SPRUCE FOREST original [EDITED archives]

初めての作品です
ファンタジーみたいな雰囲気を、少し意識しています

とうひの木の森の中
すこし寒いこころを抱いて、ボクはふらふらと彷徨っていた
当てもなく、居場所もないまま
すこし悲しくなって、目の前がぼんやりと見えなくなってきた頃
どこかから、ボクを呼ぶ声がして、ハッとして辺りを見回す
キョロキョロとしていると、うしろからそろそろと、誰かが近付く気配がした
ニコニコと微笑むまるまるとした男の子
キリルだ

「元気ないねえ」
すこしだけ心配そうな顔をして、ボクの顔をのぞき込む
ボクは一瞬ためらって、でも正直に答えた
「うん、ちょっとさみしかった」ってね
そしたらキリルはニコニコとして、ふっくらとしたお腹を突き出してみせる
「ボクがいるよぉー」
いたずらな、それでいてやさしい笑顔で、そう胸を張る
だからボクはうれしくて、ありがとうって言いながら、キリルのそばにうんと近付く
自然と、目が細くなる

そうして
きらきらと輝くお星さまのそらのしたで、ボクたちはくちづけをした
キリルのやわらかいくちびるが、ボクの頬に触れ、つぎにくちびるを塞ぐ
ふるえる手をキリルの上気した頬に乗せると、ボクたちの笑顔につられて、辺りの空気までもが心なしか、微笑んだ気がした

「きみとなかよくなれて、ホントに良かった」
もうすっかり、ポカポカと暖かな心を抱いて、ボクはしみじみと呟いてみる
「ボクもおんなじ気持ちだよ」
キリルのやさしいやさしい呟きで、ボクは自分の居場所を確かめる

穏やかな時間

やわらかでやさしい幸せを感じながら、ボクの意識は、キリルと出会うすこし前までさかのぼっていく

森の掟を破って、そのせいでみんなから捨てられてしまって
悲しくて、くやしくて、さみしくて、つらくて
壊れていて、どうしようもなくて

かたく、かたく、こころを塞いで
誰とも話すこともなく、ずっとひとりぼっちで

自分のこころの中さえも怖くてのぞけないまま、ボクは誰もこない暗い洞穴の中で、寒さでガタガタとふるえるこころをもてあましていた
それでもはじめは、ひとりでそうっと、静かに、泣いているだけだったんだ

長い間、ずっとね

一日がとても長くてさ
日が暮れる頃、何にも出来ないまま、あぁ、また一日が終わっちゃうんだって思うと、何だかとても悲しくてさ
でも、1年が過ぎるのは、何故だかあっという間だったよ

そうして、誰にも必要とされず、誰にも何にも出来なくて、何の役にも立てなかったボクは、ひたすらに暗い洞穴の中で、ただじっと身を守っているしかなかったんだ
じっと、静かに…

それなのに、いつの間にか
やさしくなくなっていて
乱暴になっていて

いろんなものをこわしたよ
大切にしていたたからもの、むかしむかしの大事な思い出
我慢出来なくて、暴れて、叫んで
叩きつけて、踏みにじって
悲しくて、涙が止まらなくて
それでも誰も、助けてはくれなくて
こわれてしまったかけらを前にして、ボクはいつも、途方に暮れていたんだ

みんなこわれてしまった
友だちにも家の人にも嫌われていたボクにとっては、どれもみんな、大切な大切な、たからものだったのに
何にも、なくなってしまった

だから、こわしてしまった時の気持ちを忘れたくなくて、二度と繰り返したくなくて、ボクは、粉々になったかけらさえ、片付けることをしなかった
じめじめとした暗い洞穴の中、ボクのまわりには、粉々になってしまったたからものたちが、転がり散らばっていた
まるで墓場のようだった

この世界では、かみさまがボクたちみんなをいつでも見守っていて、見張っていてさ
いつもみんなびくびくとしていて
だから、嫌われものでどうしようもないボクには、誰も、近付くこともなかった

