に出て来た通り、夏彦だ。
文字通り、夏に生まれて来たから夏彦。
苗字は榊。
高校二年生。
今は夏休み前。
進学は考えていないので、気楽なものだ。
成績は上の中。
とはいっても、偏差値の上では底辺校だから、アテにはならないが。
そんな事を考えていると。
「夏彦、急がないと遅刻するわよー!」
掛時計に目を遣る。
やべっ!
いつの間にかとんでもない時間だ!
まぁこれはいつもの事だが、遅刻だけは免れたい。
生活指導の先生がうるさいのだ。
ボクは鞄を持つと、慌てて家を駆け出した。

バス、電車と乗り継いで、降りた駅から走る事五分。
どうにか間に合った。
「おら、遅いぞ榊、急げ!」
生活指導の先生に追い立てられて、下駄箱までラストスパート。
校内では走ってはいけないのだが、守る生徒は多くない。
ここはボクも、走るしか。
息を切らしながら、教室のドアを開けて席に着く。
ちょうどそのタイミングでチャイムが鳴った。
危なかった。
「夏彦、ギリギリセーフな。お前の事だから遅刻はしないと思ってたが、今日はいつにも増してギリギリだったじゃん。どうした?」
隣の席の蓮が話し掛けてくる。
幼馴染だ。
フルネームは鳳 蓮。
ちょっと珍しい名前だと思う。
それはそうと。
聞かれている質問には答えておこう。
無視は良くない。
「朝方、変な夢見ちゃってさ。起きるなりぼんやりその事考えてたら、遅くなった。」
すると、蓮。
「何だ、またその話か。いくら漫画が大好きだからって、読み過ぎは良くないぞー。」
笑い飛ばすのだった。
少し気が楽になったボクは、伸びをしてHRを遣り過す。

この後、二学年全員で課外授業。
クラシックを聴きにコンサートホールへ行くらしい。
貸切バスで。
だから、遅れると本当にヤバかったのだ。
すっかり忘れていたのだが。
やがてバスは会場へと到着。
生徒たち、続々と席に座る。
曲目は、チャイコフスキーの弦楽セレナーデ、ドヴォルザークの交響曲第8番、同じくドヴォルザークによるスラブ舞曲集より抜粋である。
演奏が始まる。
が。
どいつもこいつも聴いちゃいねぇ。
そういうボクも、蓮と二人で漫画雑誌を読み耽っていた。
引率の教師も、誰一人としてそれを注意しようとはしない。
底辺校だからな。
ま、こんなものだろう。
クラシックの演奏は、さしずめBGMだ。

帰りのバスの車内で。
みんな流行りのJ-POPの話題で盛り上がる。
でもボクは、漫画の方が好きだ。
飽きもせずに蓮と漫画を読み耽る。
すると。
クラスの目立ちたがり屋がボクたちを見て一言。
「そこ、仲良いな。男同士、付き合ってんのか?」
バスの中は爆笑の渦。
「あぁ、付き合ってるぞ。だが男同士じゃない。俺はレディだ。勘違いするなよ?」
益々以って爆笑の渦。
ボクはというと、呆れて開いた口が塞がらない。
実はボクは、密かに蓮の事が好きなのだ。
だから、こんな言われ方は傷付く。
でも仕方ないね。
男同士だし。
まぁ、ここはサバサバと。
「じゃあ、ボクもレディだから、レズビアンだね!」
一応、乗ってみる。
「笑い過ぎて、腹痛ぇ。」
好評だったようだ。

その日のお昼。
ボクと蓮は机を向かい合わせにして、昼食を食べる。
いつもの事だ。
実はボクも蓮も柔道の有段者だ。
こんな事くらいで虐めに遭う程、ヤワじゃない。
こう見えても一応、クラスメイトからは一目置かれているのだ。
この底辺校では一応、二人とも優等生で通っているしね。
「なぁ、今日部活終わったら本屋行かねぇ?」
蓮からの誘い。
内心嬉しいのだが、ここはいつもの通りにポーカーフェイスで。
「うん、行こ行こ。何なら今からフケようか。」
もちろん、冗談である。
授業はともかく、部活には出ておきたい。
それは蓮も同じ事。
「授業はともかく、部活がなぁ。」
「ま、後の楽しみがあるって事で、とりあえずは授業と部活、頑張ろう。ね、蓮。」
この時に蓮が浮かべたやんちゃな笑顔。
これがボクの大好物なのだ。
眼福、眼福。