それなのに
そんなかみさまの目を盗んでさ
いたずらな顔をすこしくもらせて
まるまるとした男の子は、すこしさみしそうにしながら
ボクのそばまで、やってきたんだ

すこしうるんだ目で見つめられて
胸をつかまれてしまったボクは、苦しくて、どうせボクなんかじゃ友だちにもなってもらえないって思って
ただ黙っていることしか、出来なかった

そうしたら男の子は、目の前までやってきて、しゃがんで
「そばにいてもいい?」って、聞いてくれたんだ

ずっと、さみしかったからさ
きっと、うれしかったんだと思う

自然と涙が零れ出すばかりでうまく話すことも出来ないボクのとなりに、ちょこんと座って、男の子は、暖かくてやわらかい手のひらを、ボクの冷たい手のひらに重ねてくれたんだ
そのとき、生まれてはじめて、ボクのこころが、ポカポカと暖かくなったような気がした

何にも言えないまま、それでもボクたちは、ただそばにいるだけで、暖かくて、幸せだった

やがて男の子は、ボクのまわりに散らばったかけらを見て、「どうしたの?」って聞いてくれる
「むかしむかし、大切だったものだよ」って答えると、男の子は、ボクと一緒に集めようよってニコニコ笑って、それらを大切そうに、拾いはじめたんだ
それは、粉々に砕け散ったボクのこころのかけらを、ふたりでひとつずつ、拾い集めるようなもので
あんなに悲しかったはずなのに、時折ふたりで見つめあうと、自然と笑顔まで溢れてきて
生まれてはじめて幸せをかみしめて、ボクは何だか、元気になっていた

やがて男の子は、キリルと名乗った
「ボクも、ずっとひとりぼっちで、みんなの嫌われものだったんだ」
そんな呟きを耳にして、ボクが驚いていると、キリルはいたずらに微笑んで、「きみもボクとおんなじだね!」って言ってくれた
大切な居場所が出来た瞬間だった
やわらかくてやさしい、暖かな笑顔がとにかくまぶしくて、ボクは、ずっとキリルのそばにいたいと願った

ボクたちは自然と結ばれ
ふたり寄り添って生きていくことを誓った

「ねえ、どうしたのー?」
キリルの声に引き戻されたボクの意識は、目の前ですこし心配そうな彼の表情に集中する
「何でもなぁーいよっ!」
ふざけてボクが笑うと、キリルはふっくらとした頬をことさらにふくらませて、拗ねてみせる
「なぁーんだよぉ、おしえろよぉー!」
だからボクは、キリルと出会う前のこととかだよって答えて、すこし悲しそうな顔をしてみせた
するとキリルは、急に真剣な表情になって、ボクのそばにうんと近付く
自然と、胸がドキドキする
「ボクがいるから、もうさみしくないよ!ずっとずっと、プリムのそばにいるよ!」
そんなキリルの暖かい言葉で、ふたりは、大切な絆を確かめあう

そうして
きらきらと輝くお星さまのそらのしたで、ボクたちは再び、くちづけをした
いたずらな笑顔を浮かべたキリルの、やわらかいくちびるが、ボクの鼻の頭に触れ、つぎにくちびるを塞ぐ
やっぱりふるえてしまう手を、今度はキリルのやわらかくて大きなお腹に乗せると、ボクたちの緊張にのまれて、辺りの空気までもが心なしか、ふるえた気がした

ボクたちふたりは、互いの肌を重ねあって、互いの体の重さ、暖かさを、確かめあった
ふたり、自然と、息が、上がって
かたくひとつになったまま、誰にも見せたことのない互いの姿を見つめあって
この上ない喜びを感じて、ふたりは、切ない、ふるえるような声を上げて果てた

ボクたちは、はじめて、ひとつになれたんだ

「きみとひとつになれて、ホントにうれしいよ!やっとひとつになれたね」
涙ぐみそうな心を抱いて、泣き虫なボクはしみじみと呟いてみる
「ボクもおんなじ気持ちだよ」
キリルのかすかにふるえる呟きを聞いて、ボクは、生まれてきてよかったと、生まれてはじめてしみじみと思う

穏やかな時間

でも、やわらかでやさしい幸せを感じていたボクの意識は、耳元へのかみさまの囁きで、いっぺんに凍り付いていた

別れ際
何も言えなくなったボクを見て、とても心配そうなキリルは、「また会おうねえ、絶対だよ!ずっと一緒だよぉー、約束だよっ!」って言ってさ
じっとボクを見つめてくるんだ
だからボクは、大きく頷いて、いつまでもいつまでも、去っていく大切な人のうしろすがたを、見送った

だけどあの時ボクはかみさまに、もうこの世界ではキリルとは、一緒にいてはいけないと、言われたんだ

たったひとつのボクの居場所
どうしようもないダメなボクにずっとやさしくしてくれた、たったひとりの男の子

お別れしたくなかった
ずっとそばにいたかった
でも、ボクには、どうしようもなくて

ボクたちは、男の子だからね

再びキリルと会ったボクは、うれしそうな笑顔を前に、気が動転して
ふるえが止まらなくて

そうして
あの子にだけは、傷付いてほしくなかったのに…
ついボクは
いけないことを言ってしまって

…取り返しのつかない一瞬だった
ボクたちの束の間の幸せは、あっけなく手のひらからすり抜けていった
そうして、ボクのささやかな祈りさえも嘲笑うかのように、事態は最悪のシナリオを描きはじめた

まるで、悪夢だった

「いやだあぁーっ!いやだよぉーっ!」
目の前で泣き叫ぶ大切な人
「いやだあぁぁーーっ!」

そうして

ぐしゃり
キリルのこころが砕けた音が響いた

「違うよ、キリル!」
「違うよ、全然違うよ!」
ボクは泣きながら叫ぶ

でも、もう遅かったんだ

逃げるように駆け出すキリル
ふるえる体を抑えることさえ出来ずに立ち竦むボクは、涙でゆがむ視界の先に見えるキリルを、ただ茫然と見送ることしか出来なくて
かみさまの言うことを守ろうとしたボクは、たったひとりで傷付いたあの子を、追いかけることさえも出来なくて
だからボクは、いちばん大事な、大切なものを、なくしてしまったんだ

…だけど、さ
まさか、と思ったんだ
愚かなボクは、まさか、ボクがあんなにもあの子を悲しませていたなんて、思いもよらなかったんだ

取り返しの付かないことをしてしまったことに、気付くことすらないまま

もみの木の森の中
ガタガタとふるえるこころを抱いて、ボクはふらふらと彷徨っていた
当てもなく、居場所もないまま
悲しくて涙が止まらなくて、目の前がぼんやりと見えなくなってきた頃
どこかから、誰かのちいさなちいさな声がして、ハッとして辺りを見回す
キョロキョロとしていると、森をそろそろと流れる小さな川に、まるまるとした男の子が浮かんでいた
流されてくるのは、キリル

「うわあぁぁーっ!」

訳も分からず川に飛び込んで、ボクは、意識のなくなりそうなキリルを無我夢中で、森に引っ張り上げていた

ボクはすぐには、顔も見れなかった
かわいそうで
勢いで飲み過ぎたたくさんのおくすりが、大好きなキリルを苦しめていて
もう、手遅れだと思った

「さみしいよぉ、さみしいよぉ」
あんなにかわいらしかったキリルは苦しそうに呟いて、泣きじゃくっていた
次第に弱っていくキリルに、ボクはどうすることも出来なくて

ただひたすらに悲しくて、くやしくて

視界がゆがむ

堪えきれなくて、嗚咽がもれる

そうして、時間は止まってはくれなくて、お別れのときがやってくる
せっかくなかよくなれたのに、ホントは大好きだったのに…

「ボクはぁ、ずっと、大好きだったんだよ」
「プリムぅ…」

苦しそうなキリルの、最期の言葉
ぐしゃり
ぐしゃり
ボクのこころが砕ける音
あ、おんなじだ
こんなとこまで、ボクたちはそっくりで
ボクはただ、声が枯れるまで叫ぶしかなかった