さて、放課後。
二人して汗臭いのも気にせず、電車に乗り込む。
「今日も一日暑いなぁ。へばっちゃうよ。」
この時期になると恒例の、蓮の愚痴。
いつもの事なので、右から左へ、受け流す。
電車を降りると、駅前の書店へ。
ボクたちのお目当ては、新刊のコミック。
それぞれ別なコミックを一冊ずつ買って、回し読みするのだ。
あいにくビニールで覆われているので立ち読みは出来ないが、この作家さんの新刊なら、きっと面白いだろう。
会計を済ませて、店を出る。
「読み終わったら、交換な。じゃ、俺はここで。また明日、学校でな。」
「うん!またねー!」

帰ると、中学生の弟が待っていた。
「兄ちゃん、テレビゲームやろうよ。」
やや。
ここは買って来たコミックを早速読みたい所なのだが。
でもまぁ、仕方ない。
ゲームも嫌いではないので、早速一緒にやる事にする。
しかしなぁ。
格闘ゲーム、ボク弱いのだ。
せめてRPGにしてくれればいいのに、なんて思ってみたりもする。
負けるのが分かっていてやるゲームって、何だか虚しい。
結局、全戦全敗。
母親に促されてお風呂を済ませて、夕食の時間だ。
父親の帰りが毎日夜九時なので、夕食の時間はそれに合わせている。
今日は山盛りのトンカツと、添え物にもも肉の唐揚げ。
ご馳走だ。
「いただきまーす!」
食いしん坊揃いの我が家。
一升半のご飯がみるみる内になくなってゆく。
腹八分目で。
「ご馳走さまでしたー!」

「ねぇ兄ちゃん。学校帰りに何か買って来たでしょ。あれ、何の袋?」
流石は目ざとい。
「コミック。バースト・ドライブの新刊。」
「見たい見たい!貸して!」
「明日ね。今日はボクが読む。」
「オッケー。待ってるから。早いけどおやすみ。」
「うん。おやすみね。」
歯を磨いて、宿題をちゃっちゃと済ませる。
いよいよお待ちかね、バースト・ドライブの新刊だ。
これを楽しみに、今日一日過ごして来たのだ。
読み耽る。
どっぷりと。
すると。
「私はサイバー・ジェネシスの世界の住人。キミは選ばれし者。私とともに来なさい。さぁ!」
萌え系の女の子が甲冑を着て何やら喋っている。
サイバー・ジェネシスだとか、意味が分からない。
それにボクはゲイだから、萌えないし。
行きたくない。
睨み付けると、手を引かれた。
凄い力だ。
見ると腰には剣を二本刺している。
二刀流だ。
怖くなって、逆らう気力がなくなった。
壁の手前の空間には、裂け目が表出している。
もう、何が何やら。
とりあえず、行ってみるしか!

ボクと女の子は、裂け目に飛び込んだ。
目に飛び込んで来たのは、別世界。
「私は炎を司る女神、フレア。その身なりでは危険だから、甲冑を着てもらう。慣れるまでは重いけど、我慢して。」
そんな事より、今置かれている状況の方が危険に思える。
巨大な鷹の化け物に乗って空を飛んでいるのだ。
それを知ってか知らずか。
「安心して。この鷹は賢いの。私の相棒よ。」
風が冷たい。
日本とは季節が全く違う。
寒い。
ふと見下ろすと、白壁にオレンジ色の屋根の建物が丘の上にポツポツと建っている。
そこへ、もう一羽の鷹が近付く。
「おーい!夏彦ー!」
「蓮!キミも来てたの!?」
驚くボクを他所に、フレア様はもう一羽の鷹の主人に声を掛ける。
「マリン、久し振り。今度の戦いは厳しいものになりそうね。大聖神ファレミスト様が魔都ギルゴニアへ大親征なさるそうよ。私たちも行きましょう!」
「もちろんよ、フレア!そのために選ばし者を連れて来たのだから。」
どうやら蓮も選ばれし者らしい。
また、後で聞いたのだが、マリン様は水の女神との事なのだそうだ。

今ボクたちが居るこの世界の中心、聖都タルフェニアの守りの拠点にして最前線、ワーズワースの宮殿。
ここでボクと蓮は甲冑を身に付けた。
重いが、思っていた程ではない。
運動系の部活をしていた事が、ここで活きた。
ひとまず、動いてみる。
うん、これなら大丈夫そうだ。
これで寒さも紛れるし、かえって助かる。
ボクたちは女神様から、剣を授かる。
「その甲冑も剣も、特殊なの。特別なオーラを身に纏った者でないと、受け付けない。あなた方には、そのオーラがある。だから選ばれし者なの。その甲冑と剣には意思があるから、危険が迫った時、守ってくれるわ。安心して。」
フレア様が説明してくれる。
そこへ駆け付ける、一人の騎士。
慌てている様子だ。
「フレア様、マリン様。大変です。魔都ギルゴニアにて大死精グレゴリ・ダークマターが復活しました。先行するファレミスト様と傘下の部隊が、苦戦しています。急いでください!」
どうやら大変な事態らしい。
「これから、戦いに次ぐ戦いになるわ。覚悟はいいわね、二人とも。」
正直、覚悟なんて出来ていなかった。
でも、他に道はないようだから、仕方ない。
やってみるしか!
「頑張ります!」
たまたまか、ボクと蓮の声は同時に響いた。

途中で、風の女神サイクロン様が合流した。
その選ばれし者は何と、ボクの弟。
まだ中学生なのに、無茶させるなぁ。
選ばれし者は世界でたったの三人。
みんな日本に居るのが不思議だが、ハイレックという宇宙でも数少ないパワーストーンがたまたま落下したのが家の近所だった、という事らしい。
そのハイレックの力を強く受けたのが、蓮と弟とボクなのだ。
正直、迷惑な運命である。

見渡す限りの草原を飛ぶ。
ふと視界に、軍隊の姿が飛び込んで来る。
ここはタルフェニアから少し離れた郊外の村、テルワース。
「奴ら、こんな所まで進軍していたのね!マリン、サイクロン、そして選ばれしみんな、行くわよ!」
フレア様の掛け声。
と共に、鷹に乗っていた女神様たちが次々と地上に飛び降りる。
「さぁ、早く!」
女神様たちに急かされて、蓮と弟とボクも続いて飛び降りた。
こんなの有り得ない!
だが、不思議と体への衝撃は少ない。
敵はざっと千人程。
こちらはたったの六人。
勝てるか。
正直、もう終わりだと思った。
だが、敵を目の前にすると、驚く程の早さで体が動くのだ。
瞬時に敵を、バッタバッタとなぎ倒す。
自分が自分じゃないみたいだ。
むしろ甲冑と剣が、勝手に動いている。
いわば、ボクたち三人は甲冑と剣の依り代みたいなものなのだ。
ただ身を委ねているだけ。

十分後。
ここでの戦いは、ひとまず終わった。
味方は、みんな無事だった。
勝利である。
だが、ここは戦場である。
敗北は、死を意味する。
負ける訳には、絶対にいかない。
勝たねば。
何としてでも。

次の戦いは、すぐに待っていた。
地方都市アーフェニアでの、敵主力部隊との一大決戦である。
敵総数は、二百万。
大砲の部隊も居る。
これをたったの六人で倒すのである。
無理筋な話というものだ。
が、やらねばならない。
まさに、不条理だ。
そこへ。
フレア様が火を放った。
一面の炎、まさに火炙りである。
「さぁ、かかって!」
ここでボクたち三人の出番。
残った敵の兵士たちを根絶やしにするのだ。
しかし、切っても切っても終わらない。
そのまま、三時間が経過。
そろそろ、体力の限界だ。
すると、今度はマリン様が。
「みんな、ちょっと退いてて!」
慌てて避難するボクたち三人。
水攻めである。
ここまでで、敵の四分の三は倒した。
最後はサイクロン様が風で吹き飛ばす。
敵はほぼ全滅。
僅かな残兵も投降した。
これで、最終目的地の魔都ギルゴニアまでは敵は居ない。
鷹に乗って、旅路を急ぐ。
が。
行けども行けども、到着しない。
遠いのである。
夜になって、ひとまず休む事になった。
みんな、疲れ切っていた。
それは女神様たちも同じ事。
見目麗しい顔が、疲れで台なしだ。