やわらかくて暖かくて、いつもすこししっとりとしていた、キリルの白い肌
今はただ、さらさらとしていて、ひんやりと冷たい
頬に触れる手がふるえて、涙が止めどなく溢れる

「もう大丈夫だよ」
「ボクがずっとそばにいるよ」
「もうすぐキリルのそばに行くから、さみしくなんかないよ」
ボクはもう動かないキリルに、声にならない声で、やさしくやさしく話しかける

ホントは傷付けたくなかったのに、あんなにも傷付けてしまって
早く謝りたくて、伝えたくて、ボクはもみの木に縄をかける

「ごめんね、ごめんね、ホントはボクも、大好きだったよ、ずっとずっと…」
そんなふうに呟いて、ボクもこの世界にお別れをする

宙に浮く体

意外と気持ちがよくってさ
胸がドキドキして頭がフワフワして、早くキリルと会いたくて
ボクは、今度こそずっと一緒にいたくて、キリルのいるところに出かけたんだ

「かみさまの言うことなんて、聞かなければよかったな…」

そうして、ひろいひろい森にまたふたり、とうひの木の赤ちゃんが生まれて、ふたり寄り添って大きくなっていく
これからは、いつまでも一緒
ずっとなかよく、ずっとふたりきり
もうさみしくない
もう誰にも何にも言われない

キリルとプリムは、森のなかまたちに囲まれて、いつまでも温かくて幸せだった

あとがき - とうひの木、とうひの森

いわゆる処女作です。
ファンタジーみたいな雰囲気を、少し意識しています。

SPRUCE FOREST(トウヒの森)に住む男の子たちのお話で、このサイトのテーマカラーはこの森の色のイメージから取ったものです。
但し、そのままでは全くなく、かなり調整をしています。

ちなみに、Spruceは日本ではトウヒ(唐檜)と呼ばれています。
トウヒとはマツ科トウヒ属の常緑針葉樹のことで、北半球の亜寒帯から温帯にかけて、30種以上が分布しているようです。

大気汚染、酸性雨、乾燥には弱いものの、寒さや積雪には強いとされています。
地表の近くに浅く根を張る、浅根性の根を持つトウヒは、強風による風倒木被害が発生しやすいと言われる一方で、深根性の根を持つモミと比べればまだ移植が容易であるといった意見もあります。

また、針葉樹であるトウヒは、全ての葉で光を受けて吸収することが出来るように針型の葉を持ち、透過光・反射光といった散光を効率よく利用出来るため、散光成分の多い緯度の高い地域に適しているとされています。
広葉樹の葉と異なり、針葉樹であるトウヒの葉はあまり光を透過しないので、林の中は暗い場所が多いようです。

ドイツトウヒ(独逸唐檜/その他、オウシュウトウヒ[欧州唐檜]、ドイツマツなどとも言われる)はヨーロッパではクリスマスツリーとして広く使われており、多くの人々に親しまれています。
ドイツトウヒは陰樹であり、直射日光の当たらない日陰の下で生きていくことが出来ますので、日向を好む陽樹が育たないような場所でも生育が可能です。

なお、日本ではクリスマスツリーといえばモミ(樅)が有名であり、トウヒの名前はそれほど広く知られている訳ではないようです。
モミは樹形、葉の付き方がトウヒと似ていますが、樹皮や葉形、球果などに違いが見られる他、深根性の根を持つ点でもトウヒとは異なります。

作品の内容そのものは、クリスマスが特別に意識されているという訳では、特にありませんが、トウヒの森を話の舞台に選んだ理由にはやはり、トウヒがクリスマスツリーとして人々に“愛されている”という点が含まれます。

また、トウヒには耐寒性があり、寒冷地にも広く分布していることから、ひんやりとした空気の場所を舞台としたお話を作りたいという当時の自分の気分にぴったりであり、その点もトウヒの森を舞台として選んだ理由となっております。

ですので、そんな森の雰囲気なども想像しながら、楽しんでいただけたらなと思っています。

なお、作中に登場する丸太小屋も、トウヒの木で建てられています。
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