煌めく星々の下で。
澄み切った空気を吸い込んで白い息を辺りに吹きかけながら、ボクは考えていた。
いつの時代も、人々は戦いを繰り返して来た。
今もまた、新たな戦いの火蓋が切って落とされようとしている。
今度の敵は、強い。
途轍もなく。
ボクに何が出来るのか。
太刀打ち出来るか。
いっそ、逃げようか。
途中で道に迷って敵に捕まったら、最期かも知れない。
でも、戦地で亡くなるのも同じ事だ。
それならば、或いはーー。

そんな事を考えていると、隣にフレア様がやって来た。
「今更、逃げ出そうなんて、考えないでよね。今逃げ出したら、元の世界には戻れないわ。それに、あなたは強い。余計な事は考えない事よ、いい?」
ボクは黙って頷くしかなかった。
全てお見通しだったのだ。

夜も更けて来た。
ボクと蓮は、並んで横になる。
最後の戦いを前にして、気分が高揚していた。
或いは、焦っていたのかも知れない。
蓮の手を、そっと握った。
何も言わない告白。
拒否しないのが、返事だったーー。

やがて、朝。
起きがけに、蓮がキスをしてきた。
ボクたちのファースト・キスは、フレンチ・キスだった。
もしかしたら、ここに居る誰かが死ぬかも知れない。
そんな思いがあったから。
だからこそ、今ここでキス出来て良かった。
心から、そう思った。

魔都ギルゴニアへと旅立つ。
五時間後。
到着。
しかし、戦況は捗々しくなかった。
大聖神ファレミスト様の傘下の部隊は全滅。
ファレミスト様が一人気を吐いていた。
加勢するボクたち六人。
サイクロン様がみんなに耳打ち。
「一度しか使えない必殺技があるの。使ってみましょう!」
マリン様は反対する。
「エクストリーム・サンダーボルトね。あれを使ったら最後、みんなしばらくの間戦えなくなってしまうわ。一撃で倒せなかったら、そこで世界は終わってしまう。」
そんなやりとりの中、ファレミスト様が静かに口を開いた。
「やりましょう。他に道はないわ。日本から来た三人も、協力してくれるわね?」
ボクたちは揃って頷いた。
「はい!」

ーー戦いは、終わった。
魔都ギルゴニアの中心には、大死精グレゴリ・ダークマターの巨大な亡骸が横たわっていた。
世界は、救われた。

「いよいよ、お別れね。」
戦いの後、最初に口を開いたのは、フレア様だった。
「みんな、ありがとう。」
ファレミスト様がそれに続く。
マリン様やサイクロン様とも挨拶を交わして、ボクたちはいよいよ元の世界に帰る。
日本でのごくありふれた日々が、再び始まるーー。

「よぉ、夏彦!おはよ!そろそろ夏休みだな。二人でどっか行こうぜ。」
高校の教室で。
昨日までの冒険とは打って変わった、まさに日常の始まりだった。
「うん!海にでも行こうよ。湘南とか。」
ボクが返事をすると、早速横から茶々が入る。
「海でデートか?デブが揃って、暑苦しいなぁ!」
教室中、大笑いだ。
でも、邪気はない。
だから、これで良かった。
「レズビアンだからね。ボクたち、レディだから!」
一応、付け加えておく。
まぁ、軽い冗談である。

ボクたちはこうして、幸せを手に入れた。
これからもきっと、仲良くやれるはずだ。
長い長い、広大な道がボクたちの目の前に広がる。
怯えてなんかいない。
むしろワクワクしている。
「やってやるさ!」
「おぅ、独りじゃないからな、出来るさ!」
さてさて、初体験はまだかって?
それは内緒ですょ。

お・し・ま・い。

当サイト初、萌え系女の子の登場する作品です。
もちろん、そこがメインではありませんが。
日常と非日常のメリハリを付ける事を意識しました。
GREEN : GREEN シリーズに通ずるものがあると思っています。
それが故の、このタイトルです。
バトルシーンの描写は苦手なので、短めにしてあります。
弟君、もう少し出してあげても良かったかも。
ちなみに大死精というのは、「巨大な死の精霊」の略語です。
悪しからず。
あと、グレゴリというのはグレゴリオ暦から採りました。
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